トイレのドアを開けると、そこはおねぇの異世界バーだった。
「今日も残業決定か…」
俺は会社のデスクに突っ伏した。デスクの上には資料の山が出来ている。
(三徹目の頭はろくに働かない…。気分転換でもするか。)
♢
トイレの個室に入り、スマホを弄る。
「この仕事が終わったら、バーにでも行って、美味い酒が飲みてぇな…。」
そんなことを呟きながら、【バー 美味い酒 店】と検索して、画面をスクロールしていく。
すると、奇妙な名前の店を見つけた。【おねぇの異世界バー "サリーレ"】
「異世界バー?なんだこれ。」
他にもツッコミどころがあったが、そのフレーズに興味を引かれて店名をタップする。
【扉を開けて♡そしたら、お店に来れるわン♡】
「なんだ、ただのいたずらかよ」
スマホの画面を消して、個室の扉を開ける。するとそこには…バーがあった。
♢
大きな木製のカウンター、薄暗いがいい雰囲気を醸し出している照明。色とりどりの酒瓶が並んだ棚。
カウンターの中には、屈強な体をしているが、ワインレッドのドレスを着こなした、おねぇがいた。
「いらっしゃーい♡よく来たわねン♡」
俺は反射的に回れ右をしようとしたが、後ろにある筈の扉がなくなっていた。
「そんなとこに突っ立ってないで、こっちにいらっしゃいな。」
おねぇが手招きするので、俺は怖々カウンターに近づき、席に座る。
「私は店主のサリーレよ。アナタ、お名前は?」
「…天城 昇です。」
「昇ちゃんね♡何飲む?」
「あー…じゃあ、ジントニックを」
おねぇの勢いに負けて、注文をしてしまったが、ここはいったいどこなのか。
落ち着いて周りを見回してみる。カウンターの端で、美女が1人で酒を飲んでいる。美女の格好はコスプレの様な緑色の服だった。そして、耳が大きくとがっている。
「…エルフ?」
「そうよぉ♡彼女はお得意様のリリーちゃん。可愛いでしょう?」
彼女の他にも、ドワーフや獣人など、人間ではない人々が、それぞれ酒を楽しんでいた。
俺は、出されたジントニックを1口飲む。
「美味い!!」
確かにジントニックなのに、今まで飲んできたものより数段美味かった。
「そう言ってもらえると、嬉しいわン♡…ねぇ、昇ちゃん。私でよかったら話し聞くわよ?」
すべてを見透かしたように、俺に問いかけるおねぇ。
おねぇは、俺の愚痴を全部聞いてくれた。
ドワーフのおっさんは俺の肩を叩いて励ましてくれた。
獣人の兄さんは、オススメの酒を一杯奢ってくれた。
…エルフのリリーちゃんは、ひっそりと酒を飲み続けていた。
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