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ドラゴンの火葬

  ゴシゴシ、ゴシゴシ、ゴシゴシ。


「こら!下手に動くな!俺が落ちて怪我するかもだろうが!」

「でも、これ結構くすぐったいッス!許して欲しいッスよー。あははっ!」


 青年とドラゴンは飯を終えて体を洗っていた。当然だが、湯船はない。捨て置かれていたタライに水を入れ焚き火で暖めたお湯と、破れた布切れを使ってゴシゴシと石鹸で泡立て洗っていた。


「人間さんはこうやって体を洗うんスねぇ。初めて知ったッス」

「体を洗ったりは、基本家の中だろうからな。知らなくても無理はないな」


 ドラゴンの体を洗い乾かすと、お腹の羽毛がふわふわふかふかになっていた。


「お腹がなんかふわふわするッス」

「この羽毛部分引っこ抜いて布団かダウンにしたいくらいだな」

「怖いッス!やめるッス!どうしてもと言うならあたしと番になるッス!!」

「軽い冗談だが、ほんとに良い触り心地になったな」

「このふわふわ維持すれば、他の人間さん達と仲良くなれたりするッスか?」

「それは知らん。だが、間違いなくケモナーなら即落ちクラスだろ?」

「けもなーってなんスか?」

「特殊な趣味の人達だ」

「んー、よくわかんねッス」


 青年とドラゴンが眠りに着いた夜。

 招かれざる客がドラゴンの住処である教会の前に現れた。


「ふははは!ついに見つけたぞ!我が野望と計画に気付き邪魔しおった愚か者の住処を!!」


 その者は人の姿をし赤い瞳に黒いマントをたなびかせ、月の光に照らされながら木の上に立っていた。


「しかし、教会とは嫌な所に住みおって・・・・・・。そうだな、出てきてもらうか」


 そう、彼は教会とか十字架とか銀とか聖水とかにんにくとかが嫌いなのである。


「出て来い!教会なんぞに住み着いたこの臆病者!!そんなに我が怖いか!!さぁ!姿を現すがいい!!!」


 彼は教会に向かって大声を出した。外におびき出す為に。


「返事がないな。まるで何事もなかったようだ・・・・・・。じゃない!どんだけ熟睡しておるのだーーー!!!」


 彼は教会に入りたくなかったので、なんとか外に出てこさせようと声を上げ続けた。


「今出てきてくれたら、もれなくこの血塗られた飲み物が付いて来る!!さぁお買い得ですよ!!」


  あー、なんか外が騒がしい。

  しかも、血塗られた飲み物ってんな気色悪いのいるかよ・・・・・・。


「いつ出てくるの?今でしょ!!」


  今でしょじゃねーよ!!

  いらんわ!!


「さぁさぁ!!よってらっしゃい見てらっしゃい!!楽しい切断マジックの時間だよ!!!」


  どうでもいいから寝かせろ!


「ここにありますは、何の仕掛けもない木箱」


  マジックなんだから仕掛けはあるんじゃないのか?


「ここに入って貰うのは10年前は美女だった人です!!」


  10年前とか言うなよ。

  マジ、お前が切断されるぞ?


「さぁさぁ!!見所ですよー!今からこの刃物で切断していきますー!!えい!せいやー!トゥース」


  お前がとっとと切断されちまえ!で、静かに寝かせろ!


「さぁ!!木箱の中の10年前は美女だった人は無事なのでしょうか!!でででで~~~ん!!ジャガジャン!!」


  マジックなんだから無事なんだろ。分かってる分かってる。


「なんという事でしょう。匠によって切断された木箱。その営利な切り口は切られた事を感じさせず」


  リフォーム番組かよ!!


「生きています!なんと生きています!」


  そりゃそうだろうよ。


「バラバラになったのに生きています!動いています!頭と胴体が離れてるのに動いています!!」


  なんでだよ!!


「うげーーー!!」


  ってまたゾンビかよ!!!!

  しかもマジックじゃねぇし!!

  ん?ゾンビ・・・・・・?

  確か人間を優先的に襲うとか言ってなかったか?やばくね?


 危険を感じた青年は体を起こし、ドラゴンを起こすことを決める。


「おい、起きろ」


 外のやつに気付かれないようやや小声でドラゴンに声を掛けた。


「むにゃッス。人間さんも一緒に寝るッス」


 ドラゴンは寝ぼけた様子で青年を抱き寄せる。


「うおっ!違う起きろって!あーでも高めの体温とこのふわふわと石鹸の香り・・・・・・。また眠りたくなるな。なっ!!痛い!!痛い!!この馬鹿力ドラゴン!は、放せ!!」

「むにゃむにゃッス。人間さん大好きッス」

「こうなったら!」


 青年は羽毛みたいな毛を1本引っこ抜いた。


「うぎゃーッス!!」

「やっと起きたか」

「もう、なんスか?夜這いならもう少し優しくお願いするッス」

「ちげぇよ!!外で騒いでるやつがいるから、どうにかして欲しくて起こしたんだよ。どうもゾンビ使いみたいだぞ?」

「ゾンビ使いッスか?初めて聞いたッス。でも興味あるッス!色々教えてもらいたいッス!!」

「ソンビを飼おうとするなぁーーー!!!」


 青年とドラゴンは教会の外へ出ると、先ほどまで叫んでいたやつが地面に座り込んでいじけていた。


「あー喉いてぇ。喉が枯れそう。・・・・・・くそ、なんで出てこないんだよ」

「いや、出てきたぞ」

「んー、この人間さんがゾンビ使いッスか?」

「おお!やっと出てきおったな!!この泥棒めが!!」

「泥棒とか言ってるがお前何したんだ?」


 ドラゴンは相手の顔を見て機嫌を悪くした。


「人間さん注意するッス」

「何をだ?」

「我が計画を何度も何度も邪魔しおって!!今日ばかりは穏便には済ませてやらぬぞ!!」

「こいつ吸血鬼ッス!」

「なぬ!!」

「その通りだ!!我こそは闇に潜み人間を喰らいし者。さぁ!恐れおののくがいい!!」


 吸血鬼は両手を広げリアクションどーぞと言わんばかりの顔をした。


「その前にさっき泥棒とか計画とか言ってたが、その辺聞かせて欲しいな」

「恐れおののけよ!!」

「ちなみにあたしは何もしてないッス」

「と、こいつは言ってるが?」


 ドラゴンの言葉を聞いて吸血鬼はこめかみをピクピクさせ、怒りを顕にした。


「しらばっくれおって!!そんなわけなかろぉ!お前だろ!我が作りしゾンビ兵をちょくちょく強奪しておったのは!!!」

「ほう・・・・・・」

「ち、違うッス!!あたしはただ仲良くなったゾンビさんをここまで招待しただけッス!!」

「仲良くって具体的には?」

「抱きついてきて甘噛みされたッス」


「「ゾンビが甘噛みするわけないだろう!!」」


「ハモんないで欲しいッス!というかあたしも混ぜてッス!」

「ええい!だまれぃ!たかが2~3体なら黙って見逃すつもりでおれば、気付けば82体いたゾンビ兵が今や43体だぞ!!どんだけゾンビ兵強奪すれば気が済むのだ!!」


 青年は両手でTの字を作った。


「すまんな。そこの吸血鬼タイムだ」

「少しだけだぞ?」


 ドラゴンと青年は吸血鬼から少し距離をとり小声で会話する。


「俺が見たことのあるゾンビは、あいうえおゾンビとうがゾンビの4体なんだが?どういうことだ?」

「それはッスね。連れてきたゾンビさん達は、あたしが寝てるうちに外に出ちゃって朝になって太陽にやられる事が多いんスよ」

「で?」

「その度にゾンビさんを連れてきたッス」

「それで39匹もか・・・・・・、怒って当然だな」

「納得しちゃイヤッス!あたしの寂しさの方を理解して欲しいッス」

「はぁ・・・・・・」


 青年は吸血鬼に向き直り話を戻した。


「そっちが怒っている事は理解した。で、そっちの要求はなんだ?」

「ダメッス!!こんなやつの要求なんて聞く必要ないッス!!」

「ふははは!!物分りがいいな人間。人間・・・・・・おお!!お前人間だったのか!?」

「そうだが?」

「よし!ならば貴様の体をよこせ!!我のゾンビ兵にしてやろう!!!」

「断る」

「なぬ!貴様、39体のゾンビ兵の被害を1体のゾンビ兵で許してやるのだぞ?なぜ断る!!!」

「死にたくねぇからだ!あと、ゾンビの数だけ人間殺してんだろ?死んで詫びろ!!」

「人間さんカッコイイッス!!」

「いや、これ普通だから・・・・・・。つーか勝手に話し進めちまったが、あれ倒すの頼んでいいか?」

「任せるッス!あたし的に元々駆除対象ッスからやる気でるッス!!」

「ふん!甘く見るなよ!!我的には元々お前は報復対象なのだからな!!」


 吸血鬼はそう言うとものすごい速さでドラゴンに向かって走る。

 ちなみにドラゴンは何もしない。


「かかってくるッス!!」


 吸血鬼はドラゴンの目の前で小さいコウモリの大群に化けてドラゴンをすり抜けての背後で元に戻った。

 ちなみにドラゴンは何もしない。


「お前の血も吸い尽くしてくれる!!」

「やれるもんならやってみるッス!」


 吸血鬼はドラゴンの首筋に鋭い牙を突き立てて固まる。

 ちなみにドラゴンは何もしない。


「あがっ!!!!な、なんだこの固さは!!!!ぐはっ!!」

「チェック冥土ッス!!」


 吸血鬼の牙が欠けて唖然としてるところを、ドラゴンが尻尾で叩き落として口に咥える。


「くそっ!この!!口を開けんか!!ついでに臭い!!」

「臭くないッスーーーーーーー!!!!!」

「あ、あち!!あじぃーーーーーー!!!」

「汚物は消毒ッスーーー!」


 ドラゴンはそのまま火を吐き吸血鬼を火葬した。


「まったく弱いくせに失礼な吸血鬼ッス!ペッペッ!!」

「つーか、手馴れてる感じだったな・・・・・・」

「人間さんの敵はあたしの敵ッスからね!慣れてるッス!むふーーー!!」


 ドヤ顔で吐き出された吐息が青年に届いた。


「・・・・・・う」

「どうしたッス?」

「お前ほんとに口臭いぞ・・・・・・」

「うぎゃーーーッス!!お口洗ってくるッスーーー!!!」

「いってらー」


 ドラゴンは夜空を飛んでいった。


「まぁ、吸血鬼を口の中で焼いた匂いだと思うけどな。さて寝るか・・・・・・。あ?」

「はーーー!!」

「ひーーー!!」

「ふーーー!!」

「へーーー!!」

「以下略」


 吸血鬼が従えていたゾンビ兵がちらほら姿を現した。


「ぎゃーーーーーーーー!!ゾンビィーーーー!!!」

「はーーー!!」

「ひーーー!!」

「ふーーー!!」

「へーーー!!」

「以下略」

「それ退場するときの掛け声じゃねぇのかよ!」


 青年はドラゴンが戻るまで逃げ回り続けて、眠りに着いた。

 ちなみに、ドラゴンが言うにはゾンビは誰かが管理しないとうっかり太陽の日を浴びてしまうらしいので、勝手に骨になるだろうとの事。


「あーよく寝た」

「そうッスなー」

「でも、もう昼っぽいなー」

「そうッスなー」

「そういやお前はなんで鼻声なんだろうな?」

「き、気のせいッス」

「んおーーー」

「何か聞こえなかったか?」

「き、木の精ッス!」

「ちょっと、あの辺で口開けて貰おうか」


 青年は太陽の光がガンガンに当たっている所を指差した。


「ご、ごめんなさいッス!!」

「いいから吐き出して来い!!」


  コイツ、ちゃっかりゾンビを確保してやがった。

  ほんとやめてくれよな。

  俺が襲われるんだから。


「次ゾンビ捕まえてきたら、俺はマジ帰るからな!」

「いやッス!!もうしないから許して欲しいッス!!」

「俺が帰った後なら好きにしていいが、俺がいるうちはゾンビは禁止だ。いいな?」

「了解ッス!!!」

「そういやあいつゾンビ兵とか言ってたが、ゾンビ増やして何するつもりだったんだ?」

「きっと碌でもない事だから、とっとと忘れるッスよ」

「それもそうか」


 これからやることは、昨日青年が3本の加工された木の柱を組み合わせたU字型のやつをドラゴンが壊した入り口になるべくきっちり嵌め込む。

 ただ、細かい作業がちょっとあるが・・・・・・。


「この木長くないッスか?切らないんスか?」

「長い部分は地面に埋めるからいいんだ。そのほうが安定するからな」

「このどろどろしたやつはなんすか?」

「セメントもどきだな。乾燥すると岩みたいになるやつ。木の根元はそれで固めて埋めるのと、木の枠と石の隙間ができるだろうからそこを埋めるのにも使う。ちゃんと壷の蓋をしとけ乾くと使えないからな」

「了解ッス!」

「さてと、まずは・・・・・・」


 青年は金槌と教会の倉庫にあった梯子を持ってドラゴンが壊した入り口に向かう。


「えーっと何をするんスか?」

「こうするんだよ」


  ガン!


 金槌を当てた部分の石が砕けて落ちていく。


「ぎゃーーーッス!壊さないで欲しいッス!!」

「落ち着け。木の枠が綺麗に入るように形を整えてるんだ。ついでに脆くなった部分の撤去もかねてる」

「なるほどッス!でも驚いたッスよ!」

「それはいいから、食料を探してきてくれ」

「了解ッス!!」


 ドラゴンが戻ってくる頃には形を整える作業も終わった。


「あとはあの木枠を設置すれば終わりだな」

「憧れの人間さんの家っぽくなってきたッスなぁ!嬉しいッス!」

「あとは、セメントもどきがどれくらいで固まるかだな」

「そのせめんと?もどきが固まるまで支えてないといけないんスよねぇ?」

「んにゃ、そこまでしなくていいようにはする。セメントもどきに小石をまぜたり、大きな石を柱の周りに置いてストッパーもする」

「なるほどッス」

「そういや、扉はどうする?」

「欲しいッス!扉がないからいつもゾンビさんが出てっちゃうんスよねぇ」

「・・・・・・無しでいいか」

「じょ、冗談ッス!扉も欲しいッス!!」


  扉を作るとなるとまた材料が足りねぇ。

  昨日今日で、また姫さんを頼りに行くわけにもいかないしな。

  ま、扉だけならその辺の木を切り倒して材料にするのもありか。

  木は一度乾燥させたい所だが、キッチリ嵌め込む必要のあった木枠じゃないんだ乾燥して多少縮んでも大丈夫だろ。

  やるにしても明日になるだろうけど。


「で、何か食べれるやつは獲れたか?」

「今日は鹿を捕まえてきたッス!あと、蜂の巣ッス!!」

「なぬっ!!」


 青年はおもわず距離をとった。


「大丈夫ッス!ちゃんと、あの小さいのは追い払って来たッスから」

「そ、そうか。とってきてくれてありがとな」

「えへへ~。人間さんにお礼言われるとなんだか照れるッスよ」


 ラストドラゴンは本日も嬉しそうだった。

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