第4話:大人になっても男は皆永遠の中二病だと思う
投稿が遅れてしまい申し訳ありません・・・。大学の課題に追われていました。少しずつ進めて、やっと投稿できました。次話からはもっと投稿スピードは上がると思いますので、よろしくお願いします。
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『アブラカ=タブラ著:天才魔導士のすゝめ:第一部:第八章:詠唱魔法』
詠唱魔法で重要なのはイメージである。したがって、詠唱自体が重要なのではなく詠唱でより正確に現象をイメージすることが魔法発動のカギとなる。同じ魔法を何度も使うことで、詠唱をしなくてもイメージが可能となり「無詠唱魔法」が使えるようになる。
また、イメージがうまくできなくても、祝福によってある魔法が習得できることがある。
(以下省略)
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「そういえば、アリスは水魔法を無詠唱で使えたよね?」
アリス。ここ、クロノ邸に仕える30人のメイドをまとめるメイド長である。マドルーナ家に代々使える「メイド一族」、オックス家の血筋であり、幼少期からクロノ専属のメイドとしてクロノの身の周りの世話をしていた。他人に優しく、自分に厳しい性格であり、お茶目な一面もある皆のあこがれなメイドである。
「はい、メイド長は大規模な魔法は使えませんが、小中規模の水魔法を扱うのにたけております。洗濯・料理・掃除など、彼女がいないとクロノ邸の業務は滞ってしまうでしょうね。」
「アリスの祝福は水魔法に適したものだったの?」
「はい、彼女の祝福は「水を使役するもの」。水を小規模であれば自分の手のように操ることができます。」
うーん。それならアリスに水の詠唱魔法について聞くのはあまり意味がないかもしれない。アリスの水魔法は祝福によるもの。教えを乞うには適していないだろう。
「ただ、メイド長は元々水魔法の扱いがうまかったようです。以前、「水魔法は元々使えたんだから炎系とか他の祝福が欲しかったわ」と言っていましたから。」
ふむ、そういうことなら聞いてみるのもアリかもしれないな。
「そういえば、レイカは使える魔法はないの?」
「私は魔法が使えません。そもそも何らかの夢や目標がない限り詠唱魔法は習得しようとはしないものです。使えなくても既出の魔法陣で困ることはありませんし、詠唱魔法はセンスが問われます。イメージができないタイプの人が詠唱魔法を使おうとすると、ものすごい時間が掛かります。私もメイドになる際に水魔法を練習しましたが結局習得できませんでした。」
センスか。オレは前世では何をやっても失敗ばかりでセンスとは一番遠い存在だった。新しいオレは魔法が扱えるだけのセンスを持ち合わせているだろうか。
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「ということでアリス。僕に詠唱水魔法を教えてほしいんだけど。」
「・・・・・。レイカ?トーマ様は三歳で詠唱魔法を習得しようとしているの?」
「はい、トーマ様は既に12歳並みの学力を有しており、様々なことにチャレンジしようとしておられます。クロノ様もトーマ様が自由に勉強することを許してくださいました。」
「そういうことで、僕に水魔法を教えてほしいんだ。」
「わかりました!丁度手が空きましたので私で良ければお教えいたします!(ふふふ、やったわ!クロノ様の命令でトーマ様のお世話係がレイカに決まってしまって、ずるい!私もトーマ様の世話をしたい!と思っていたけれど、こんな形でトーマ様と関われるなんて!ラッキーだわ。)」
「それじゃあ、お願いします、アリス先生。」
「ち、ちょっとトーマ様、先生はやめてください・・私はメイドでトーマ様は我々の主人なんですから。(それに、なんだか恥ずかしくて首がムズムズするわ。)」
「いやいや、僕は教えてもらう立場なんだから。教えてもらうときはアリスは先生だよ。」
「そ、そうですか。では、トーマ様。早速やっていきましょう!」
(ふふふ。メイド長、なんだかうれしそうね!・・・でも確かに。トーマ様に先生って呼ばれるのちょっと羨ましいわ。まあ、ほかのメイド達もトーマ様の世話をやりたがっていたし、私だけがトーマ様の近くにいるのは少し罪悪感があったのよね。)
「詠唱の言葉には決まりがありません。イメージさえできればどんな言葉でもいいのです。したがって、同じ魔法を使うにしても、詠唱の言葉が人によって異なることはよくあります。まずは簡単な魔法を使ってみましょう」
そういうとアリスは仕事用の小さい魔法の杖を取り出し
「不定なる水の球よ、我が目の前に顕現せよ!『ウォーターボール!』」
と詠唱した。するとアリスの目の前に野球ボールサイズの水の球が現れた。
「今詠唱した魔法は顕現することをイメージしただけなので、普通ならこの水は地面に落ちてしまいます。この水を空中に浮かしたままにするには「水の球を浮かべる」ということもイメージする必要があります。今は私の無詠唱魔法によって浮かべています。このサイズの水を浮かべるだけでも「水の形をイメージする→顕現させる場所をイメージする→水をそのまま浮かべるイメージをする」というような手順を踏む必要があります。鮮明なイメージでないと魔法は発動しません。」
と、説明しながらアリスは水の球を空中でヒュンヒュンと動かしている。これだけ自由自在に操れるなら食器洗いは一瞬で終わるだろう。
しかし・・・ふむ、なかなか大変だな。魔法発動までのイメージする手順が面倒すぎる。
一般的に詠唱魔法が使われない理由が分かった気がした。ただ・・・
「大切なのはイメージ。イメージさえできれば最初から無詠唱で魔法を繰り出すことも可能です。まあ、そんなことができる人なんていませんけどね。」
「”サラスヴァティーの聖剣!!」
「「・・・へ????」」
「おお、イメージ通り水の剣ができた!」
やっぱりできた。かっこいい水の剣をイメージして作ってみたが、うまくいったようだ。
サラスヴァティーといえば有名な水の女神。聖剣とは名ばかり、ただの水でできた剣だ。切れ味はどんなものだろうか。何かを試し切りしてみたいが・・・
「ト、トーマ様?その魔法は・・・」
「ああ、なんてことはない、ただの水の剣だよ。」
「・・・丸や不定形の水ならともかく、精巧な作りの剣を留める魔法を最初から無詠唱で・・・。」
「やはり・・・トーマ様は天才だったようですね。」
「トーマ様は天才的なセンスの持ち主だわ。」
・・・どうやらオレはまたやっちゃったようだ。確かに、最初から水の剣を無詠唱で。詠唱での魔法すら使うのが難しいのに、最初から無詠唱魔法を使えたらドン引きものだろう。
まあこれに関しては出来る自信はあった。なぜか。それはオレがイメージする修行を毎日欠かさずやっているからだ。脳内戦闘、脳内恋愛、脳内容姿、脳内妻。何を隠そう、オレは生粋の中二病である。前世では忌み嫌われていたオレにとって、イメージの世界とは非常に心地よいものだった。自分は特別な存在であり、圧倒的な戦闘力、美人すぎる妻(アイキャン)を持つイケメン勇者。そんな妄想を欠かさず行っていたオレにとって、イメージさえできれば使える無詠唱魔法などお手の物だ。
持論で言わせてもらうと、大人ぶっている男も、おじいちゃんも、男は皆中二病だとオレは思っている。自分は特別であり、いつか大物になれると信じてやまない生物なのだ。前世から合わせたらオレは既に大人だが、いまだに修行をし続けている。一人になると無性に一撃必殺のパンチや蹴りをしたくなるのだ。
というわけで、ただの水の剣を作るくらい、オレにとっては朝飯前ということよ。
「・・・ってあれ??そういえばトーマ様、魔法の杖を持ってないのに魔法を繰り出しましたよね・・・?」
「あ、そういえば。なんか杖なしでも魔法使えたね?なんでだろう。」
「・・・レイカ、トーマ様は天才どころじゃないわ。生まれた時から神様に祝福を授けられた、神様の子だったのよ!間違いないわ!」
「・・・!!!たしかに、トーマ様は天才というレベルをはるかに超えた存在のようですね!」
・・・当たらずとも遠からず。喩えで言っているのだろうが、このはしゃいでいるメイド二人は妙なところで鋭い感を持っているようだな。それともあれか?女の勘って奴だろうか。
うーん、何を意識したわけでもないが杖なしで魔法が繰り出せてしまった。
さて。またオレに不思議な現象が起こった。
今、オレがオレ自身に感じている不思議な現象は二つ。
・なぜか魔気量が多い
・なぜか魔法の杖なしで魔法が使える。
これから勉強していく中で原因を探っていくほかあるまい。
オレはいずれ貴族の跡取りをすることになるのだろうか。そうなったとしても、オレは魔法の練習だけは欠かさずやりたいものだ。わかるだろ?魔法ってのはそれだけで最高のロマンなのだから。
~幼少期・完~
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六歳になった。無詠唱魔法はそう簡単なものではなく、習得に結構時間が掛かった。例えば雷魔法。雷という自然現象がどういった原理でできるのかを理解しておく必要があったのだ。ただ雷のイメージだけしても意味がない。現象そのものの原理を理解しなければならない。オレは前世、お世辞にも頭がいいとは言えなかった。不幸な運命にあったせいで、どれだけ勉強しても頭がよくなることがなかったからだ。こちらの世界で様々なことを学んだおかげで、前世よりも知識が断然増えた。これでより多くの魔法を使えるようになることだろう。
今日は父から大事な話があるということだった。なんだろう。専属教師をつける話だろうか。三年前に六歳になったら専属の教師をつけるという話があった。そのことだろうな。その教師から教わることはほとんどが貴族生活や上流階級のマナーについてになるはずだ。
「トーマ、お前には今日から専属教師をつける。その先生から多くのことを学ぶといい。ただ、お前は既に成人レベル、下手したらそれ以上の学力を有することが分かっているから、学力を向上させるための学びとはならないだろう。これから先の生活を、人生を生きていくための術を、その先生から学ぶんだ。」
「はい、お父様。精一杯励みたいと思います。」
「ふふふ、そんなに肩に力を入れすぎることも無いわ。難しくはないのだからリラックスして受けるといいわよ。」
「はい、お母様。お気遣いありがとうございます。がんばります。」
「兄ちゃんかっこいいなあ、僕も早く兄ちゃんみたいに何でもできるようになりたいや。」
「シュウ、お前も十分優秀だよ。兄ちゃんの自慢の弟だ。」
「ああ、シュウはトーマほどはないにしても他の子たちよりは断然優れているといえる。自信をもっていいぞ。」
「ふふふ、あなたたち二人は私たちの誇りよ。」
そう、オレは三年前に弟ができた。名前はシュウ。弟というのはこんなにも可愛いものだったのか。オレの中身が大人だからだろう。多少のわがままはむしろ可愛らしく思え、暇さえ見つければシュウの世話をしていた。そのせいあってか、シュウはオレにとても懐いてくれている。
言葉を話せるようになってから、オレはシュウに英才教育を施した。オレがシュウの近くで楽しそうに勉強することでシュウも興味を持ち、オレに勉強を教えを乞うようになったのだ。無理やりやらせても続かない。身近な人間が楽しそうにやっていたら自分もやりたくなるもんだ。結果、もちろん俺ほどではないのだが、とても優秀な三歳児に育ったのだ。
「ではトーマの専属教師を紹介しよう。トール、入れ。」
「失礼します!!」
元気な声が響き、ドアがまあまあ勢いよく開いた。そこに現れたのは、身長が二メートルに到達してそうなほどの大きな男だった。片方しかない丸眼鏡をかけて、顔だけ見たら頭が良さそうなのだが、その体つきはいかにもマッチョという感じだ。・・・なんというか、かの有名な魔法映画にでてくるヴォル〇モート卿に似ている。ハゲているからだろうか。
「トーマ様、よろしくお願いいたします。」
深々とお辞儀をしてきた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
「噂には聞いていましたが、なんて美しい容姿をお持ちであるのか。これは外に出るときに気を付けなければならないかもしれませぬなあ、ハッハッハ!
先日受けてもらった学力テストにて学力の向上は不要であると考えましたので、私からは上流貴族のふるまい・マナー。そして、護身を兼ねた剣術をお教えいたします。」
・・・なんとなく気持ち悪いな、このおっさん。あっち系の人じゃないことを祈るしかあるまい。襲ってきたら魔法で吹き飛ばしてやろう。
しかし、剣術も教えてくれるのか。とても楽しみになってきたぞ。この世界に剣術の流派が三つあることは知っている。それのどれを教えてくれるのだろうか。はたまた全く別の剣術を教えてくれるのか。
貴族としての護身術だけでなく、最低B級の魔物を狩れるくらいの剣術は身に着けたいな。
これからの生活がより一層楽しいものになることをオレは確信したのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。今一人暮らしをしているのですが、夏休みは実家に帰りたいですね。