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むかーしのドラゴン

「おいおい・・・・・・。分からないってどう言う事だよ!」

「そのままの意味です。勇者召喚によって、呼び出された勇者が元の世界に戻ったという記述も無かったですし、分かってないのです」

「俺を元の世界に返さない為の嘘じゃないだろうな?」

「嘘ではありません!勇者を召喚したという記述も、千年前というとても古い物で読めなくなった部分も多くハッキリした事が言えないのです。ただ、戻れないとも言えないので可能性はあるかと」

「呼び出すなら、帰す方法も準備しておけよ!!」

「国の一大事だったので、申し訳ありません」

「一大事ってハゲないようにだろうが!」

「大事な事なのです!」


  そんなに髪が大事なのか!?

  言えるなら『もういっそハゲてしまえ!!』と言いたい!

  協力してもらわんと困るから言えないが・・・・・・。


「・・・・・・わかった、そういう事で納得してやる。だがな、帰る方法を探すくらいはしてくれ」

「分かりました。元の世界に戻る方法の調査はお任せ下さい」


  さて、こっからが交渉だな。

  あのバカドラゴンの危険性を材料にどれだけ金を引き出せるかが鍵だな。


「んじゃ、こっから交渉だな。単刀直入にこっちも言わせて貰うが、金が欲しい」

「具体的にどのくらいですか?」


  ちっ。この姫こっちの答えづらい質問しやがって・・・・・・・。向こうが提示した額の1.2~1.4倍くらいを交渉で目指そうと思ってたのに。

  もしかしてわざとか?


 青年は姫を見ると、その目は楽しんでそうな目をしていた。


「まったく分かっててそういう事言いやがって・・・・・・」

「人聞きの悪い事を言わないで下さいね?そちらがこの世界のお金の価値とか理解して無いだろうからとか、うまく言いくるめて安く済ませようなんて考えてませんよ?ええ、まったく」

「いや!おま、絶対分かってて言ってんだろ!!あのドラゴン暴れさすぞ!!!」


 姫はそれを聞いてつまらなそうな顔に変わる。


「ちょっとした可愛い冗談じゃないですか。こちらの都合で召喚したのに支度金等の援助も無しというのは酷な話ですし、ご用意はしたいとは思っています」

「そうだろうそうだろう。ん?したいとは?」

「正直財政もきつい所なのでたいしたお金は出せないのです」

「財政がきついってなんでだ?」

「2ヶ月ほど前に戦争があったからです。劣勢状態で戦いましたからそれなりの赤字が出たのです」


  そんな事言って安く済ませようって腹か?

  つっても戦争があった事と劣勢だった事は事実だろうしな。でなきゃあのドラゴンを頼らんだろう。

  戦争はいろんな物を消費するお金や武器や食料、中でも人の命。失った人材を確保するにはお金をいくら注ぎ込もうと簡単ではないからな。なんせ人間は2ヶ月では育たない。

  まずいな、安く済まされても仕方ない流れにされそうだ・・・・・・。

  ならば・・・・・・。


「わかった。赤字で金があまり出せないのは理解した。だがな、こっちも生活が掛かってるんだ」

「では、どうしろと?」

「あまり出せないなら、少なくても定期的な援助を要求する」

「なるほど、そう来ましたか」

「ああ。だから今回は金でなくていい。金は次回からにする」

「今回は現物支給という訳ですか。ですが、物にもよりますが用意するにもお金が掛かりますので、限度はあると思ってくださいね?」

「ああ。わかっている」


 青年はドラゴンの家の補修で必要になりそうな道具と材料、それと調味料として塩を要求した。


「ぷっ!あーおかしいー!!」

「な、なんで笑ってやがる!!」

「あー、ごめんなさい。でもおかしくって。そうですよね、あなたは勇者召喚で呼ばれた人ですものね。そこらの商人のようながめつい要求をする訳なかったですね」

「つまりあれか、俺が割に合わない無茶な要求をする可能性を勝手に警戒してたと・・・・・・」

「そうです。警戒は不要だったようで思わず笑ってしまいました。いいでしょう、あなたの要求された物はすぐにでも用意させます。それでいいですか?」


  逆に言えば、俺の要求が想定より安すぎたとも言えるんだよな・・・・・・。

  ちっ!もっと色々言えばよかった・・・・・・。


「・・・・・・助かる」

「いえ、こちらも助かります」


 交渉ごとを終えた青年と姫はドラゴンが待つ門の外まで戻ったのだが・・・・・・。


「なにやってんだお前・・・・・・」

「おお!思ったより早かったッスね。あたし大人しく待ってたッス!これでご褒美ゲットッス!!!」

「これのどこが大人しく待ってただよ!!」

「ダメッスか?」


 ドラゴンは待っている間、城の外で右に左にゴロゴロ転がり続けていた。

 その為に地面がボコボコになってしまっていた。


「ダメだ!何やったか知らんが地面がボコボコになってんじゃねーか!!」

「がーーーんッス!!ほんとにボコボコになってるッス!!」

「しかも気付いてなかったんかい!!」

「あはは・・・・・・」


 土まみれのままがっくり肩を落とすドラゴンを見つつ、姫は引きつった笑みを浮かべた。


「悪いな。石鹸も一つ追加して貰えるか?」

「ええ。わかりました・・・・・・」


 姫はため息をついた。


  城の前だし、後で見栄え良くする為に整えたりするんだろうな・・・・・・。


「そのー・・・・・・。色々悪いな」

「ま、まぁ。大丈夫ですこのくらいなら・・・・・・」

「なんの話ッスか?」


「「はぁ・・・・・・」」


 能天気なドラゴンを見て青年と姫は深いため息をついた。

 そして、ドラゴンの足に用意してもらった物をまとめてくくりつけ、前と同じように手で運んで貰い青年はドラゴンの住処まで帰った。


「もう少しで夕方かな・・・・・・。今日は姫さんに用意してもらった木を削って嵌め込むとこで終わりにするか」

「あたしは何すればいいっすか!!何でも任せるッス!!」

「そうだな。食いもんの確保と飲み水の確保だな」

「えーーー!あたしも人間さんみたいに何か作りたいッス!!」

「お前が使えそうな道具もないし、そのバカ力じゃ出来上がる前に壊すのがオチだ。やめとけ」

「むーーー!でも、今度何かチャレンジさせてほしいッスよ!」

「仕方ない。何か考えておいてやる」

「やたーーーッス!それじゃちょっとひと狩り行って来るッス!!」

「おう任せた」


  あいつでも出来そうなのってなんだろな。


 青年は木をミノと金槌で削りながらそんな事を考えていた。


「ただいまーッス!!」

「おう。おかえり」

「いいッスなぁ。ただいまと言ったらお帰りを言って貰える生活・・・・・・!感動ッス!!」

「そんなに感動することか?」

「当然ッス!!帰っても誰も居なくて明かりもない。そんな暗い家に入る感覚はとても寂しいんスよ!!できれば『ご飯にする?お風呂にする?それともあたし?』くらいのサービスもほしいッス!!」

「一応聞くが最後の選んだらどうなるんだ?」

「あ、あたしにそれを言わせる気ッスか!!」

「お前以外に誰がいんだよ」

「そ、それは・・・・・・。く、詳しくは言えないッスが、あえて言うなら朝まで寝かさないッス。ぽっ」


 ドラゴンは視線を逸らし、やや恥ずかしそうにもじもじしていた。


  まぁ、予想はできていたけどな。

  俺のいた世界にもあったセリフだが、どこで覚えたんだろうなコイツは。

  しかし、やっぱこいつの相手は疲れる。


「はぁ・・・・・・」

「な、なんスか?」

「・・・・・・ご飯にするか」

「なんでッスか!ここはあたしを選ぶ流れッスよね!!」

「そんな流れなどないだろが!!」

「むーーー」


 もぞもぞ・・・・・・。


 ドラゴンが持ってきた袋がうにうにと波のように凸凹が上下した。


「そういや、お前その袋は何だ?もぞもぞ動いてるようだが・・・・・・」

「こ、これは・・・・・・。お、乙女の秘密ッス!!」

「怪しい・・・・・・」

「怪しくないッス!!全然怪しくないので気にしないッス!!」

「気になる・・・・・・」


 青年はもぞもぞと動く袋近付き開けようとする。


「ダメッス!!乙女の秘密を見ようとするのは反則ッス!!」

「ダメだ。なんか嫌な予感がするから」


 あわあわするドラゴンを無視して青年は袋を開けた。


「ぅがーーー!!」

「ぎゃーーーーーーーーー!!またゾンビかよーーーーーー!!」


 青年は袋から出てきたゾンビから離れ距離を取った。


  ちっ。

  あの袋は太陽の光を遮る為か・・・・・・。

  しかも夕日じゃ、殺すには至らないようだ。


「うがちゃん!ダメッス!!いい子にしないとまた土に還されちゃうッス!!」

「いい子にすれば飼ってもいいとでも思ってんのか!!」

「ほんとに、ダメッスか?」

「うるうるした目でみてもダメだ!つーかどこで拾ってきたんだよ!」

「近くの森で見かけたからつい捕まえちゃったッス。てへッス!」

「てへッが可愛くない!」

「ひどいーッス!」

「やかましい!てか、ついって犬や猫じゃあるまいし連れてくるな!!子供か!!」

「そういう時もあったッスなぁ。いい思い出ッス」

「思い出に耽るな!反省しろ!そして土に還せ!!」

「うがーーーー」

「ゾンビうっさい!!」


 ゾンビはドラゴンが責任を持って火葬し、お墓の下に還しました。


「ったく・・・・・・。なんでゾンビなんて連れてくんだよ」

「人間さん達の代わりッス。あたしは人間さん達に怖がられるッスから」

「怖がられるのも分からなくもないが、みんながみんなじゃないだろう。なのになぜゾンビ・・・・・・」

「そんな風に思えるのは人間さんが他の世界から来たからじゃないッスか?きっと、あたしみたいなドラゴンと、人間さん達が仲良く暮らす夢のような世界なんスよね。あたしだって出来るならそんな世界に行きたいッス」

「俺の世界にはドラゴンなんていないけどな」

「まさかのドラゴンの絶滅した世界ッスか!!どうして、人間さんはあたしを怖がらないッス?」

「知らん。それより気になるのは、どうしてゾンビを人間の代わりにするくらい人間と仲良くしたいんだ?」

「そうッスねぇ。まず話が通じるし、それに子供の頃助けられたからッスかねぇ」

「助けられた?」

「あたしが今の人間さんの半分くらいの大きさの頃の話ッス。あたしはまだ一人で飛ぶことも出来なくて、一人だと外にも出して貰えなかったんス。あたしは外に出たくてじぃちゃんにお願いして、背中に乗ってお外を飛んで貰ったりしてたッス」

「じぃちゃんいいやつだなぁ」

「そんな時、いきなり強い風が吹いてじぃちゃんの背中から落ちちゃったんスよ。その頃のあたしは弱かったッスから、地面に落っこちて痛くて動けなかった所を助けてくれたのが、人間さんの子供だったッス。と言ってもその子供さんは、あたしを犬や猫の仲間みたいに思ってたようだったッスけどね」

「さっきのいい思い出ってそれか」

「そうッス!!とても楽しかったッんス!!あたしにとって初めての友達だったと思うッス!」

「友達がいるじゃん!ゾンビいらなくないか?」

「あたしは数日の間、馬小屋で子供達に隠されるように世話されてたッス」

「まだ続きがあるのか・・・・・・」

「飽きたッスか?んー、ここから先は面白くもないしやめておくのもいいかもッス」

「いや、一応聞いておく」

「んじゃ話すッス。いつものように、あたしは近付いてくる人間さんの足音を聞いて、喜んで馬小屋を出たんス。でも、その人間さんはいつもの子供さんじゃなく大人だったッス。あたしは子供と大人の違いもその時よく分かってなかったんで、そのまま飛びついたら驚かれて蹴られて逃げられたッス。あたしは何が起こったのかまるで分かってなかったッス。しばらくして、数人の人間さんの大人が怖い顔で武器を構えてやってきて、あたしは怖くなって逃げ出したッス。んで、あたしを探してたじぃちゃんに無事出合って今に至るッス」


 なるほどな。

 肉食恐竜育てておっきくなったらどうなるかなんて、容易に想像つくしそりゃそうなるわな。

 ・・・・・・だが、分からんのはやっぱコイツの方だ。


「それだと、やっぱ人間おっかねー!じゃないのか?」

「そうッスねー。あたしが武器持った怖い顔の人間さんが怖くて逃げ出した訳ッスけど、今のあたしを人間さんが怖がって逃げ出すのはそれと同じだと思うんス。で、大きくなったあたしは人間さんの怖い生き物で、大人の人間さんはそれが分かってたんスよね。だから仕方がない事なんだってあたしは思ったし、怖くない事を分かって貰えればあの子供達のように、また友達になれるんじゃないかって信じてるんスよ」


  やべー。

  コイツいいやつ過ぎだろ・・・・・・。

  むしろ俺よりいいやつだわ。

  疲れるやつって認識も少しは改めるべきかもしれないな。

  でも、だからってゾンビは無理だがな!襲われるし!

  ん?


「つー事は人間の友達が出来ればいいんだよな?なら――」

「かれしが欲しいッス!!」

「は?」

「かれしが欲しいッス!!」

「・・・・・・いや今さっき、友達って――」

「ソレはそれで、コレはこれッス!あたしは彼氏がほしいッス!!」

「わかった。無理!!」

「諦めないで欲しいッス!きっとなんとかなるッス!!」

「ならねぇよ!!!!」


  やっぱコイツの相手は疲れる!!

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