期待?のルーキー
コロナワクチンの副反応でぶっ倒れていました。
脳がプルプルするんじゃ
宿でモズの話を聞いて、早速商人組合までやってきた。
扉を開けると、傭兵組合とは違って綺麗な絨毯敷きのフロアが目に飛び込んできた。調度品が適度に飾られ、訪れている商人と思わしき人々は皆それなりに身綺麗だ。
フロアの中央には、円形の受付テーブルが設置されている。その各窓口には列が出来ていた。並んでいるのは商人組合に不釣り合いな物々しい装備を纏った無骨な傭兵達だ。こちらと同じように依頼を受けに来たのだろう。
受付の前では、組合員と思わしき眼鏡を掛けた長髪の男が声を張り上げている。
「お集まり頂きありがとうございます!今回の討伐は国からの緊急依頼です!参加条件は戦士か魔法使いの方で、黒獣の群れを掃討するのに向く方です!等級制限は無いですが、実力優先となります!希望者はすぐに審査を行いますので、身分証を持ってお並び下さい!」
言われるがままに列の最後尾へ、しばらく並んでいると目の前に並んでいた大剣を背負った大男が居なくなり、目の前に受付の窓口と、そこに座る栗毛の女性が現れた。
「身分証をお願いします」
「傭兵証で良いんですよね?」
4級の刻印がされた傭兵証を渡す。
「はい、ありがとうございます。あ、ええっと」
受付のお姉さんは傭兵証を見ると、申し訳なさそうに、けれどハッキリとした口調で話しかけてくる。
「申し訳ありません。今回の依頼は確かに無制限ですが、危険度が高いので4級以下の方は基本的にお断りしているんです」
なんという事か、等級というのは思った以上に信用の秤にされているらしい。だがそれでは困る、受付のお姉さんはきっと、実力を過信したビギナーが危険を犯さないよう親切心で言ってくれているようだが、ありがた迷惑というものだ。
「おいなんだよ雑魚は引っ込んでろ時間の無駄だ!」
受付のお姉さんの声を後ろから聞いていたのか、並んでいた次の男が怒鳴りながら肩を掴んできた。バカでかい剣を背負っている筋肉達磨だ。傷だらけのスキンヘッドが中々いい味を出している。
そのまま男はこちらを押し退けて受付を始めた。
――中々無礼な奴である。俺も押し退けてやろう。
無礼な筋肉達磨を素粒子で浮き上がらせると、身体を逆さまにして空中で固定した。
「うおお!?」
男は後ろで暴れるが、空中でクルクルと回るだけで無意味だ。無視して受付に戻り、お姉さんに向き直る。
「私の等級が低いのは、傭兵になる必要が今まで無かったからです。実力は充分あると思いますよ」
「――あっ!?ええっと、あの」
「充分です。その方を降ろして頂けますか?」
動揺していた受付のお姉さんの肩に、そっと手を置いて話しかけて来たのは、先程声を上げて誘導していた長髪の眼鏡お兄さんだ。艶のある黒髪に整った顔立ち、世間一般でいうイケメンその人だ。
言われた通りに男を降ろして拘束を解いてやると、案の定騒ぎ出した。
「てめぇ、ぶっ殺すぞ!」
今にも抜剣しそうな剣幕だ、と思っていたら本当に抜いた。やはり痛め付けた方が良かっただろうか。
「静粛に」
それを制したのは、黒髪イケメンお兄さんだ。静かに、荒げるでもなく、ただ鋭利なその声色と眼光が、男を黙らせた。
凄いなイケメン。
「傭兵組合では多少粗暴でも許されているのか知りませんが、ここは商人の組合所、礼節ある立ち振舞をお願いします。何なら――」
イケメンが一瞬こちらを見て目線が合う、宿屋のオーナーならときめいたのだろうか。
「手加減してくれた彼の代わりに、私が処理しても良いのですよ」
「うっ――くそ!」
筋肉男は逃げるように走り去っていった。そんなに怖がる事も無いだろうに。
王国が誇る黒獣討伐の精鋭、白騎士隊。そんな国の英雄的存在の彼らから突如、緊急の応援要請の依頼が来て1日。
商人組合コーンロウ支部の依頼統括を務めるフルックは奔走していた。
「全く、我々は小間使いでは無いのですが」
要請の報せが届いた瞬間、フルックは面倒な事だと頭を抱えた。
単なる応援なら傭兵組合に直接出せば良い。そうしない理由を、フルックは承知している。国同士の情勢も、地政学的なリスクも、長年商人組合で仕事していれば自ずと分かるのだ。
――彼らは王都にこの一報が届く事を避けている。
考え得るのは貴族派の介入だろう。それによって、戦争の火種となる可能性がある事態が起きたという事だ。
フルックはすぐに動いた。依頼内容は公共事業の一種とし、黒獣の危険性がある場所を発見した為、白騎士隊にこちらから支援を依頼したという形に変えた。
内容はこうだ。黒獣討伐は完了したが、周辺調査は引き続き組合側が行う必要がある事、また妖精機が侵入できない場所もある為、小型の黒獣に対応できる実力を持つ傭兵が急遽必要となったという体で、募集をかけたというもの。
白騎士隊から提示された報酬額はかなりの金額だったが、フルックは頭を抱えた。
この金額なら1級以上の者ばかり募集しても充分だが、2級以上の傭兵は遠征に出ている者が多く、こんな短期間で人を集めなければならないとなると、運良く等級の高い者見つかるか、等級が低くても実力のある者をわざわざ見つけなければならない。
何せ時間が無い。フルックは仕方無く条件を一切設けなかった。
結果押し寄せてきた傭兵でごった返す受付場所で列整理を手伝いながら、受付の段階で目ぼしい人が入れば応接室に直接呼んで面談し、人数が揃った時点で打ち切る予定にしていた。
幸いにも、その日は優秀な傭兵達が集まって居た為、募集は順調だった。特に、1級の腕前を持つ最高峰の傭兵として名高いウィッツが居合わせてくれていたのが何よりの僥倖だった。
予定している募集人数もあと一人といった所で、その男は現れた。
シュウと名乗るその男は絡んできた男に対し、詠唱も予備動作も無く魔法を発動させ、空中で拘束してしまった。
フルックは震えた。
元傭兵として魔法を人並み以上には嗜んだ身フルックをして、今見た魔法が、何の魔法かさえ分からなかったのだ。
ただ、男が浮き、自由を奪われている――
火も起きず、風も吹かず、魔法の痕跡一つ残さず"結果だけ"見せているかのような魔法に、それを見ていた周りの人達も言葉を失っていた。
まさに未知の魔法である。
彼は言った。
〈今まで傭兵になる必要が今まで無かったのです〉
――なんという幸運か。
彼はきっと、どこかの国に仕えていた一流の魔法使いか何かだったのだ。それが果たして自由の身に憧れたのか、傭兵となって偶然にもこの依頼を見て来たという所だろう。ウィッツに加えて、更に有力な戦力のアテがついた。
フルックは書類上まだ目を通せていない者も居たが、すぐさま選考終了を告げた。




