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闢発の妖精王1 壊滅編  作者: C先輩
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草を喰み、尻は濡れる

EL.F.にはレーダーがありません。複数の高性能なカメラを同期させた視覚のみで動かします。

高密度の素粒子はレーダー波を乱すので、あまりアテにならない事に加え、遠距離からの砲弾やミサイル攻撃よりも速く動けるEL.F.にはメリットが少ないのです。

 銀竜との死闘は、他のEL.F.達との戦いでは決して得られる事のない充実感を与えてくれた。

 その余韻に浸っていると、アイリスが機体チェックを終えて話しかけて来た。


「随分と消耗しましたね」


 アイリスは言うやいなや、自分の視覚上にフレイのパラメータ画面を表示させる。そこには先の戦闘でボロボロになったフレイの状態が克明に記されていた。

 生態金属繊維の疲労が酷く、一部は断裂している。特に負荷がかかり過ぎた上腕部は超重剣をもう一度振り回せば千切れそうな程だ。


 ――なるほど緊急事態である。


 もし今もう一度同じような竜に出会せば流石に勝てないだろう、とはいえ修理をしようにも、こんな場所で整備ドックは望むべくもない。

 いずれにせよこの場に留まっておくべきではない。急いで機体の高度を下げていった。


 雲を抜け、そびえ立つ山々を過ぎ、なだらかな丘陵地帯と、舗装もされていない土が剥き出しの街道が伸びる平原が見えてくると、それを望める丘の上へと着陸した。

 コックピットハッチを開けて身を乗り出すと、吹き抜ける風が草原を撫で、草花の瑞々しい薫りを鼻腔へと叩き付けてくる。空には鳥のような生き物が翼を広げて風を掴み、笛のような鳴き声を響かせて飛んでいた。


「いや待て待て」


 慌てて自分の姿を確認した。旧暦時代の布地を多用した旅装束をイメージした衣服を身に纏うその姿は、まさしく自分自身のアバターだ。脊髄と一体化した小型の素粒子エンジンが内蔵され、単独でも素粒子を制御でき、EL.F.の主機と同期させる事で乗数的に機体出力を上げる為のまさしく専用アバターだ。

 試しに制御下においた素粒子を巻き上げれば、たちまち自重となっている粒子を押しのけて身体がフワリと浮き上がる。

 そのまま機体から飛び降りて、音もなく着地、いや自分の絶叫と共に着地した。


「なんじゃこりゃ!?」


 風、匂い、音に景色――


 どれもこれもが圧倒的な情報量で、現実世界と何ら違和感が無い。だというのに自分がアバター姿で居る意味が分からない。EL.F.まで一緒なのだから尚更である。


「あ、味も見ておこう……」


 足元に生えていた雑草をむしり取って葉を口に放り込む。すると生薬のような青臭さが口腔を刺激し、噛めば噛むほど葉脈から滲み出る汁でエグ味が増していく。


「おぅふ」


 口の中が悲惨な事になってしまい変な声が漏れてしまった。洗ぐものをとメニューを呼び出そうとして、やはり応答が無くて項垂れる。

 思い返せばEL.F.のエキシビジョンマッチから帰宅して直ぐに寝てからというもの記憶が無い。これは夢だろうか、ベタだが頬を抓ってみた。残念ながら夢からは醒めなかった。

 ぺっぺと口から葉を吐き出して、草花生い茂る緑の絨毯へと腰を落とす。ややしっとりしていたが、目眩がしそうな現状に脳の処理を追いつかせる為、なにはともあれ座りたかった。


「俺は冷静、いついかなる時もユーモアを忘れない紳士をリスペクトする男……」


 口に出して自己暗示。言霊というのは先人の素晴らしい技術だと思う。


「なんて言っとる場合か!」


 堪えきれなくなって立ち上がる。先人の技術はアテにならなかった。

 だがそれも仕方ない。何せ目の前に広がる光景は明らかに()()なのだ。周囲の環境情報がもうこれでもかと、仮想空間である事を否定している。

 そして間違いなく、ここは自分の知っている現実でも無い。

 自然豊かな大地だ何だというのは仮想上で視覚的にしか知らない。人は結局、地球の汚染や海面上昇を抑えられなかったし、こういう自然豊かな大地を諦める他無かったからだ。


 ――異世界。


 脳裏に過ぎったのは、そんな非常識な可能性だった。何せドラゴンまで居たし。

 いやはや冗談は止して欲しい。大自然溢れるネイチャーワールドに、カプセル漬けの仮想暮らしオタクを放り投げてどうしろと言うのか。

 先週購入した劇場版さらば安全刑事のビデオも見ていないし、昨日の件で大会組織委員へ嫌味の一つも吐けていないのだ。何の因果で異世界サバイバルしなければならなくなるのか。


 そもそもやっていけるのか――


 自然環境、というのは知識としてある。空想生物蔓延る異世界というイメージも、娯楽作品で幾度となく見て来た。美しい風景とは裏腹に、どれほど過酷な環境であるのかというのかも。

 まず衣食住は全て自給自足だし、食欲や性欲、疲労による睡眠欲も全て管理しなければならない。カプセル暮らしでは考えられない不便さだ、本当に大丈夫だろうか。


 「魔物とか、居るんかね」


 あんなドラゴンが居たのだし、居るんだろう。

 有り難い事に身体は仮想で組み上げた一級品アバターだ。加えてこの上なく頼もしい愛機も一緒だが不安は拭えない。だってドラゴンまで居たのだし。


――そう、ドラゴンと戦ったのだ。


 夢のような時間だった。手に汗握る戦いとは、ああいう事を言うのだろう。

 あんな体験ができるなら異世界も悪くないが、EL.F.は兵器、消耗品だ。別の世界とあっては修理も弾薬補給もままならないが故に、もしかすると二度と修理できない可能性もある。

 

 代わりに魔法とか使えたりすれば良いのだが――


「ファイア!」


 当然無である。無性に恥ずかしかった。

 分かっては居たし、そんな気はしていた。でも少しくらい夢を見たって良いじゃないか。


「あぁ~どうするかねコレ」


 できれば文明的な生活を送りたい。が、そもそも人が居るのか、社会形成が成されているのかさえ分からない。ひょっとすると映画のように、猿しかいない惑星の可能性だってあるのだ。


 ――いやいるよね?


 自分で想像しておいて段々不安になって来た。これは是が非でも文明人を探し出したい。


 〈シュウ様、戻ってきて下さい〉


 考えを巡らせていると、頭の中でアイリスの声がした。

 あらゆる通信手段が不能となった中で、唯一生きていた無線通信だ。送受信機が脳へインプラントされているが故に、中継器が要らないから使えたのだろう。


 〈どうした?〉


 〈謎の一団を発見しました〉


 アイリスの報告は、AIにしては随分と胡乱な言い回しだった。

生のドクダミが蓄膿症に良いと聞いて、野草を見つけて生でいったら悶絶しました。

おまけに臭いのせいで、しばらく妹が口を聞いてくれなくなりました。オゥフ

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