傭兵ドラゴン
「うーん・・・・・・。綺麗に並べてもゴミに見えるな・・・・・・」
つーか、ゴミに見える時点で綺麗と言えないような・・・・・・。
「ですねぇ・・・・・・」
「ゴミじゃないッス!!」
あれから目的の棚を持ち帰らせて、ゴミを棚に飾ったわけだがやっぱりゴミにしか見えなかった。
ちなみにだが、帰りは3人になったのでドラゴンの手には持ちきれないので一人お口で輸送された。
「そう?僕はなんかカッコイイ気がする」
「そうッス!!弟くんは見る目あるッス!さすがあたしの子ッス!」
「ちゃっかり自分の子にすんな!」
つーか、こいつら順応早くね?
もうあのバカドラゴンと仲良くなってっし・・・・・・。
ドラゴンの無害さが伝わったのか、怖がっていた子供はあっというまにドラゴンに慣れてしまったのだ。
まぁ、いいか・・・・・・。
青年は破れたカーテンで前を隠していた。
服は洗濯して干してしまったからだ。
「俺はもう寝る。お前等もテキトーに寝とけよ」
「私達はどこで寝ればいいんですか?」
「わりぃが、寝床までまだ手が回ってなくてだな・・・・・・」
「あたしのお腹の上で寝るといいッス!」
「えー!いいの!?」
「もちろんッス!けもなー?も即落ちの心地らしいッス」
「けもなーってなんですか?」
「実はあたしもよく分かってないんスよね」
「おまえ、絶対寝返りするなよ・・・・・・?」
「この際人間さんも一緒にどうッスか?」
「断る!!」
「むーーー!」
まぁ、そんな感じで寝ようとしたんだが・・・・・・。
「煩くて寝れねぇ・・・・・・」
青年は小声で誰にも届かない文句を言った。
その原因は言うまでもなくドラゴンと子供2人だった。
「わー!ふかふか!気持ちいいー!」
「僕こんなの初めて!」
「ふふーん!どうッスか!けもなーも即落ちの破壊力ッスよ!!」
ドラゴンは仰向けでお腹に子供2人を乗せていた。
「破壊力なの?僕は癒し力な気がするー!」
「私もそっちかも」
「なるほどッス。なら癒しパワーって事にするッス!」
「そう言えば、あのお兄さんとはどういう関係なの?」
「そ、それ聞いちゃうッスか!?」
「僕も聞きたいー!」
「どうしよっかなーッス」
くねり。
ドラゴンは左右に腰をくねらせた。
「わーっ!」
「落ちる落ちる!!」
「ああっ!ごめんッスーーーっ!」
もういいかげん静かにしてくれよ!!
青年は一人、ドラゴン達から離れた場所に残しておいた壊れたベンチに寝そべり、毛布代わりの破れたカーテンを頭まで被り強引に眠りに付いた。
そして次の日の朝。
「なぁ・・・・・・。一体何がどうなればそうなるんだ?」
青年はまだ少し湿り気のある服を着ていた所で思いも寄らない事態に直面した。
「えっとー、ダメなんですか?」
「ダメだな」
「でも、母さんはそう言ってましたけど・・・・・・」
「うんうん。僕もそう聞いたよ!」
誰だよ母さん!!
青年は頭が痛くなりそうだったので、片手で顔半分を抑えるように覆った。
原因はドラゴンである事を察したからだ。
「あのバカドラゴンの言う事を信じすぎだぞ・・・・・・」
「あのー父さん。母さんの悪口はよくないと思うの」
誰だよ父さん!!!!
「んーーー?なんの話ッスか?」
そしてこの原因であるドラゴンが日課のマウスウォッシュと狩りから帰ってきた。
「いつの間に俺が父親でお前が母親になってんだよ!!」
「し、しまったッス!!」
「子供に変な事吹き込んでんじゃねー!!」
「ちょ、ちょっとくらいいいじゃないッスかー」
「俺はまっさらな穢れ無き独身だーーー!」
「あ、あたしだって、ぴっちぴちの独身で穢れ無き乙女ッス!」
「なら、父親と母親の話しは無しだ!いいな!!」
「人間さんにならあたしは穢れてもいいッス。・・・・・・ポッ」
「俺が穢れるからノーだ!」
「ひどいッスーーー!!」
「どうしよう。これ、離婚って言うんだよね?」
「私達はどっちに付けばいいのかな・・・・・・?」
「そこぉ!リアルおままごとやめぃ!!!!」
くそ~!くだらん事で朝から精神的なスタミナが減っていく。
「百歩譲ってこのバカドラゴンを母さんと呼ぶのは許してもいい。だが、俺まで巻き込むのは無しだ」
「もう、照れなくてもいいのにッス」
「照れてねぇよ!!」
「だとすると、お兄さんの事はなんて呼べばいいんですか?」
「いや、それでいいだろ?」
「兄ちゃんってこと?」
「兄さん?」
カハッ!
青年はふらつき方膝をついた。
まさか、兄さん呼びの威力がこれほどとは・・・・・・。
「どうしたッスか?」
「いや、何でもない。それでいいぞ」
「兄さんですね。分かりました」
うんうん。
やはり悪くないな兄さん。
「兄ちゃん兄ちゃん!!」
「連呼すんな。一回にしとけ」
「おにぃちゃ~~んッス!!」
「・・・・・・・・・・・・」
青年はドラゴンを見て微妙な顔をした。
「お前はやめろ・・・・・・」
「なんでッスか!」
「お前絶対俺より年上だろ?それに母親役はどうした?」
「あたし自分の年齢わかんないんスよねー。だから永遠の15歳ッス!!」
ドラゴンは生まれてからずっと年を数えてこなかった。というより、ドラゴンという種族自体が長命な為に年を数えるという習慣そのものがない。
「永遠の15とか、もはやどう突っ込めばいいかもわかんねぇ・・・・・・」
「ん~、ダメなんスか?」
何がダメってそりゃぁ・・・・・・。
青年は改めて考えた。ドラゴンが永遠の15歳だった場合について。
特に問題は無い・・・・・・か?
いや、むしろいいな!それでいこう!!
青年はむしろ都合がいいことに気が付いた。
「すまん、それで問題無かったわ。お前は今日から永遠の15歳だ」
「おにぃちゃ~ん!ありがとッス!!」
「人間だと結婚とか出来ない年齢だったりするが、俺的には好都合だったわ」
「ッス!?」
ドラゴンはそれを聞いて固まる。
「た、たしか18歳からでしたよね?」
「僕もそう聞いた気がする」
こっちでもそこは同じなのか。
「で、でも3年経てばいいんスよね・・・・・・?」
「でも永遠だからなぁ」
「うぎゃぁぁぁ!!設定ミスったッスーーー!!!!」
「お前の頭上かお腹辺りにこう、そんな感じのネームプレートかウィンドウを付けたいもんだ」
「よくわかんねッスけど!!止めて欲しいッス!!」←(永遠の15歳)
「ぷっ!」
「それなんか楽しそう!」
「笑わないで欲しいッス!!」←(永遠の15歳(笑))
「さて、今日もやる事山積みだしやっていくかー」
「はーい」
「うん!」
「待つッス!さっきのは無かった事にして欲しいッスーーー!!」←(永遠の15歳(笑))
ドラゴンの必死さに免じて『(永遠の15歳(笑))』は無かった事になりました。
そして、朝ご飯を終えてから青年は次にやろうと思っていた事を発表した。
「さて、今日は寝床作りをするぞ」
「寝床ならコレでいいじゃないッスか」
ドラゴンは自分のお腹をポンッ!と叩いた。
「ダメだ。いつかは自立するんだし、いつまでも腹の上で寝るわけにはいかんだろ。普通の生活送れるようにしとかねぇとな」
「却下ッス!それなんか寂しいッスよ!!」
「言っとくが、これはお前の為でもあるんだぞ!硬い床の上でいつもと違う仰向けで寝続けるとか、いつか体を悪くするぞ?たまにならまだいいが、毎日なんてのはそれこそ却下だ!」
「あたしの為だったんスね!なんか嬉しいッス!!」
ドラゴンは両手を合わせきらきらした目で青年を見た。
「良かったね。母さん」
「もしかして兄ちゃんって、ツンデレだったり?」
「そうなんスよ!なんかこう冷たそうにしておいて優しいんスよねー。もうドラゴンごろしなんスからーん」
「やべー奴に聞こえるからやめい!!」
竜殺しとかマジ勘弁だぞ・・・・・・。
ぜってー別の意味で誤解されるし。
もしかしたらドラゴンを絶滅に追いやった男なんて扱いになるかもしれん。
コイツがラストドラゴンらしいしな。
「とにかくだ!寝床作りをする事は決定事項だから協力するように!」
「はーい」
「うん。わかった」
「人間さんにお願いされたら断れないあたし、マジ健気でいい女ッス。さぁさぁ、お買い得ッスよーーー!!」
「金ならないぞ」
「いまなら無料で24時間毎日ついて行くッス!」
「タダより怖いものはないな・・・・・・」
そこらのストーカーよりもひでぇ。
「もうちょっとデレて欲しいッス~!!」
「そもそもデレた覚えねぇっつーの!それより話が進まねぇから、ちょっと静かにしろ!!」
青年は寝床作りに当たって気になっていた事を姉と弟に聞いた。
「なぁ、この世界で手っ取り早くお金を稼ぐ方法って何か無いか?」
「稼ぐ方法ですか?」
「ああ。なんかあったりしないか?魔物討伐とか薬草採取とかなんか護衛的な奴でもいいんだがな」
バカドラゴンの力を借りればどれも余裕だろうしな。
「えっとー、確か傭兵ギルドというのがあったような気がします」
傭兵かぁ、冒険者よりも荒事専門ってイメージがあるが大丈夫か?
「一応それ詳しく聞いてもいいか?」
姉の話をまとめるとこうだ。
傭兵ギルドは国が作った物らしく、国からの依頼は勿論だがお金を出せば一般市民でも依頼を出せるところらしい。
で、それを見て引き受けた傭兵達が依頼の解決をしてくれるとのこと。
国運営の冒険者ギルドって感じだな。
だが、国が管理してるだけあって傭兵登録は厳しく、ルールや罰則等もキッチリしているか・・・・・・。
普通に考えりゃ登録が厳しい上にルールや罰則もキッチリなんてやる奴多くない気がする。
だが、もしだ。人数それなりにいるなら報酬がそれだけいい可能性がたけぇ。命がけな依頼もあるだろうし。
だとすりゃ、登録がどうなってるか次第だがこっちには好都合すぎる。
「なぁ、バカドラゴン。傭兵になって金稼ぎしてみたいんだがいいか?」
「もちろん、応援するッスよ!」
「いや、お前もやるんだよ」
つーか、メインで頑張ってもらわねーとな。
「あ、あたしッスか!!」
「そうだよ。この2人の為にも頑張ってもらわんとな」
「母さん頑張って!」
「いいなぁ!なんかこう悪いモンスターとか悪人を懲らしめるんでしょ?いいなぁ!カッコイイなぁ!!僕もやりたいー!!」
「危ないからお前はやめとけ!」
「けちーーー!!」
母は子供の言葉を聞いてやる気満々になった。
「あたしは正義のドラゴンッスからね。もう頑張っちゃうッス!むふーーー!!」
そうと決まれば姫さんとこ行かないとな。
姫さんに頼めば国が運営してんだから顔パスで登録できんだろ。
青年は傭兵登録して金を稼ぐことに決め、姉と弟にその事を伝えて留守番を頼んだ。
「留守番頼んだぞ。あと、暇なら掃除でもしといてくれ」
「はーい、留守番ですね。あと、母さんと兄さん。怪我には気を付けて帰ってきてね」
「おう!」
「美味しいお土産よろしくー!」
「任せるッスー!!」
「寝床作りの為だっつーの!!」
ドラゴンと青年はお城に向かって出発した。
そして、以前と同じようにドラゴンを外に待機させ、城の中で青年は傭兵登録の件で姫と交渉をしていた。
「それで、傭兵になりたいと?」
「ダメか?」
「いえ、あのドラゴンの力をこちらも利用できるわけですし、悪くは無いのですが・・・・・・」
「言っとくが、割に合わないやつとか戦争に巻き込まれるのは断らせてもらうからな」
ま、敵国がまた侵略とかしてきたら今住んでる教会も無事じゃないだろうから、防衛っていうのであれば協力してもいいかもだがな。
姫さんは『それは残念ですね』と言って、何か悩んでいるようだった。
「どうしたんだ?」
「えーとですね。我が国はドラゴンの手を借りて窮地を乗り切ったわけですが、国民達にはその事をあまり知られてはなくてですね」
戦争の時には味方を巻き込まない為に、ドラゴンには単独で動いて貰っていたからだ。
主に敵の補給物資を狙って灰にさせたり、敵の通り道に陣取り行き来の妨害させたりだった。
「おそらく、ドラゴンを連れて歩かれると余計な混乱を生む可能性がありまして・・・・・・。実際、近くの町ではドラゴンの飛んでいる姿を見て不安の声をあげる者もいると報告があるくらいなのです」
「なるほどな・・・・・・」
ドラゴンは人間より遥かに強力な力を持った生物であり、依然として恐怖の対象だった。
いくら無害とはいえ、知らない者が多い現状では登録は簡単ではない。
「だが、逆にこれはチャンスだと思わないか?」
「どういう事です?」
「ドラゴンを大々的に手懐けたって宣伝ができるだろ?傭兵登録して依頼を解決させれば、そのいい証明になるしな。そうすればこの国を侵略しようなんて考える奴も減るだろう?」
「確かに。そう考えれば最初の混乱は些細なものとも言えなくもないですね」
おし、傭兵登録はうまくいきそうだな。
「分かりました。ですが、少しばかり条件があります」
「条件?」
その条件はドラゴンが人に飼い慣らされたように見えるよう、鞍や手綱を付ける事だった。
青年は鞍や手綱を付ける話をしにドラゴンのとこに行くと、ドラゴンからさらに条件を出されたのだった。
「鞍や手綱は付けてもいいッス。けど条件があるッス!!」
どうせなでなでとか添い寝ーとかだろ?
めんどくさい奴だ。
「一応聞くがその条件ってなんだ?」
「あたしも鎧を着てみたいッス!なんかこうかっちょいいのお願いするッス!!」
「お前の体がもう天然の鎧みたいなもんだろ。いるのか鎧?」
「ふぁっしょんってやつッス!」
「ファッション感覚で鎧を着ようとすんな!!」
鎧は命を守る為のもんだし、このバカドラゴンサイズとか鍛冶屋のおっちゃんが困っちゃうだろ。
「全身は難しいと思いますが、兜と胸当てくらいならばなんとか・・・・・・」
「マントもお願いするッス!!白がいいッス!」
「そのお前に乗っかる俺の事も考えろっつーの!恥ずかしいだろが!」
「人間さんも同じの着ればいいと思うッス!」
青年はそのドラゴンに跨る自分の姿を想像してみた。
「・・・・・・ダメだな。マントは黒に決まってんだろぉ!!」
青年は悪ぶったりするのが好きで黒がお好みだったりしたのだ。
「嫌ッス!!白もしくはピンクッス!!」
「アホか!こうダークで寡黙な感じがカッコイイんだよ!ピンクなんか論外だ!!」
「あたしは乙女なんス!清楚な白か可愛いピンクッス!!」
「かっちょいいはどこ行ったーーー!!」
「可愛いはかっちょいいんス!!」
「それを言うなら可愛いは正義だ!!」
姫は青年とドラゴンの言い争いを見て深い溜息をした。
なぜなら他にも決める事があるからで、再度言い争う姿が想像できたからだった。
「・・・・・・あと、傭兵名も決めなければならないのもお忘れなく」
傭兵名とはつまりチーム名の事である。
「ダークギガインパクトォ!!」
「ラブリーハートォがいいッス!!」
青年とドラゴンの方向性はまったくの別ベクトルであった。
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総合評価6P、評価P2P、ブクマ数2(2020/10/23)