ドラゴンのお留守番
「まさか掃除の前に墓作る事になるとは思わなかった」
残った骨と衣服を教会の裏手にドラゴンが掘った穴に埋め、青年は墓石に良さそうな石を探しゾンビ達の名前を彫る。
「いちいちちゃん入れるのは面倒だし、纏めてあいうえおちゃんでいいか。たぶん俺の世界の文字読めるヤツはいないだろっ」
金槌とちょっと太めの釘を使って溝を掘っていく。
「ちっ!思った以上に面倒だな。やりすぎるとひび割れるし。木にナイフで文字を刻む方が楽だったかもしれん・・・・・・。人間式なんて言わなきゃ良かった」
どうもこっちの世界の人間の墓も基本は墓石が主流らしく、人間式の墓をと言った手前石でやるしかなかったのだ。
「基本的な溝は出来たな。後はナイフで少し削って文字を整えつつ太くすりゃ完成だ」
「人間さんどうッスか?」
「もう少しで完成だ。あとはこれを上に乗せて人間の墓だ」
「人間さんはほんと器用ッス!尊敬ッス!!」
「尊敬してるとこ悪いが、食べるものは?」
「任せるッス!沢山用意してお礼するッス!!」
「多すぎても困るんだがなって、あいつもう行きやがった」
ナイフで削り終えると日は高くなっていた。
「朝飯は抜く派な俺の腹具合からみてそろそろ11時前後かな?正確な時間が分からんが、腹減ってきたなぁ」
ドォン!
近くで何かが落ちてきたような音がした方を見ると食料を探しに行ったドラゴンだった。
「おまたせーーーッス!いいもの見つけたッス!!」
「お、お前何かにたかられてないか・・・・・・?」
「あたしは気にしないッス。ほっとけばそのうちいなくなるッスよ」
ドラゴンは何か小さいのが無数に飛び回るのを気にせずに青年に近付いていく。
「で、良い物なんスけど!これッス!!甘くてとろける魅惑の果物ッス!!!」
クリーム色や茶色の2色で縞々でグラデーションかかった丸い物体、そのドラゴンの言う果物とは・・・・・・。
「それは果物じゃない!!蜂の巣だーーーーーー!!!しかもパッと見スズメ系ぃ!」
青年は全力で距離を取った。
「えーと、これ嫌いだったッスか・・・・・・?」
ガックリ肩を落とすドラゴンに別の意味で焦る青年。
「ち、違うぞ!嫌いじゃない!」
「良かったッス!」
ドラゴンは安心したのか青年に向かって歩く。
「ちょっ!く、来るな!!」
「どうしたッス?ああ、なるほどッス!」
「良かった分かってくれたか・・・・・・。それじゃあまずは――」
「照れてるッスな!照れなくてもいいスけど、それはそれで可愛いッス!!ささっ、遠慮なく受け取るッス!!」
ドラゴンは気を良くしたのか速度を上げて向かっていく。大量の蜂にたかられながら・・・・・・。
「こっち来るんじゃねーーーーーーー!!」
「照れなくてもいいッスよ!!でも、もっと照れてもいいッス!!」
「ちげぇーーーーーーから!!」
「ツンデレさんな人間さん待つッスよーー!」
「誰が待つかーーー!!あとツンデレ違う!」
青年とドラゴンの追いかけっこが終わったのは、蜂がドラゴンを攻撃するのを諦め逃げ去った後だった。
「はぁ、はぁ・・・・・・。クソっ!腹減ってんのにこんなに、はぁ。走らせやがって・・・・・・」
「ごめんッス。まさかこれ果物じゃないとは知らなかったッスよ。蜂という生き物の巣だったんスねぇ」
「そうだよ!あと、お前は大丈夫みたいだが蜂は毒針があって人が刺されて死ぬこともあるんだからな!」
「おおう・・・・・・。あの小さいの毒持ちなんスか。知らなかったッス」
「だが、蜂蜜うめぇー!疲れた後は余計にうまく感じる。しかし、見た目スズメ系と思ったが蜜蜂系なのか?蜜多い・・・・・・」
考えても無駄か。
ここは異世界なんだしそういうもんなんだろう。
青年はドラゴンが持ち帰った蜂の巣の一部を切り分けて蜜を啜った。
「ホラお前も食べな」
「あたしも食っていいッスか?ありがとッス!!」
「いや、お前が見つけて取ってきたもんだろうに」
「そうッスけど、あたし的には人間さんに全部あげるつもりで取って来たッスから。嬉しいッス!」
ドラゴンは切り分けられた蜂の巣を豪快にそのまま口に放り込んでムシャムシャ食べた。
おいおい、そのまま食うのかよ。
蜂の巣丸ごとってうまいのか?
まぁ、蜂の幼虫である蜂の子だけならそのまま食うやつもいたが・・・・・・。
「うーむ、このうねうねするのは食う気になれんな・・・・・・。俺は蜜だけでいいか。なぁ、これも食うか?」
「ん?それもあたしが食べていいッスか?」
「おう。そっちの鳥もそろそろ焼けるしな」
今焼いてるのはサイズは少し落ちるが昨日取り逃がした鳥と同じやつだ。
リベンジでまた捕まえて来たらしい。
「ありがとッス!!ああ、これが間接ちゅーってやつッスねー!」
「変な言い方すんな!」
ドラゴンは青年の食べ残しの蜂の巣を口に放り込みムシャムシャ食べた。
「今回は足だけにしとくか、昨日のトカゲは片足だけでもう食えなくなったし。捌くの面倒だし内臓系は食う気しないしな」
「そんなんでいいんスか?」
「量的にもそれで十分だ。だから残りはお前が食え」
「ありがとッス!!」
食事を終えてゾンビの墓を完成させ、いよいよドラゴンの家の掃除をしようとしたのだが別の問題が浮上した。
「ちゃんと見てなかったがこれ危ないな・・・・・・」
「どうしたッスか?」
「お前が壊した入り口だよ。この辺とか周りがひび割れてるだろ?放っておけばさらに崩れていくかもしれん。最悪バランスが保てずにこの建物全部が崩れてなくなるかもな」
「こ、困るッス!!どうすればいいッスか!!!」
「俺もこういうのに詳しくはないが、思いつくのは木枠を作って隙間なくキッチリはめ込む手だな。白いレンガのような石で積み上げられてる建物に木を使うから違和感出そうだがなぁ」
「それでもいいッス!あたしの家助けて欲しいッス!!」
「こんなのやった事ねぇしなぁ・・・・・・」
「お願いするッス!!」
両手を合わせて頭の上に上げて地面に伏せながらお願いする、ドラゴンの姿に青年は思わず笑ってしまった。
人間なんかより遥かに頑丈で強いドラゴンが、弱い人間に頭を下げるなんてな。
「ま、後でもいいかと思ってた事もあった事だ。やるか!」
「やたーーッス!!」
「喜ぶのは終わった後にして、とっとと始めるぞ」
「で、何をすればいいッスか?」
「とりあえず、昨日のお城へ連れてってくれ」
「んーと、なんでッスか?」
理由は簡単だ。材料も道具も無かったから、必要経費として金を貰って諸々揃えようという事である。
ドラゴンの相手を頼んできたのは向こうなんだからそれくらいしてもいいだろ。
むしろ勇者召喚までして呼び出したんだから、何か補助金なり報酬なりだせってんだ。
それに、元の世界に帰る手段を聞き出さなきゃだしな。
「ほんとッスよね!ほんとのほんとッスよね!」
「しつこい!ちゃんと戻るって言ってんだろうが!」
城に行く訳を話した途端、ドラゴンが青年が元の世界帰るんじゃないかと心配しまくった。
「ほら、前のように俺を手で運んでくれ」
「むーーー。・・・・・・分かったッス」
「割れ物注意だからな!気をつけろよ?」
「・・・・・・やっぱり行くのやめないッスか?」
「絶対に行く!」
「むーーー!」
ドラゴンは気乗りしないのか少しむくれた様子で青年を城まで運んだ。
「さあて、昨日はまんまと逃げられたが今回はそうはさせないからな」
青年は昨日の事を思い出しながら閉じられた門を見上げる。
「遠くから見たときは開いてたんだがなぁ」
「見事に閉まってるッスなぁ」
「ま、それでも予想通りだがな」
「どうするッスか?」
「やる事は交渉なんだが・・・・・・」
青年はドラゴンを見て少し不安になる。
「余計な事せず、俺の指示に従ってくれよ?」
「了解ッス!」
「絶対だからな?」
「了解ッス!」
青年は近くの門番に姫を呼び出して欲しい事を告げた。
「ダメだダメだ!姫様はお忙しいのだ!さっさと去れ!」
「ほほう。勝手に異世界に呼び出してドラゴン押し付け、後は知らぬ存ぜぬか・・・・・・。いいのか?コイツは一晩かけて今や俺の奴隷で、俺のいいなりだぞ?」
「そうだったんスか!知らなかったッス!!」
「知らないと言ってるようだが?」
「ったく。このバカドラゴン・・・・・・。お前俺の指示には従うと言ったよな!」
「言ったッス!!」
「じゃあ俺の奴隷だと言ったら?」
「愛の奴隷ッス!!」
「愛は余計だ!!」
「むーーー・・・・・・」
「それで、俺がこの城を壊せと言ったらどうする?」
「えっ?こ、壊すッスか?」
「絶対と言った筈だが?」
「も、もちろん!ぶっ壊すッス!!」
「という訳だ。そっちが、その気ならこっちは強行策に出てもいいんだぞ?」
「ちっ。待っていろ、姫様にお伝えする。ただし、姫様の判断次第では会えない可能性もあると思え!」
「ああ。強行手段に出るかどうかは、その姫さん次第だ」
門が僅かに開き門番は門の中に入って門が閉じた。
「お前なぁ。ちゃんと指示に従ってくれないと困るぞ・・・・・・」
「ごめんッス!でもいきなり奴隷って言われて驚いたッスよ」
「まぁ、そこは俺も悪かったかもしれん。が、ここだけの芝居なんだから言った通りにしてくれよ?」
「ええ!お芝居ッスか!!あたし愛の奴隷になったんじゃないッスか?!」
「んなわけあるかーーー!!」
「いつまでもあたしを傍に置いて欲しいッス!!」
「無茶言うな!!」
「むーーー!」
「楽しそうでなによりですね」
門が開き中から姫が姿を現した。
「楽しそうに見えるか?これだいぶ疲れるんだがな。しかし、思ったより早く出てきたな」
「ここを壊されたらたまりませんので・・・・・・」
「あーでもそれ芝居らしいッスよ?」
「お前は・・・・・・。交渉するんだから終わるまで黙っておけよな」
「交渉・・・・・・、ですか」
「そうだ。あと芝居のつもりではいるが、俺を怒らせると現実になるかも知れんぞ?」
「・・・・・・ほんと、頭の痛い話ですね。で、交渉とやらはここでするのですか?必要なら部屋を用意しますが」
姫は青年から目を逸らしドラゴンの方をチラ見した。
なるほど、このバカドラゴンがいると落ち着けないか。
だが、それはそれでリスキーだな。
俺が一人だと、こいつらに拘束されるかもしれん。んで、俺の命が惜しくばいう事を聞けとかありうるか?
んー、そこまでするメリットは薄いかもしれんが一応手を打っておくか。
「部屋の方が俺も落ち着いて話が出来ていいな」
「では、用意させます。ですが――」
「分かってる。コイツはここでお留守番だろ?」
「えー!ずるいッス!!あたしだけここで留守番ッスか!!きっとその間に姫さんとエッチな事するつもりッスね!!ダメッス!せめてあたしも混ぜるッスーーー!!」
「しねぇよ!!交渉つったろうが!!」
「むーーー!」
「さっきも言ったが、俺の指示に従うよう言ったろう。大人しくしてろ!」
「・・・・・・なるほど」
「い、いきなり何のつもりだ?」
姫は青年の腕に自分の腕をからめ胸を当てる。
「なな、なんのつもりッスか!!」
「いえ、この方を部屋まで案内しようと思いまして」
「腕を組む必要ないッス!!今すぐやめるッス!!あたしがやるッス!!」
「お前場所知らないだろが!!それに体格差を考えろっつの!!いいから大人しく待ってろ!」
「むむむむーーー!!」
「ふふっ」
姫は勝ったと言わんばかりに不適に笑った。
はぁ・・・・・・。
そういう事か。
つまりは、日頃悩まされてる仕返しに、これみよがしに煽った訳か。
この姫さんもいい性格してるわ。良くない意味で。
「それと、俺が暗くなるまで戻って来なかったら好きに暴れていいぞ。もし、言う事聞けたら後で撫でてやる」
「添い寝も要求するッス!!」
「・・・・・・う、うまく出来たら検討してやる」
「やたーーー!!!任せるッス!!」
青年と姫は門の中へと入っていった。
「ひどいですね。私はあなたに何かするつもりはないのに」
「一応、念のためだ。昨日はドラゴンを強引に押し付けられたようなもんだからな」
姫は青年から離れ先導するように前を歩いた。
「まぁ、それについては確かにこちらが悪かったですね。ですが、それだけあのドラゴンには困らされ続けてたんです。ご理解下さい」
「困らされねぇ、姫さんだってあいつを利用したんだろうに」
「否定は出来ませんが、それもあって断る事も解決する事も出来ず、より頭の痛い問題となっているのです」
姫は青年の方を振り返り言った。
「それに・・・・・・、私は2ヶ月間この件で悩まされ、抜け毛が増えたんですよ!ハゲたらどうしてくれるんですか!!」
「俺はお前のハゲ防止の為にこの世界に呼ばれたってのか!!!!」
「その通りです!!だって私は姫なんですよ!!姫がハゲたなんて他の国々のいい笑い者です!我が国の威厳が丸潰れですし、私が結婚できなくなったら国の存続にも関わります。国家を揺るがすとても深刻な問題なのです!!」
「堂々と開き直るんじゃない!ふざけんなぁーーーー!!」
「ふざけてません!私は本気です!!」
「ほんっとに性質が悪りぃな」
「着きましたこの部屋です」
案内されたのは城にある応接室だった。
「ずいぶん大きな部屋だな。20人くらいは余裕で座れるな」
「いえ、この城の中ではこれでも小さい部屋なのです。いきなり来られたので、すぐ使えそうな部屋がここしかなかっただけですけども」
「ま、いいさ。そっちがここでいいならな」
青年と姫はテーブルを挟み向かい合うように座った。
「それで、交渉との事ですが何を交渉するつもりですか?」
早速本題出してきたな。
向こうとしてはさっさと話を終わらせたいのか、暗くなる前という俺がつけたタイムリミットを気にしての事か・・・・・・。
ま、そこはどうでもいいか。俺の勝利条件は元の世界に帰る方法と金銭的援助を得る事だ。
金額次第だろうが、正直たいした要求でもない気がするな。
「交渉より先に聞いておきたい事がある」
「なんですか?」
「俺が元の世界に帰る方法だよ」
「なるほど。当然の質問ですね」
「そうだよ。その辺の話をろくにせずにドラゴン押し付けていきやがって」
「確かに配慮が足りてませんでした。申し訳ありません」
「で、俺が帰る方法は?」
「単刀直入に言いますが、分かりません」
「は?」
その頃、ドラゴンはというと・・・・・・。
「うう・・・・・・!やっぱり気になるッス!!でも、うまく出来たら添い寝が・・・・・・。でもやっぱり気になるッスーーー!!」
「うっ・・・・・・埃が・・・・・・」
門番をしていた兵士は手で鼻と口元をハンカチで覆い、地面に寝そべった状態で頭を抱えて右に左にドラゴンは転がっていた。