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ドラゴンかーちゃん!

 階段を上がった先には3つの部屋があり、青年はとりあえず近くのドアを開けた。


「ここも散らかってんなぁ。・・・・・・ここって子供部屋か?」


 その部屋は小さめの服やぬいぐるみなんかが、ボロボロの泥付きで散乱していた。


「ここも、使えそうなのは無いな」


 クローゼットなんかもあったが、目的のものでもないので青年は放置することにした。


「言っとくがゾンビがいたら怖いとかじゃないからな!って誰に説明してんだか俺は・・・・・・」

「ドッドッドラゴン どんとこいー♪ ドラドラドラゴン ないすぼでぃ♪」


 相変わらず間抜けなドラゴンの歌が続いていた。


「恐怖心が紛れるのはいいが、油断してる所を襲われそうで怖いな」


 青年は隣の部屋のドアを開けた。


「なんか暗い・・・・・・」


 部屋の窓はカーテンによって光を遮られており暗くなっていて視界が悪かった。


 バタン。


 青年は部屋に入らずにドアを閉めた。


「・・・・・・暗いし後回しにしよう」


 そして青年は最後の部屋のドアを開けようとした。


 ガッ!


 だが、開けようとするも何かが邪魔をして開かなかった。


「中にある荷物でも倒れでもしたのか?開かねぇ。昔あったなぁそんな事が、地震で廊下の荷物が倒れてトイレに閉じ込められて、ドアを強引にぶっ壊して出たんだよな」


 だが、その後帰ってきた母親にガッツリ叱られ、しばらくのあいだ青年の家のトイレはのれんが設置された。


  でも怒られたのは今でも納得がいかないんだよな。緊急時なら仕方ないだろう。

  危うくテレビドラマのごく○ん見逃すところだったし。


「いっちょ、前と同じで力ずくで開けてみるか」

「ドッドッドラゴン パワフルだー♪ ドラドラドラゴン 狩もするー♪」


 青年は勢いよくドアを蹴破った。


「一番端の部屋だけあって、日当たりよし!窓からの光がちゃんと入ってる!ちょっとホッとした」


 見た所中は物置だった。

 木箱やダンボールみたいな箱が色々山積みされていた。


「これとか使えそうだな。本棚じゃないが頑丈そうだしいいな」


 青年が見つけたのは資材置き場と化していた棚で頑丈そうな鉄製で、高さは2mで横が3.2m程で3段になっていた。

 青年はこれを貰って行く事に決め、棚の中の資材をどかしていく。


「ドッドッドラドラ りょうさいだー♪ おっとにつくすーいいドラゴンー♪」

「いや!お前独身だろが!」


 ガタッ。


「ん?今なんか物音しなかったか?」


 青年は嫌な予感を覚えつつ物音がした方に向かう。


「ひぃっ・・・・・・」


 そこに居たのは2人の子供だった。中学生くらいの女の子と小学校低学年くらいの男の子。

 青年を盗賊や強盗犯とでも思ったのだろう、怖がるように身を寄せ合い小さくなっていた。


「はぁ・・・・・・やっぱ人が居るんじゃないか。バカドラゴンのやつ、誰も住んでないみたいな事言いやがって・・・・・・」

「こ、この子だけは見逃してあげて下さい!」

「・・・・・・なんか勘違いしてるようだが、俺は君達に何かするつもりは無いぞ?まったく」

「そ、そうなんで・・・・・・。きゃぁぁぁぁ!!」


 女の子の方がいきなり青年の方を見て叫び声を上げ弟をより抱き寄せた。


「いや、俺は何もしないって言っただろうが!」

「う・・・・・・」

「う?」


 青年の後ろから何故か声がした。

 それだけで、青年はソレが何であるかを察した。


「うごぁーーー!!」

「やっぱりゾンビかよーーーーーーーーーー!!」

「愛らぶドラゴンー♪ それゆけドラゴンー♪ セクシーどらごんー♪」

「歌がうぜーーー!!」


 青年はドラゴンの歌に文句を言いつつ近くにあった少し重めの木箱を投げつけた。


「う、うごぁ!!うごぁーーー!!」


 ゾンビは仰向けに倒れ木箱が重石の様に上に乗っかり立つことが出来ずにもがく。


「おい!今の内に逃げるぞ!!来い!!」

「え、えっと・・・・・・」

「ゾンビになりたいのか!急げ!!」

「は、はい!!」


 青年は急ぎ近くの窓を開けて叫んだ。


「おい!バカドラゴン出番だぞ!!」

「時にはー、切ないー♪ 事も、あーるーけーどもぉーーー♪」

「歌に集中してて聞こえてねーーー!!」

「おーーーいぇーーーい♪」

「おーいえーい!じゃねーよ!!」


 青年は木箱を歌っているドラゴンの頭に投げつけた。


 ドンッ!!


「んー?どうしたッスか?」


 硬い鱗と頑丈な体を持つドラゴンに生半可な攻撃等通じない。当然のように特に痛がる様子も無く、ドラゴンは青年に気が付いた。


「ゾンビがいたんだよ!逃げ道が無いからここの窓から逃げようと思ってな!手を貸せ!!」

「了解ッス!!」


 ドラゴンは両手を受け皿にするように2階の窓にくっつけた。


「おし!お前らその窓からドラゴンの手に飛び乗れ!!」

「ひぃっ!」

「お、お姉ちゃん怖い・・・・・・」


 ドラゴンを見て固まる子供達。


  ちっ。

  そりゃ、見た事もないドラゴンの手にいきなり乗れ!と言われても怖いよなぁ。

  つってもゾンビが目の前だしなぁ。


「あれは子供ッスか?まさか、あたしの知らない間に作ったんスか!?」

「んなわけあるかーー!!」

「ずるいッス!あたしとも作るッス!!」

「絶!対!不!可!能!!!!」

「むーーー!!」


  いかんいかん。

  いつものような悠長な会話してる場合じゃなかった!


「大丈夫だ!そのドラゴンは俺に絶対服従だからな!!」

「そ、そうなんですか?」

「愛の奴隷って奴ッス!!」

「ちげぇよ!!」

「うげぇーーー!!」

「ちっ!もう時間稼ぎは無理か・・・・・・。仕方ねぇ!!」


 青年はちんたらしてられないと思い、子供2人を両脇に抱えてドラゴンの手に飛び乗った。


「せ、セーフ!危なかったぜ・・・・・・」


 ゾンビは太陽の光に当たりながら窓から手を伸ばして、うごぁ、うごぁーと声を上げていた。

 もうすでに太陽は夕日になっており、ゾンビを倒すにはいたらないようだ。


「あのゾンビの火葬も頼むぞ!」

「了解ッス!!」


 ドラゴンは窓から出ていたゾンビの上半身を口で咥えて引きずり出すと、火を吐き出しお口火葬した。ただし、その口からは焦げ臭い香りが漂った。


「じーーーッス」

「っ!!」


 ドラゴンは2人の子供を見つめていた。カワイイ物をお持ち帰りしたいという目で見ていたのだが、ドラゴンを初めて見た子供にそんな事分かるわけも無く、視線から逃れるように2人の子供は青年の影に隠れた。


「何で俺にくっつくんだ?」

「うずうずッス!」

「お前はやめろ」

「仲間ハズレ反対ッス!!」

「体格差を考えろって前にも言ったろうが!!」

「じゃぁ、みんなあたしにくっつくッス。ヘイっかもんッス!!」


 ドラゴンは両手を広げ期待に満ちた目で、青年とその影に隠れている子供達を見つめた。


 ひゅーーーん・・・・・・。


 しかし、誰も動くことはなく、乾いた風が吹いた。


「・・・・・・この広げた両手をあたしはどうすればいいっすか?」

「・・・・・・降ろせばいいんじゃねーか?」

「うがーーーッス!あたしの寂しい気持ちをもう少し汲んで欲しいッス!!慰めてちょーだいッス!」

「お前は少しの間静かにしてろ!これから、この子達に色々事情を聞くんだからな」

「後でなでなでして欲しいッス!!」

「わかったから、静かにしてろ!」


 青年は2人の子供に事情を聞いた。


  なるほどな・・・・・・。


 戦争で両親と家を無くして彷徨ってたようだ。

 そんな時、家族もなく家も無くさまよっていたある男と出会い、あの家で共同生活を送るようになったのだと言う。が、それも長くは続かず、一緒に暮らしていたある男が吸血鬼に襲われゾンビと化してしまったらしく、そのゾンビと化したある男から身を守るためにあの部屋に篭城していた。


 そういうことらしい。


「ぐぬぬぬ~!!吸血鬼マジ許すまじッス!!」

「静かにしてろって言ったろうが!」

「しまったッス!今のノーカンでお願いするッス!!」

「バカドラゴン選手ボッシューット!!」

「・・・・・・ボッシューットってなんスか?」

「この世界にあるわけないか・・・・・・。つまり、なでなでの権利没収って事だ」

「ガビーーーンッス!!」

「あれは放っておいていいから、あと2つだけ確認させてくれ」

「あ、はい・・・・・・」

「あの家はお前達の家ってわけじゃないんだな?」

「そうです。空家だったので勝手に使わせてもらってました」


  おし!

  なら、遠慮なくあの棚を持って帰れる。


「んで、最後に一つ。お前達はこれからどうするんだ?」

「・・・・・・・・・・・・」


 その質問の答えが返ってこない。

 弟は姉にしがみつき、姉は下を向いた後に顔を上げ何かを言おうとしたのか口が開いて閉じた。しかし、肝心の声が出てなかった。

 姉はその後、心配そうに青年を見つめていた。

 まるで、私はどうすればいいかをその瞳で問いかけているようだった。


「もう一度聞くぞ?お前達はこの後どうするつもりなんだ?」


 青年はなんとなく察していながらもあえて同じ質問をした。

 青年からすればこの子供達は赤の他人、もっと言えば異世界の他人だ。

 いつかは元の世界に帰る事を考えれば、最後まで面倒見切れない相手に甘くは出来ない。この世界で生き続けなければいけない子供にとって、その甘さは良くは無いからだ。


「・・・・・・どう、すればいいですか?」

「自分で考えろ!俺はお前の親じゃない、自分で考えてやってくしかねぇんだ」

「なら、あたしの子供になるッス!!」

「お前は黙ってろ!大体お前はドラゴンだろーが!!」

「むーーー!!」

「その・・・・・・助けてはくれないんですか?」

「助けて欲しいのか?何も言わずに助けてもらえると思うなよ?世の中そこまで甘くはねーんだ。助けて欲しいならちゃんと言ってみろ」

「助けてあげればいいじゃないッスかー!!」

「だからお前は黙ってろって!これは大事な事なんだよ!!」

「た・・・・・・助けてください!!」

「・・・・・・お前の弟も同じか?」

「・・・・・・」


 その弟は姉にしがみついたまま小さく頷いた。


「お前の姉ちゃんのようにちゃんと言え。お前男だろう」

「・・・・・・ください」

「きこえねーな」

「僕達を助けてください!!」

「さて、どーすっかなー?」

「ひどいッス!!そこまで言わせて断るッスか!!」


 ドタドタドタッ!


 ドラゴンは小走りで子供二人に近づき、両手で掴み自分のお腹に押し付けるようにホールドした。


「だめッス!もう、この子達はあたしの子供ッス!!離さないッス!!」

「邪魔すんな!いいか?世の中何でもただでなんて事は無いんだ!これから先もそんな風に助けて貰えると思わせない方がいいんだ!!」

「大丈夫ッス!あたしは助けるッス!!」

「だからそういう事じゃねーんだっての!!バカドラゴンが!!」

「な、何でもしますから助けてください!」

「ほら、何でもするって言ってるッスよ!!」

「なんだろなぁ。ドラゴンの魔の手から助けてって言ってる様に見えた・・・・・・」

「そんなバカなッス!!」

「ぼ、僕も何でもする!だから助けて!!」

「やっぱりドラゴンが悪役に見えるなぁ」

「あたしは正義の味方ッス!!」


  ドラゴンが正義の味方ねぇ・・・・・・。

  悪い奴でないのだけは認めるが、問題は絵面だな。


「わかった。その子供を助ける事を認めてやる。だから一旦降ろせ」


  元々助ける気ではいたんだが、このバカドラゴンのせいで俺が悪いみたいになっちまったな・・・・・・。


「やたーーッス!!」


 ドラゴンは喜び両手を離し空に掲げばんざいをした。

 青年は急いで走り体で受け止めるべくスライディングをした。


「うおおおい!!それじゃ降ろすじゃなく落とすだ!!」

「いけねッス!」


 ドラゴンは素早く落ちる前に子供を両手で空中キャッチした。


「おい。体で受け止めようとしたスライディングが無駄になったんだが?」

「立ち上がればいいと思うッス」

「服とか土で盛大に汚れたんだが?」

「洗えばいいと思うッス」

「お前はいつもいつもどうして考えなしなんだーーー!」


 ポスッ!


 青年はドラゴンのお腹に全力の拳をぶつけたが、その白いお腹には柔らかい羽毛みたいな毛が生えてるため、殴った時の音はカワイイ音となった。


「くそっ。やっぱ全然きかねぇ・・・・・・」

「じーーー」

「な、なんだ?い、痛かったとかか?」

「えいッス!!」

「ぐおっ!!」


 ドラゴンは子供2人と青年をまとめで抱きつくように自分のお腹で抱きしめた。


「こ、こら!離せ!!」

「人間さんが一度に3人もいるッス!!やたーーーッス!!」

「だから離せっちゅーの!!」

「プイッ!さっきくっついてくれなかったからやッス!!」


 日が沈み始めた中、世界最後のラストドラゴンは今日も楽しそうだった。


「あと!お前口臭いぞ!」

「その手には乗らないッス」

「た、確かにコゲたような匂いがぁ・・・・・・」

「そ、その手には乗らないッス!」

「確かにコゲ臭いね・・・・・・」

「の、の、乗らねッスーーー!!」


 あと、ラストドラゴンは明らかに動揺していた。

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