わがままドラゴン
このお話には人物名や地名は一切出てきませんのでそこだけ注意。
ここはとある城の門の前。
その門の前である青年とドラゴンが言い争いをしていた。
「断る!ぜーったいに断る!」
「何でッスか!何で断るッスか!あたし世界最後のラストドラゴンッスよ!もっと優しく丁寧に超優遇して頼みを聞いて欲しいッス!」
「断る!」
大きな尻尾を左右に振りまくりながら、慌てた様子で頼み込むドラゴン。
「なんでダメなんスか!」
「だってお前ドラゴンじゃん!」
「ドラゴンの何がいけなんスか!」
「体格差考えろ!そんなバカでかいお前とどう番になって、子供作れっちゅーんじゃい!!」
「バカ言うなッス!あたしこれでも乙女ッスよ!傷ついたッス!もういないけど他のドラゴンより小さくて可愛い方なんスよ!」
「んな事俺が知るか!!せめて1/4サイズになって鱗と尻尾と角と牙を無くして、すべすべの白い肌とサラサラヘアーを手にして、おっぱいボインボインになって出直して来い!!」
「もうほぼ人間じゃないッスか!!もっとドラゴンさを許容して欲しいッス!!」
そんな青年とドラゴンの言い合いを眺めていたどこか高貴さを感じさせる女性は疲れた様子で言った。
「最初は何かと衝突もあるものです。ですが、いずれは仲良くなれるでしょう。なので私はこの辺で――」
「待てい!!」
ガシッ!青年は城の門の向こうへ行こうとした女性を掴んだ。
「な、何かおありでしょうか勇者様?」
「ありまくりだろうが!!勝手に勇者召喚だので呼び出しておいて、やる事はこのバカドラゴンの相手とかどういう事だよ!」
「これも世界を救う為なのです。世界を救うと思ってついでにドラゴンも救ってください。お願いします!この国の姫として力の限りお願いします!だから手を離してください!もうこれ以上私を巻き込まないで!!」
「巻き込まれたのは俺の方だろが!!」
「姫さんこれじゃ話が違うッス!あたしに協力してくれるって話だったから、隣国との戦争に手を貸したッスよ!」
「そ、その節はありがとうございます。おかげで、劣勢で負け確定だった我が国は助かりました」
「もしかして騙す気だったッスか?もしそうなら――」
「何をするんだ?バカドラゴン」
「あたしが絶滅する前に人間さんすべて巻き込んで絶滅させてやるッス!!みんな巻き添えで仲良くあの世行くッスよ!!」
「アホか!このわがままドラゴン!そんな事できるわけが――」
「か、可能です。残念ながら・・・・・・」
「は?」
「あたし、これでも最後のラストドラゴンッス。だてに最後のドラゴンになってないッス。ドラゴン最強種の血を引いてるッスから余裕で人間さん達には負けねーッスよ!」
簡単な話だ。
弱肉強食の世界で生きるドラゴンは、弱いものから消えていく。よって、最後まで残ったドラゴンはすなわち強者中の強者の血を引いているわけである。
そんな強者でも孤独には勝てぬ訳で、言葉の通じる人間にどうにかして欲しいと頼み込んでいるのであった。
「孤独なのはもう嫌ッス!あたしも恋とかしてみたいんス!キャッキャうふふして仲良くご飯食べたり、あはーんなうふーんな事して子供作りたいッスよーーー!!」
「できるかーーーーーーーー!!」
「が、頑張って世界を救ってください勇者様・・・・・・」
「できるかーーーーーーーーーー!!!!」
「ドラゴンと人間でも仲良くなれるってあたしは信じてるッスよ!」
「チェンジだチェンジ!!俺を巻き込まない所で他のやつと仲良くしてくれ!」
「それではごゆっくりー!!」
「あ、おい!!」
姫はそう言うと急いで城の門の中に逃げ込み、そして門が閉まった。
「俺を置いて逃げんな!話はまだ終わってねーぞ!!」
青年はガンガンガン!と閉まった門を何度も叩く。
「くそ!ビクともしねぇ・・・・・・。これで話は終わりとかふざけすぎんだろ」
「よくわかんねぇッスけど、あたしも手伝った方がいいんですかねぇ?」
「やめろ。お前がやったら門が壊れる・・・・・・」
門番らしき兵士が門の上で激しく頷いていた。
その顔からはしないで欲しいというのが容易に分かった。
「壊したいんじゃないッスか?」
「ノック連打やピンポン連打みたいなもんだ。煩くして嫌でも相手に開けてもらわねぇと意味がないんだよ。壊したら攻撃してきたと思われかねないだろが。そうなったら話し合いじゃなく戦闘になるし、下手したらお尋ねものだ。この世界の事も良くわかってねぇし、金もねぇ。元の世界の帰り方もわからねぇで、そんなんなったら八方塞りだろが」
「人間さんは複雑ッスなぁ。ま、今日のところはあたしにお世話されるといいッス。そんであたしと番になるッス!」
「なんねぇよ!・・・・・・けど、今は他に行くあてもねぇし今日だけは世話になるか」
「おお!これがツンデレってやつッスな!なんか可愛いッス!」
「ツンデレ違うから!!」
このバカっぽいドラゴンの相手とか冗談じゃねぇ・・・・・・。
ホント、どうすりゃいいんだろなぁ。
「それじゃぁ、お空を飛ぶんであたしに掴まるといいッス。落ちないならどこでもいいッスよ。ただしエッチなお触りは帰ってからにして欲しいッス!」
「だれがするかい!!お前の首あたりに乗せてもらうぞ!」
「何で首なんッスかね?」
「つるつるした鱗ばかりで、まともに掴まれそうなとこがないからな。その首にロープでもつけて俺自身をそこに縛り付ける」
「おお~、なるほどッス。でも、あたし的にはエッチな要求にちょっと期待したりしたッス」
「つーか、どこを掴んだらアウトなのかがまるで分からないんだがな・・・・・・」
目算だが、二本足で立った時足から頭までがおよそ6.3m無いくらいか?尻尾まで含むとよく分からん。
鱗は鮮やかな赤ワイン色で首元からお腹にかけて白いな。白い部分は鱗が無いのかもしれんし、他よりも小さく細かい鱗の可能性もあるな。
まぁ、そんな感じな訳だがやっぱりどこを触ったらアウトなのかまるで分からん。
「それをあたしに言わせる気ッスか!恥ずかしいッス!エッチッス!上級者すぎてパねぇッス!ドキドキッス!!」
ラストドラゴンのラストは色欲の意味を含んでるんじゃないのか・・・・・・?
あと、ちょっとイラっときたぞ。
「もういいから頭と首降ろせ。なんか疲れた」
「あたしは楽しいッス。ずっと一人だったからッスかね?話し相手がいるだけで嬉いッス!」
「あーはいはい・・・・・・」
青年は門番にロープを要求して受け取りラストドラゴンに自分を縛り付けた。
「んじゃ、飛ぶッスよ!」
「任せた!」
青年はこのあとすぐに後悔した。