今日も頑張る 夢の子悪魔
世の中に悪魔は数あれど、彼ほど数奇な運命を背負った悪魔はなかなかいない。
悪夢を見せる、夢魔族の小悪魔、彼の生き方を見てみよう。
お? オイラがそんなに珍しいか? 確かになぁ、オイラみたいな存在はそんじょそこらにはいないからな。今は休憩時間だし、相方との約束の時間までまだあるから話してやるよ、暇つぶしくらいにはなるだろ?
今夜もうなされている子供が1人できあがり。犬が大嫌いで正解だった。さすがはオイラだ、いい腕してるな。
犬に追いかけられる夢にしてみたら、寝たままなのに足がバタバタと動くほど怖がって、夢の中ではビービー泣きながら全力で走ってるんだ。
「ケッケ、怖い夢を見ている時の感情は美味しいなぁ」
うなされている子供の枕元には、その子と同じくらいの背丈で、夏の寝間着のような薄い服を着て、顔は青白く、頭にはくるくるとねじった角が生えた明らか人間では無い存在が立っている。
まぁ、オイラのことなんだけどな。
悪夢を見せて、人間の不快な感情を美味しく頂く悪魔がこのオイラ、『殺して魂を食え』なんて上の悪魔には言われるけど、人間の魂って食べにくいし味が濃すぎるんだよね。
そもそも言いつけに素直に従うなんて悪魔のやることじゃないだろ?
「おっと!」
「う~、う~ん、ハッ!」
おっと、目を覚まさせちまったから、危なく姿を見られる所だった。
オイラは悪夢を見せる事だけじゃなくて、姿を消す事もできるんだぜ。人間ってのは目に見えなければ、いないって思っちまうからな。
優越感っていうの? そんな気持ちに浸ってたんだよ。
「う、うわーん! お師匠さまぁ! 怖い夢みたぁ!」
あ~あ、布団に地図を描いちまっているよ。そんなに怖かったのかぁ?
しかし、お母さんじゃなくて、師匠とか言ってなかったか?
なんか、ドアの外から誰か走ってくるような音が聞こえるな、今のオイラの姿は人間には見えやしない。このまま待っていれば、バレやしないぜ、ケッケッケ。
部屋のドアが蹴り破られたかのような勢いで開いてさ、紺色のローブに、とんがり帽子を被った女性が部屋の中に飛び込んできたんだ。
片手には杖、もう片方の手には魔法に使うのか透明な玉みたいなものを持ってやがる。
「よくやった! ピロスカ!」
「お師匠さまぁ!」
ん? なんか変な事言わなかったか? よくやった?
普通『こわかったわねぇ』とか『もうだいじょうぶよ、私がいるからねぇ』とかになるはずだけど、それに、なんでこんな深夜に魔法使いの重装備なんかしてるんだ?
なんてオイラは考えてたんだけと、この時にはもう、この女の手の内だったんだよな。
「さーて、夢魔はいるかなぁ?」
この女、泣いている子供をほったらかして部屋の中をあちこち見て回ってたんだよ。ドアも開けっ放しでさ、オイラは物音がしないようにそっとドアを通ろうとしたんだけど、壁があるみたいに顔をぶつけちまったんだよ。
今も何されたかわかんないんだぜ、ドアは開いてるのに出られないんだよ、ガラスでもはまってるみたいに通れなくなってたんだ。
「みぃ~、つぅ~、けぇ~、たぁ~」
部屋の中を見回して女が顔だけをこっちに向けて、口だけがにやぁっと笑ってやがる。怖い、怖いぞ、何だこの人間、オイラの事見えてないハズなのにばっちり目があってたんだよ。
スッと手を上げて玉が光ったと思ったら、オイラの体が雷に撃たれたような痺れが走って、すごい痛みが襲ってきたんだ。
「あぎゃ~!」
あまりの痛みに叫んじまった。魔法を向けられた事は間違いないけれど、痺れが抜けなくて動けない。オイラはそのまま気絶しちまったんだ。
目が覚めた時にはオイラの体は小さくなって、水晶玉みたいなとこに入れられちまってたんだよ。
「目が覚めたようね、あなたの名前と年齢を教えてくれる?」
魔法使いの女はオイラにそうやって話しかけてきた。
悪魔がまともに答えるわけないのにさ、適当な事いってやると思ったんだよ。
「ドリルマ、42歳です」
「40!? 悪魔の中じゃガキンチョじゃん! ラッキー!」
あれ? 正直に答えちゃったぞ? なんでだって思ったけど、この女がべらべらとしゃべって、教えてくれたんだよな。
「ドリルマ、私に捕まえられたのは分かるわね?」
「オイラをどうしようってんだ!?」
「あなたを捕らえている水晶は自在球って言ってね、持っているとウソが付けない『正直者』になっちゃうの、しかも頼み事は断れない『従順』な態度をとるの、丁寧に話してね」
「答えて下さい、オイラをどうするんですか」
「あなたにはピロスカ、えっと、あなたが悪夢を見せた男の子に毎日悪夢を見せてやってほしいのよ、悪夢を見せる『努力』をしてほしいの」
オイラは恐怖におびえたね、この女、悪魔に『従順』『正直』『努力』なんて、天使のやるような事を強制してきたんだ。悪魔は反逆、嘘つき、怠惰だってのに、喋り方まで天使みたいな丁寧な物に変えさせられたんだ。
でも、自分の弟子に毎日悪夢を見せようだなんて、人間ってのは怖い事をやろうとするよな。オイラもずっと悪夢を味わえるから、まぁ悪くないからやってやろうって思ってさ。
それからは毎晩毎晩、ピロスカが寝ると同時に悪夢を見せてやったんだけど、こいつあっという間に耐性つけやがって。オイラが全力で力を使わないと怖がらなくなっちまったんだよ。
季節が変わる頃にはオイラは力の使い過ぎでやせちまって、死ぬ一歩手前くらいになってたんだよ。そうしたら、あの女がまたオイラの所に来たんだ。
「あら、あなたずいぶん痩せたわね」
「師匠、ぼく最近は怖い夢をあまり見なくなりました」
「そうなの? えっと、ドリルマだっけ? ちゃんとやらないと飢え死にするわよ?」
「そうです、ドリルマです、毎日夢を見せてますけど、嫌と思う気持ちが少なくてお腹が空いてます、飢え死にしたくないです」
この自在球のおかげで、全部正直に答えちまう。しかも「です」だの「ます」だの、喋り方まで操られるから、気持ち悪いったらありゃしない。
でも、死にかけのオイラには抵抗する気力も残ってなかったんだ。
「あら、そう、ピロスカの耐性が強くなってたのね、良い事だわ」
「師匠、褒めて頂き、ありがとうございます」
「ドリルマ、飢え死にしたくないならいい夢を見させてあげて、努力して目的を達成してもっと頑張りたくなるような夢よ、お願いね」
「はいわかりました」
この女は悪魔だ! いや、悪魔はオイラなんだけど、なんだその気持ちが悪い夢は!
そんな夢なんて食えるわけがない、食えたとしてもきっとおぞましい味しかしない。
悪魔に天使みたいな事をやらせ続けるなんて酷い拷問だし、天使が喜ぶ感情を食わせようとするなんて、いっそのことぶっ飛ばして塵にでもしてくれた方が嬉しいくらいだ!
でもな、この自在球の力なのか、オイラはこの日の夜に言われた通りの夢をピロスカに見せちまったんだよ。
翌朝こいつは初めてオイラに話しかけてきたんだ。
「ドリルマ、ありがとう! とってもいい夢が見れた、ぼく頑張るよ」
うわぁぁ!! ま、まずい! なんだこの甘ったるいような感情の味は! うっぷ、は、吐きそう。
夢を見せている間も甘い変な味がずっとしていたけれど、ありがとうなんて言葉を向けられたとたんに、味が一気に濃くなりやがった。しかも頑張るとも言っていきやがった。
ピロスカは爽やかな笑顔で部屋を出ていって、しばらくするとあの女がまたやって来やがった。
最悪な気分と思ってたんだけど、本当の最悪はこの後だったんだ。
「ドリルマありがとう、ピロスカ喜んでいたわよ、これから毎日お願いね」
「わかりました」
やめてくれ! ちくしょう!
自在球のせいで断れない!
お礼を言われた? 喜ばれた?
オイラは悪魔としてやっちゃいけない事を強要されているんだぞ!
拷問だ、悪魔の苦しむ姿を見て楽しむなんてこの女は、悪魔以上の悪魔だ!
閉じ込められているから死ぬことも逃げる事もできない。
しかも、ピロスカのやつ、こんないい夢の方もすぐ耐性をつけやがって、どんどん夢の内容を凝ったものにしないと夢すら見なくなりやがる。
クソ甘い味の感情を食わされながら、良い夢を見せるために『努力』をさせられる羽目になったんだ。
オイラは悪魔として最低最悪な事を強要され続ける、想像を絶する生き地獄。悪魔にとってはこの上ない苦痛を味合わせてくれたんだよ。
そんな生き地獄を100日あまり過ぎた頃、オイラにとっては永遠とも思える長い時間だったんだけど、妙な変化があったんだ。
「ドリルマ、今日もありがとう、良い夢がみれたよ」
「おう、いいってことよ」
あの甘ったるい感情の味が、食えるようになったんだよ。ありがとうとか言われた時の感情も美味しいって思うようになってさ、体にも変化が出てきたんだよ。
青白い、悪魔の皮膚の色が白にピンクを刺したような明るい色になって。
頭にあった角は小さくなって、ついに抜けちまった。生えかかってた牙もいつの間にか人間みたいな歯になってたし。
大人の悪魔になると黒い羽が生えるって言われてたのに、オイラには白銀に輝く白い羽が生え始めていたんだ。
「最近顔色もよくなったよね」
「ん? そうか? ピロスカの方は目の下のクマが消えなくなったな」
「勉強する事が多いからね、最近、寝る時間短いでしょ」
「なんでそんなに勉強するんだ」
「病気で苦しんでいたり、怪我で辛い思いをしている人を助けるためだよ」
ピロスカとも仲良くなったっていうの? よく話をするようになったんだよ。
今日も夢の事やピロスカが頑張っている勉強の事を話していたら、またあの女が部屋に入ってきたんだけど、今回は様子が違っていたんだ。
「さーて、実験結果は、どうかな?」
そんな事言って、オイラの入っている自在球に色んな道具をかざして調べ始めたんだ。
鼻歌混じりでさ、ニコニコしやがって。オイラは思わずポロッと口から言葉が出ちまったんだ。
「もう、ここから出してくれ」
「いいわよ」
「へ?」
ほんと、人間ってわかんない。悪魔を開放したら、恨みで殺されるのにバカなのかって思ったんだけど、オイラはそんなこと出来なくなってたんだ。
「だって、あなたもう天使なんだもん、そうよね、ピロスカ?」
「うん、今、師匠と調べて間違いなかった。ドリルマは天使だよ」
「天使が悪魔になる事を『堕天』って言うの。じゃあ、逆に悪魔に善行を積ませて善の感情を食べさせれば、悪魔が天使になる『昇天』も出来るって証明ができたわ」
自分の体の変化もあったから、天使になったのは間違いなかったさ。
悪魔のオイラに向かって『従順』『正直』『努力』を強制させた上に『感謝』『喜び』の感情を食わせて、ピロスカと仲良くする事で『友情』まで押し付けてきやがったんだ。
この師匠って女はそれが目的だったんだ。それが行き着くとこまでいって、ついにオイラから悪魔ってのをとっちまったんだよ。
自在球から出されたオイラは、銀色の光に体が包まれてピロスカと同じくらいの元の大きさに戻ったんだけど、悪魔じゃなくなったオイラには帰るところがなくなっちまった。
「オイラ、どうしたらいいんだ? もう魔界には帰れない!」
「ここに居たらいい! ぼくと一緒に困っている人を助けよう!」
「え? オイラが人助け?」
「夜眠れないで困っている人が沢山いるんだ、ぼくが眠りの魔法をかけるから、幸せな夢をみせてあげてほしい」
帰るところが無くなったオイラは師匠のとこで、ピロスカと一緒に勉強をはじめたんだ。
それで今は、医者になったピロスカと一緒に色んな人を助けて回ってんだ。オイラも寝ている人の怪我や心の傷を治せるようになったから、いいコンビになったと思うぜ。
元悪魔として、忠告しとくけど『人間は悪魔以上に悪魔』だからな、ひどい目に合わないように気を付けな。
なかなか珍しい体験談だろ?
オイラはこれで休憩終わったし、ピロスカとの約束もあるからもう行くからよ。また、どっかで会ったらよろしくな。
皆さま、読んでいただきありがとうございます。
夢幻企画参加の方々は多数いらっしゃいますので、どうぞ、他の作者様の作品もご覧ください。
よろしくお願いいたします。




