家に住むドラゴン
「いやー運よくデカトカゲが来て助かったッスなー」
「こっちは生きた心地がしねぇよ!危うく食われかけたわ!」
「すぐに気が付かなくてごめんッスよー!」
鳥を取り逃がした後、腹減ってどうしようかと言うとき、そのデカトカゲが現れた。
デカトカゲは人間を好んで襲う習性があり青年は食われそうになるも、ドラゴンが食料として逆に捕まえた。
「あ、でも気を付けるッスよ。このトカゲは人間さん達をよく狙うッスから」
「だろうな俺も危うく食われるかと思った」
「暗くなるとこういう焚き火の明かりを頼りにして来るんス。人間さんは暗くなると明かりに火とか使うのを学習してるみたいッス」
「つー事は俺結構ヤバかったんじゃん!あぶねー」
「まぁ、そんな強い生き物でもないんスけどね。油断してるとパックリいかれるッスけど、武器持った人間さんに返り討ちに遭う事のほうが多いみたいッス」
「武器なんて無いぞ!!しかも戦闘経験ないからな!!」
「最初に武器持った人がやられたり、戦える人が居ないと全員食われるッスな」
「まさに俺じゃん!戦えるのお前だけだし、俺一人だったし!」
「ごめんッスー!あたし、一人だったから注意する必要なかったんスよ」
つーことはだ。
俺はこいつの傍にいないとヤベーって事かよ。
青年はドラゴンのお腹を背もたれにして座った。
「おお!人間さんからあたしのとこに来てくれたッス!嬉しいッス!!」
「勘違いすんな!近くにいないと物理的に危険な気がしただけだ!」
青年は背もたれにしたドラゴンの白い部分が妙に柔らかい事に気づく。
「なんだ?この白い部分はなんか柔らかい?いや、表面がふわっとしてるのか?」
「人間さんは変な事気にするッスなー。ドラゴンはみんなそうなってるッスよ?例外もいるッスけど」
青年はお腹部分に手を這わせて調べていく。
「この白い部分は細かい毛になってるのか・・・・・・。羽毛に近いか?」
「ぶははっ!!人間さんくすぐったいッス!」
「ちょっと我慢してくれ。羽毛の根元にはやっぱり鱗があるな。それもとても小さいやつ。その鱗同士の間から羽毛が出てる・・・・・・」
なんでこんな風になってんだろうな?
外敵から身を守るなら全身を大きい鱗にした方が効率的だ。
保温の為か?爬虫類なら体温管理は大事なはずだし、お腹部分は寝るときに地面に接するから・・・・・・?
いや、それだけって事はないか。そもそも恒温動物っぽいし、こいつらは火を吹ける。極寒は別だろうが、ちょっとくらいの寒さにはむしろ強いだろ。
つーことはだ・・・・・・。
「卵を温める為にこうなってるんじゃないか?羽毛の下の鱗が卵に直接当らないようにする為と保温の為にさ」
「考えた事なかったッスけど、そうかもしれないッスな!人間さんはこうやって知恵をつけていくんスなぁ。さすがッス」
「こんなん何かの役に立つ訳でもないだろ。気になったから取り合えず調べてみたってだけだ」
「その積み重ねが人間さんの強みになってるッス。人間さんの作る物なんかは、あたしには仕組みや作り方がまるで分からないものばかりッスから」
「そんなもんかー?」
そういう文明レベルで言えば俺の元いた世界の方がだいぶ上だけどな。
コイツが俺の世界来たら訳が分からなすぎて目を回しそうだな。
「そろそろ焼けるんじゃないッスか?あたし的には生でもいいんスけどね」
「ダメだっつーの!生は人間にはきついんだよ!」
「そんなもんスかねー」
青年は落ちていたナイフを使い、苦戦しながらもデカトカゲの丸焼きを切り分ける。
頭と内臓系が揃ってる胴体をドラゴンにやって、比較的食べやすそうな手足を青年が食べる事にした。
「人間さんほんとにいいんスか?この頭と胴体部分あたしが食べちゃって」
「いいって。俺は内臓系は好きじゃないしな。量的にも元が4m級の大物だから手足だけでも食べきれるか分からん位だ」
「そう言ってあたしに優しくしてくれる人間さん大好きッス!!」
「そういう意図はマジでねぇよ!!」
食事を終えると、どうやってドラゴンの巣まで移動するかで頭を悩ませた。
「またあたしの口に入るッスか?」
「断る!」
「けど、他の手段って何かあるんスかね?正直あたしのどこに掴まっても風に当って寒いと思うッス」
「空をやめて陸地を歩くというのは?当然俺はお前の背に乗せてもらうが」
「夜が明けるッスよ!でもやれと言うならやるッス。健気に尽くすあたしマジいい女ッス」
「やっぱそれだけの距離があるか・・・・・・」
「そうなんスよねー」
「仕方ない。じゃぁ、俺を手で運んでくれ。片手で俺を掴みこう片手で風除けをする感じで」
「なるほどッス!うっかり握り潰さないよう気をつけるッス!!」
「怖い怖い!ありそうで怖い!!」
青年はドキドキしつつドラゴンの手に掴まれた。
「丁寧に頼むぞ!割れ物注意だからな!!」
「任せるッス!」
ドラゴンは自分の巣を目指して空を飛んだ。
「到着ーーーッス!無事に着いたッス!!」
「無事じゃ、ねぇ・・・・・・」
青年は地面に降ろされたがふらついていた。
「人間さん何があったッスか?」
「何度か手に力入れやがって・・・・・・、骨が折れるかと思ったぞ!」
「こうして無事だったんだしセ、セーフにして欲しいッス!!」
「おまけに何度も蛇行したりキョロキョロするたびにブンブン振りやがって、おかげで酔っちまったんだよ!」
ちなみに蛇行したりキョロキョロしたのは、暗くて行く方向の目印を間違えたりした為である。
「酒でも飲んでたんスか?」
「城からずっと一緒だったろうが!人間はな長く続く揺れや振動で、平行感覚がおかしくなって酔うんだよ!」
「なるほどッス!人間さんの事をもっと知りたいッス!!」
「はぁ・・・・・・」
やっぱコイツといると疲れる。
悪いヤツではないんだがなぁ・・・・・・。
「俺は疲れてんだよ。今日はもう休みたいんだ、そういうのは今度にしてくれ」
「了解ッス!あそこにあるのが、あたしの自慢の家ッスよ!むふーーー!」
「お前家に住んでるのか。てっきりどこかの洞窟かと思ったぞ」
「昔は洞窟に住んでたッス。この家は隣の国の人間さんが侵略しに来た時に空き家になったのを、この国の姫さんに頼んであたしが貰ったんスよ」
「空き家つってもドラゴン仕様じゃねぇんだし、どうやって住んで・・・・・・」
青年はドラゴンの家を見て、その答えを知った。
「てっ!これ教会じゃねぇーか!!たしかに教会なら普通の家より中がデカイからな。納得だ」
「教会って言うッスか?初めて知ったッスな」
「ああ。教会ってのは神様に祈りを捧げたりする所でな。色んな人が入れるようになってて、いわゆる礼拝堂は広くて大きく作られてる。大きい教会なんかは懺悔室や孤児などの面倒を見る為に、人が直接住めるようにもなってたりする」
「だからあたしが入れるんスなぁ。人間さんの家にしては広くていいなと思ってたッス。・・・・・・入り口は壊しちゃったッスけど」
「まぁ、それは仕方ないだろ。それに誰も住んでないならいいんじゃね?」
教会の正面にあったと思われる扉部分は大きな穴が開いていて扉は無かった。
青年はその穴から教会もとい、ドラゴンの家の中に入っていく。
「どうッスか?あたしの自慢の家ッス!あそこから色の付いた光がキラキラで、家の中が鮮やかになるんスよ!!むふーーー!!」
「確かに立派なステンドグラスだ。月の光が良く入る位置にあるしわるくねぇな」
「すてんど・・・・・・ぐらす、と言うッスか?気に入ってもらえて何よりッス」
月の光がステンドグラスを透し床に当たり白い石畳の床によって、周囲に反射してドラゴンの家の中を明るく彩っていた。
ステンドグラスの絵は天使をモチーフにしたと思われる絵だった。
「つっても掃除くらいしろよな。ゴミみたいな物が散乱してんぞ」
「あたしがここに来た時からこんな感じだったッス。どうしようかなとはずっと思ってたッスが、人間さんが作った物だと思うとどうにも捨てにくくて今に至るッス。それでも寝る場所を確保するためにここだけ片付けたッスが」
中央の恐らくドラゴンが寝るスペースと思われる場所は何も置かれてないが、複数の壊れた木製のベンチや破れたカーテン、風呂敷などが隅の方に散乱していた。
ところどころ血痕かもしれない黒い靴跡も見受けられた。
侵略されたつってたな・・・・・・。
恐らくここは避難場所か、立て篭もる場所として使われたのかもな。
ただ敵が目ぼしい物がないかここを漁っただけかもしれんが・・・・・・、わりとおっかねーなぁこの世界は。
だが・・・・・・。
「一宿一飯の恩というやつになるか・・・・・・」
青年は散乱したゴミを見つつそう呟いた。
「んーと、なんスかそれ?」
「飯を食わせてもらって家に泊めて貰った恩を何かで返したいって気持ちの事だ。手伝ってやるよ。ここの掃除をな!」
「おお!やったッス!人間さんがいれば1万人力ッス!」
「桁が多いぞ!普通100人力だろ!」
「あたしラストドラゴンッスから桁増やしたッス!」
「いや、お前は桁増やすなむしろ減らせ。掃除のつもりで物をぶっ壊しそうだ」
「うぐっ。た、確かにッス」
「つっても今はねみーし、明日にしようぜ?」
「あーでもどうするッスか?人間さんは布に包まって寝るもんスよね?」
「その認識も改めてやりたいとこだが、今日のところはこの布でいいだろ」
そう言って青年は破れたカーテンを手にし軽くはたいて毛布代わりにし、足の壊れた木製ベンチをベッドにして寝た。
「むーーー。こっちで一緒に寝ないッスか?」
「ない。お前が寝返りしただけで俺は死ぬ」
「あたしは寝返りとかしないッスけどねー」
「それが確認できたら考えてやる」
「むーーー。えーとこういうのは確か・・・・・・、据え膳食わぬは男の恥ッスかねー?」
「それはもっとない!つーか意味分かってるのか?」
「一緒に寝てくれない男に言う言葉じゃないんスか?」
「今ので分かった。お前は分かってない。もう寝るぞー」
「むーーー・・・・・・」
こうしてドラゴンと青年は寝たのだった。
そして夜が明けた朝の事だった。
「あーーー・・・・・・ぁ」
「やめるッス!あーちゃん!」
「いーーー・・・・・・ぃ」
「いーちゃんも大人しくしないとダメッス!」
なんだ?
あーちゃんとか、いーちゃんってのは。
青年は目を覚ましていた。
だが、目は開けないで寝た振りを決め込む。なぜなら寝ていたい気分だったからだ。
「うえおー・・・・・・ぅぇぉ」
「しまったッス!うえおちゃんが!!」
うえおちゃんってなんだよ・・・・・・。
「人間さん!人間さん!!起きるッス!」
「断る!!」
しまった返事をしちまった。
これじゃ起きている事がモロバレじゃないか!
「ダメッス!逃げるッス!!」
「んあ・・・・・・?逃げる?」
青年は嫌な予感がして目を開けた。
「ぎゃーーーーーーーーーーーーー!!」
青年の視界にいた人影は、目からは生気を感じずやせこけ骨に皮膚が張り付いた感じで人間の服を着た・・・・・・。
「なんでゾンビィーーーー!!」
「うえおーーーぅぇぉ!!」
「うえおーじゃねぇ!!」
「逃げるッス!!」
口をあけうえおーと叫び両手を振り下ろしてきたゾンビから、間一髪という所で飛び起き距離を取った。
「な、なんでこんなとこにゾンビが・・・・・・」
「ふぅ、危なかったッス。危うく人間さんがゾンビぃーになる所だったッスよ」
よたよたと遅い動きながらうえおーと叫んだゾンビは青年に襲い掛かろうとする。
「おいたはダメッスよ!うえおちゃん!!」
そんなうえおちゃんを両手にゾンビを持ったドラゴンが口で咥える。
「なぁ、なんでゾンビが教会にいるんだよ?場違いすぎだろ・・・・・・」
「あ、あたしがここに連れてきたからッス・・・・・・」
ゾンビを咥え、視線をそらしながら鼻声でドラゴンはそう答えた。
ゾンビ達は相変わらず『あー』だの『いー』だの『うえおー』だのを言い続けていた。
「えー。実家に帰らせてもらいます」
まさか、ゾンビペット可な物件だったとは!!
ありえねぇ!!
「あー!!待つッス!!理由も聞いて欲しいッス!減刑を希望するッス!」
「では聞こうかラストドラゴン。これがラストチャンスだ」
「もっと残騎が欲しいッス!!」
「ほほう。それが君のファイナルアンサー?」
「なんでそこはラストじゃないんスか!」
「やかましい!!つーか残機とかどこで習ったんだよ!!」
「人間さんの子供がそんな遊びをしてたッス!」
ドラゴンの言う残騎とはこっちの世界の騎兵隊みーつけたという遊びの残騎である。
子供達が大量に捨てられた壊れた木箱を見つけて遊びだしたのが起源の、達磨さんが転んだと隠れんぼを混ぜたような遊びである。
ルールは弓兵役1人と騎兵役推奨3人で騎兵人数x8の木箱を使う。弓役と騎兵役の間に6個騎兵役の後ろに1個で騎兵役の足元に1個の木箱を置き、弓役が騎兵隊みーつけたと言う間に騎兵役が前後左右好きな位置に隠れる。弓役が言い終わると後ろを振り返り石を一つ好きな木箱にぶつけて中に騎兵がいればそいつは死亡扱いになる。それを8ターン行う参加人数次第では最終ターン石を2回投げれる等のローカルルールも存在する。8ターンの内に騎兵が弓兵の後ろの箱まで行けば騎兵の勝ち。8ターン騎兵を近付かせない&騎兵を全滅させれば弓兵の勝ちそういう遊び。
脱線したがドラゴンの言う残騎とは、元は残りの騎兵の数を指す。
「んな事知るか!それよりなんでゾンビなんて・・・・・・。危うく食われかけたぞ!」
「誰もいないのが寂しくて、人間さんの代わりにゾンビさん捕まえてきたんスよ!」
「ん?それいつの話だ?」
「たしかー、一月ちょいくらい前からッス」
「ぶっ!!つーことはアレかぁ!!俺は一晩ゾンビのいる教会で寝てたのかよ!!」
「確かに!あたしもビックリッス!よく朝まで無事だったッス!!」
「ふざけんなぁーーー!!」
青年の抗議の声を受けてゾンビペット禁止になりました。
「さぁ。元いたところへ返してきなさい」
「ほんとにダメッスか?この子達いい子なんスよ?」
「いや・・・・・・。お前さっきからめちゃ噛まれまくってんじゃん」
「あたしは頑丈ッスから、こんなの甘噛みッス!むしろあたしに甘えてるだけッス!!」
「俺は襲われるの!死ぬの!!つーかゾンビは死体なんだから返すというか土に還すべきだな」
「やめてー!殺さないでーーッス!!」
「実はお前、俺と同じ世界のやつだったりしねぇか?転生者?」
「転生者ってなんスか?」
「違うんかい!!」
ゾンビは太陽の直射日光を受けると勝手に死ぬらしいので、ドラゴンが責任を持ってお外に放り出しました。
「あーちゃん、いーちゃん、うえおーちゃん。今までありがとッス!!」
「ゾンビが悲鳴のような声上げながら骨になるのはちょっと罪悪感が出るな・・・・・・。見た目が人型だからか?」
「あの悲鳴はほんとの悲鳴だからじゃないッスか?」
「ほんとの悲鳴?」
「かなり昔、助けた吸血鬼ハンターから聞いた事あるッス」
「なんで吸血鬼ハンターがそんな事知ってる?」
「知らないッスか?ゾンビは吸血鬼が人間さんを骨と皮になるまで血を吸った時に生まれるからッス」
「へぇ・・・・・・」
「吸血鬼にはそれぞれ味の好みがあるらしいッスが、好みに合わないとちょっと吸って終わりで何も影響はないらしいッス。が、自分の好みの味だと一気に吸い尽くすらしいッス」
「へぇ・・・・・・」
「ゾンビさんは人間さんの生への執着の怨念の塊、言い換えれば呪われた人間って事らしいッス。元の人間さんに戻りたいから、失った血肉を求めて他の生き物、特に人間さんを好んで襲うらしいッス。で、ゾンビさんに襲われたのが人間さんの場合はゾンビさんの呪いが移ってゾンビさんになるッスが、どれだけ血肉を得ても元には戻らないッス。ハンターさんが言うには無駄な悪あがきだそうッス」
「それで俺がうえおーに襲われたのか・・・・・・」
「そうッス。ちなみにあーちゃんやいーちゃんも、人間さんを襲おうとしてたッス。あたしが世話してたのに人間さんの方行くからジェラシーッス!!」
「アホかぁーーー!そんなんで嫉妬すんな!!」
「話を戻すッス。そんな生への執着で動き続けるゾンビさんが死ぬときに出す声は、ゾンビさんになった人の死にたくないという思いの悲鳴じゃないかって話ッス」
「どこまで本当かは分からん。だが、実際にアレを見ると信じれるな・・・・・・。一応、墓でも作ってやるか。ちゃんと人間式の墓のやつな」
「やるッス!!」