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第7話:どちらかと言えば一石二鳥に近い

更新が遅れてしまった・・・すみませんでした

 レオナの母から何度もお礼を言われた。家出した娘がこんなに暗くなるまで帰らなかったら心配するだろう。何でケンカしたかは知らないが、家族仲良くしてほしいものだ。レオナといえば、家に着き母親が出てくるなり母親に抱き着いて離れなかった。終始顔を赤くしていたし、寂しさに泣きそうになっていたのだろう。

マドルーナ家の紋章が入った馬車を見てか、オレを見てか分らんが、辺りがなんだかうるさくなってきた。オレがこれ以上ここにいると騒ぎが大きくなりそうだから早く帰ろうと思う。


「あ、ありがとうございました・・・」


馬車に乗る直前にレオナからお礼を言われた。母から離れてペコっと頭を下げる。なんとなくどういたしましてと言うのが恥ずかしかったので軽く手を挙げて応える動きをして馬車に乗った。



「それにしても。トーマ様の魔法は凄まじかったですな」

「水魔法で作った剣のこと?」

「はい、いきなり無詠唱で魔法の剣を出したかと思ったらゴブリンが一瞬で刎ねられてしまいましたから。無詠唱魔法だけでもすごいのに、あの切れ味は魔法の名前の通り正に聖剣って感じでした。」

「大げさだよ。まあ、僕もあの切れ味には驚いたけどね。聖剣といっても僕が勝手に魔法の名前で使ってるだけだから何の意味もないさ。」

「しかし、困りましたな」

「どうかしたの?」

「トーマ様が岩水派を習得された暁には私から剣をプレゼントしようと思っていたのですが、あんな剣を魔法で作り出せるのならば必要ないんですよね。あそこまでの切れ味となると特殊級ユニークレベルの剣でないと太刀打ちできませんから。」

「そんなにあの魔法ってすごいの?」

「すごいですよ。トーマ様のような力のまだ弱い子どもでもゴブリンを簡単に切り捨てることができるほどの切れ味ですから。」

「すごかったんだね、あの魔法。あの時は咄嗟だったから抜刀するよりも魔法使っちゃうほうが早いと思って魔法を使ったんだけど。」

「・・・一番すごいのは自覚なしに、あんなとんでもない魔法を無詠唱で使っちゃうトーマ様かもしれませんな。ハッハッハ!」


そんなことを話している間にクロノ邸に着いた。トールはオレを見送ると家に帰っていった。

ちょうどいつもの夕食の時間になった。父の仕事の関係上、我が家の夕食は少し遅めなのだ。

体を洗い、食卓に着いた。


レストランの食事もよかったが、ここでする食事のほうがなんとなく落ち着いて良い。たまには外食もいいが、家で食べるほうがオレは好きみたいだ。ここの飯もうまいしね。


「そういえばトーマ、今日はレックスの森に行ったらしいな?」

「はい、とても有意義な修行でした。」

「ええ!森に行ったの!?魔物狩ったの?」

「うん、何体か狩ったよ。レックスとは遭遇しなかったから結構余裕だったけどね。」

「すごいなあ、やっぱり兄ちゃんはすごいなあ。」

「私が岩水派を習ったときは森に行くまでにもっと時間が掛かった。トーマはすごいな!」

「いやいや、素振りとか隠れてやっていたからね、別に才能があったわけじゃないよ。」

「トーマ、それは天才よりもすごいことだわ。誰にも見えないところで努力をするのは誰からも評価されにくいこと。だからほとんどの人は他人評価されたくて努力を見せようする。努力をしない人だっているわ。あなたは他人の評価ではなく自分を磨くために努力をしているの。素晴らしいことよ。」

「ああ、特に幼い時期こそ人から褒められたがるものだ。トーマは謙虚で努力家だ。素晴らしいことだよ。」


んもうっ!この褒め上手ぅ!!

実際、剣の修行では隠れて結構頑張っていたから、それを褒められるのはとてもうれしい。天才とおだてられるのも悪い気はしないが、今の母のように褒められると、しっかりと子どもであるオレのことを見てくれている気がして嬉しい気持ちになるのだ。


「そういえば、今日は狩りをしているときに魔物に襲われている人がいたので助けてあげたんです。」

「すごい!兄ちゃんかっこいい!!」

「詳しく聞かせてくれないか?」

「ええ、詳しく聞かせてほしいわ。」

父と母が食い気味に聞いてきた。そんなに興味があるのか。オレは森で起こった一部始終を家族に聞かせてやった。


「なあ、エレス。」

「ええ、クロノ。そっくりね。」

「ん?どうかしましたか?」

「ああ、いや。なんでもないよ。ただ、なんだか懐かしい気持ちになっただけさ。」

「ふふふ、トーマはともかく、そのレオナって子は確実に落ちたわね。」

「落ちたってどこに?」

「シュウにはまだ難しいかもしれないかもね。ふふふ、さすがクロノの子。かっこいいわね」

「やめてくれよ、それに私の時とトーマとでは倒し方に違いがありすぎる。私の時は必死に覚えた岩水派で君を守ったが、トーマは一瞬で助けてしまったんだから。トーマはまさに白馬の王子ってところだろう。」

「いえいえ、必死になって私を守ってくれたクロノの姿はとてもかっこよかったわよ。」


なんだか変なムードになってきた。まったく。こういう時、子どもの立ち位置が一番困るということをこのラブラブ夫婦にそろそろ教えなければなるまい。


「ゴホン・・・。」

少しわざとらしく咳払いしてみる。

「お、おっと。すまないな。それよりもトーマ。お前が今日その女の子を助けたことはお前にとってもとても良いことだったということを自覚しておきなさい。」

「僕にとっても?どういうこと?」

「お前が誰かを助けるとき、それは相手にとっての利であると同時に自分にとっての利でもあるということさ。お前が次困ったとき、その女の子はお前を助けようとしてくれるだろう。トーマが誰かを助けることで、いざトーマが困ったときに助けた人たちが今度はトーマを助けてくれるのさ。」

「ですが、それでは自分が助けてもらうために誰かを助けているようです」

「そんないやらしい話でもないさ。自分が忙しい時、何か都合が悪い時、誰かがから助けを求められて迷うことがある。そんなときは出来るだけその誰かを助けるようにしなさいって意味だよ。私もこれまでの人生で何人もの人を助け、何人もの人から助けてもらった。トーマも人から助けてもらえるような人間になりなさい。」


良いこと言うなあ。なるほど。人から助けてもらえるような人間になるには、まず自分が周りの人を助けなければいけないってことか。前世に「情けは人の為ならず」って言葉があるが、父が言っていることはそれとは少し違うようだな。人格者で評判の父からありがたいお言葉をいただいたオレは自分の部屋に戻った。まだ寝るわけではない。やらねばならないことがオレには山ほどあるのだ。


夜はお勉強だ。トールの授業は岩水派の修行だけでなく貴族としてのマナー等も学ぶ。少しでも剣を教えてもらう時間を延ばすためにあらかじめ完璧にしておくのだ。さらには他の勉強もしたい。ここは異世界。興味は尽きないのである。


(コンコン)


ん、誰だろう。ドアをたたく音がする。

「どうぞー。」

「兄ちゃん、教えてほしいことがあるんだけど。」

「ん、シュウか。何でも聞いて良いよ。」

「兄ちゃんってさ、4歳の時どんな勉強をしていたの?」

「なんでそんなこと聞くんだ?」

「僕も兄ちゃんみたいに何でもできるようになりたいんだ。お父様やお母様には十分優秀だって言われるけど、僕も兄ちゃんみたいになりたいんだ。だからまずは、兄ちゃんがやっていたことをまねしようと思って。」


 なんていい子だろうか。シュウはもうすぐ4歳になる。オレとは違って精神年齢が大人というわけではなく、ちゃんと見た目も心も少年なのだ。そんな子どもが既に志をもって努力をしようとしている。なんて素晴らしい。

 しかし、オレは前世の知識があったから先へ先へと勉強を進めることができたが、同じことをシュウにさせるのは酷だろう。なにかいい方法はないだろうか。。


さきほどの父の言葉を思い出す。オレは父の言葉通り、人に助けてもらえるような人間になりたい。シュウを助けてあげることはその第一歩ではなかろうか。そもそも、兄弟で助け合って生きていくのは人の世のことわりなのだ。力になってあげたい・・・


「そうだ、シュウ。僕と同じ勉強をするのではなく、僕が先生になってシュウに勉強を教えてやろう。」

「ほんと?やった!!あ、でも勉強は教えてほしいけど、兄ちゃんの勉強の方法も知りたいんだけど・・・。」

「シュウ、僕のやり方を真似るのもいいが、あえてここは別の勉強法をしないか?シュウはいずれ、僕を超える優秀な人間になれると思っている。だけど、僕と同じやり方をしていても僕を超えることは出来ないだろう?それに、僕は独学で勉強していたから効率が悪かったかもしれないけれど、兄ちゃんがシュウに勉強を教えるようにしたら効率も上がって良いんじゃないかな?」

「・・・確かにそうかも!わかった、じゃあこれからよろしくね!兄ちゃん!」

「昼間は僕の勉強と修行があるから、夜に教えるよ。昼の間は僕が宿題を出しておくからそれをやっておいてくれる?」

「うん、ありがとう!」

「じゃあ、今日はもう遅いから寝よう。勉強は明日からな」

「うん、おやすみ兄ちゃん。」

「おやすみ」


なんとか説得できたな。オレがちゃんと先生になれるか不安だが、前世の知識と組み合わせて何とかこなして見せるさ。前世のテレビでやっていた幼いころにやっておくと記憶力が上がる勉強法なんかも試してみよう。オレ自身に試そうと思ったときはフラッシュカードとかを用意できなくて断念したが、今なら光魔法で代用もできる。シュウに勉強を教えるついでにオレ自身の魔法の精度も上がるかもしれないな。


中途半端なことはしたくない。今のうちからしっかりと方針を固めておこう。マドルーナ家の後継も祝福次第ではシュウになるかもしれない。今からシュウをマドルーナ家を継ぐにふさわしい人間に育てておいても悪いことはないだろう。



・・・ていうか、今まではオレが当たり前にマドルーナ家の当主を受け継ぐ気でいたが、別にシュウに譲ってもいいのか。せっかくこの世界に転生できたのだ。せっかくなら魔物討伐やらクエストやらをやってみたい。受け継ぐ時が来たらシュウに譲ろうか・・・。いや、そんな嫌な仕事を押し付けるのはよくない。もし、シュウにマドルーナ家の当主の後継を務めたいという思いが少しでもあるなら譲ってしまおうか。オレもシュウとは後継争いなんかで醜く揉めたりはしたくないからな。

とにかく、今はシュウの学習計画を立てねばな。オレ自身の課題も残っているのだ。暇な時間など少しもないのだ。


と、こんな感じでオレはシュウに勉強を教えてやることになった。

のちに、シュウは驚くべき記憶力を手に入れることになる。前世の言葉で「写真記憶」(見たものを一瞬で写真のように記憶することができる能力)と言われるものだ。オレがシュウにかけた最初の言葉通り、シュウは前世の記憶のあるオレをも超える天才的な頭脳を手に入れることになるのだが、これはもう少し後のお話である。今はまだ、兄にあこがれを抱く優秀なオレの弟でしかないのだ。


~少年期・完~


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こんにちは、シュウと言います。

マドルーナ家当主のマドルーナ=クロノの次男であり、天才トーマを兄に持つ平凡な3歳児です。もうすぐよんさいになります。周りの大人は僕のことを才能があると褒めてくれますが、兄には到底及びません。兄は私の年齢の時に12歳を優に超えるほどの頭脳を持っていたそうです。そんな兄は僕のあこがれの存在です。


 兄は少し前から岩水派の剣術の修行も行っています。兄は剣術の才能もあったようで既に魔物の生息している森にまで行ってしまったそうです。かっこいい僕の兄は僕にとっての唯一の自慢できることかもしれません。

 そんな兄に私くらいの時にどんな勉強をしていたのかを聞くことにしました。すると兄は自分が教えてやると言ってくれたのです。自分の勉強や剣術の修行で忙しそうにしている兄を見て勉強法だけを教えてもらって後は自分でやろうと思っていたのですが、兄は何の躊躇もなく私のために時間を作ってくれるそうです。なんて心の広い兄だと感動しました。


翌日から兄の授業が始まったのですが、よくわからない授業でした。兄の魔法によって次々と映し出される絵を見て覚えて応えるという内容だったのです。何の目的かはわからなかったのですが、兄を信じてやるしかないと頑張りました。兄は「何をするにも土台作りが重要」と言っていました。この勉強も何かの土台になっているのでしょう。いつか兄のようになるために、こそっと自習して勉強して兄を驚かせてみたい。そんな思いで必死になって勉強をしました。不思議と勉強が嫌いにもなりませんでした。自分のため、教えてくれる兄のために、僕は頑張ります。何が何でも。


読んでいただき、ありがとうございました。リモート授業って身だしなみを整えなくていいから楽なんですよね。

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