第14話:バフ効果付与のイメージって不可能でしょ
更新が遅れてしまい大変申し訳なく思っております・・・。
頑張って週刊連載します
勇者ヘラクレスとの対話。まさに夢のような出来事ではあったが、初対面なのに気軽に話せてしまう親近感があった。
昨日はまさに怒涛の一日だった。やはり、オレが勇者になるしかないのだろうか・・・
「おう、トーマ!今日は一緒の講義だな!」
「ダネル、お前も身体強化魔法の講義を受けるのか。」
「ああ。足が速くても攻撃力が低いなら意味がないからな。」
入学試験の時も思ったが、ダネルは戦闘に対する執着心が高いように感じる。
もちろん、この学校には戦闘力を上げるために入学したというやつもたくさんいる。
ダネルもただ戦闘力を上げたいだけの戦闘マニアなのだろうか。
「なあ、ダネル。なぜそんなに強さにこだわるんだ?強くならなきゃいけない理由があるのか?」
「ああ、それはな。オレが金虎会の若頭だからだ。」
「・・・まじで?」
「本当さ。金虎会の若頭として、強くある必要があるんだよ。」
まじか・・・。
金虎会。ヘライオン王国の西に存在するパルティア共和国の治安維持に努める任侠集団だ。
そもそも、パルティア共和国には税金というものがない。よって、消防署や警察という公的な組織が存在しない。そんなパルティア共和国の治安維持を担っているヒーロー的存在が金虎会だ。
普段は普通の市民に扮しているが、困っている人が居たら手を差し伸べ、人攫いや盗賊が出現したらその輩を一人残らず殲滅する。一人一人が非常に高い戦闘力を有しており、パルティアの至る所に会員が潜んでいるため、パルティアで犯罪を犯そうというやつは一人もいない。
警察が居ないにもかかわらず、パルティア共和国は世界で最も治安のよい平和な国と言われている。
この世界では珍しく共和制の国でもあることから、権力者への不満からテロが起こることも無い。
そんな平和を裏で支えているのが金虎会というわけだ。
そんな市民のヒーローの若頭がこんなところにいるのか。
「オレはヘライオン王国出身だから金虎会のことはよく知っている。ヘライオンの西の隣に位置するパルティア共和国の治安を守る任侠集団だ。すごいな。」
「別にすごくはないよ。すごいのはオレの親父とその仲間たちさ。オレもここで色々学んで、親父くらい強くなんねえと、本当の意味で認められることにはならないからな。
金虎会の皆はオレのことを次期若頭と認めてくれたが、親の七光りで会長になっても意味がねえんだ。ちゃんと実力で認めてもらうんだ。」
・・・なんてかっこいいやつなんだ。親の七光りではなく、実力で会長になる。責任感があって、男らしい。年齢は前世で言う中学生くらいのはず。若頭としての自覚があるからこそ、こんなにも大人びて見えるのだろう。
「・・・ダネル。お前、かっこいいな。」
「おいおい、お前が言うと嫌味にしか聞こえねえよ(笑)」
「いや、まじで・・・」
「ていうか、トーマはヘライオン出身だったんだな。」
「ああ、ヘライオン王国の貴族であるマドルーナ家の長男だ。」
「おお!マドルーナ家のことはオレもよく知っている!マドルーナ家は市民に愛される貴族としてとても有名だからな。」
「父の努力の賜物さ。」
「マドルーナ家を継ぐんだろう?将来は大貴族だな。」
「いや、当主は弟に譲ろうと思っている。」
「何かしたいことでもあるのか?」
「ああ、まだ確定したわけじゃないがな。」
「言いにくいことか?」
「いつかは話すよ。」
「はいっ、じゃあ始めるよーー。」
講義の時間になった。オレとダネルは会話を中断し、先生のほうを向いた。
若い女の先生だ。
「身体強化魔法の講義を担当します、ルネリアです。どうぞよろしく。
祝福は[丈夫な体]。物理攻撃耐性が向上し、身体強化魔法がうまくなるという祝福です。
私は去年から教壇に立ち始めたばかりなので新米ではありますが、私が持つ知識と技を余すことなく皆さんに伝えていけたらと思っていますので、皆さんも頑張ってくださいね。毎回の講義で実戦学習を行うので、動きやすく汚れてもいい服装で講義を受けることをお勧めします。」
実戦学習。教わった強化魔法を実際にやってみる場を設けてくれるということだろう。
アブラカ=タブラの本である程度の知識は既に学んでいる。ここでしか学べないものがあるといいのだが。
「まずは分類から。身体強化魔法には二つの種類に分けられます。」
そう言ってルネリア先生は水晶型の魔道具に手をかざし、映像魔法を発動させた。
前世でも映像やパワーポイントを使った授業が主流になりつつあったが、この世界では当たり前のように行われているようだな。
「一つは装備魔法。こっちのほうが主流といえるでしょう。
鎧や武器を魔気で生成し身に着ける魔法で、生成した装備にバフ効果を付与させることで身体を強化することができます。生成した鎧で防御力の向上を期待するわけではなく、生成した装備に付与したバフ効果で身体を強化することを目的としています。ただし、生成した鎧にパッシブスキルを付与することで身体の防御力を挙げることは可能です。
もう一つは体力強化魔法。
身体能力や皮膚の硬さなどを強化する魔法です。この魔法はイメージがしにくいため、魔法の中でも扱うのが難しくセンスのあるものや祝福の恩恵を受けた一部の人間しか使えません。
体力強化魔法が使えるものは杖なしでも魔法を扱うことができるようになります。
体力強化魔法は体内で魔法を発動させ身体能力を向上させる魔法です。これができれば、自分の指先などに魔気を集中させ、魔法を発動させることができるのです。杖の先にある魔法石は人間の魔気を吸収し貯めることで魔法を発動させています。それと同じことを指先でするというわけですね。」
オレが杖なしで魔法が使えていたのはそれを無意識にやっていたからだったのか。
つまりオレには体力強化魔法のセンスがあるということか。
「ではさっそく、身体強化魔法を私が実践して見せます。」
そういうとルネリア先生は魔道具と思われる水晶を取り出し、魔法を発動させた。
「“フィールドチェンジ”」
教室から競技場のような場所に転移された。すごい魔法だ。
「まずは装備魔法から。イメージにコツは騎士が着るような鎧をなるべく正確に思い描くことです。まだ皆さんは装備魔法に効果を付与できなくても良いのですが、いずれは出来るようになってもらいます。ではやって見せます。」
ルネリア先生の体から魔気が放出された。その魔気は霧散することなくルネリア先生の体の周りにとどまり続ける。それはやがて一つの装備を作り出した。
「“疾風の腕輪”」
エメラルドの輝きを放つ腕輪。装備魔法によって作られたその腕輪からは不思議なオーラが感じられる。
「この腕輪には速度アップのバフ効果が付与されています。」
そういうとルネリア先生の姿が一瞬にして消えた。
「このように、一瞬にして皆さんの後ろに移動できるほどの速度アップの効果を付与することも可能になります。」
ルネリア先生は一瞬にしてオレたち生徒の背後に移動していたようだ。他の生徒と同様に、オレも仮面の下で驚きを隠せずにいた。
「装備魔法も極めればS級アーティファクト並みの力を手に入れることができるようになります。今私が生成したこの腕輪のような効果を持つ装備魔法を習得することは出来なくても、B級アーティファクト以上の装備魔法であればほとんどの人間が練習次第で扱えるようになれます。
次は体力強化魔法ですね。では、よく見ていてください。」
そういうとルネリア先生は深く息を吐いた。そして足全体に魔気を集中させていく。
「“脚力強化:強”」
次の瞬間、ルネリア先生は地面を強く蹴ってジャンプした。地面は大きく抉れ、ルネリア先生は空高く飛び上がった。そしてそのまま隕石のごとく落下した。
月のクレーターのごとく大きく抉れた地面の中心にルネリア先生が立っていた。
生徒はドン引きである。
「体力強化魔法を極めればこんなことも出来ます。体力強化魔法は単純な身体能力の向上を行うことができます。体に流れる魔気、その流れを感じ取り、体のある一部に集中させることで発動させることができます。
魔法とはイメージが全てです。装備魔法は杖があれば割と簡単に扱えますが、体力強化魔法は魔気の流れ、魔気を集中させるというイメージが非常に難しいため、扱うのがとても難しいのです。装備魔法の難しい点はバフ効果の付与です。発動自体は簡単です。バフ効果の付与をうまくイメージできるかがカギとなっていきます。これからの授業で身に着けていきましょう。」
ルネリア先生は再びフィールドチェンジを使った。教室に戻り、今日の授業は終わった。
こんな感じで初回の授業は終わった。祝福の恩恵があるとはいえ、ルネリア先生の身体強化魔法はすさまじかった。オレもあそこまでの魔法を使えるようになれるだろうか。
オレが最も気に入っている魔法である“サラスヴァティの聖剣”も装備魔法の一つではあるが、バフ効果なんかはついていない。不完全であるといえる。
「トーマは使える身体強化魔法はあるのか?」
「いちおう装備の生成は出来る。バフ効果をつけるなんてことは出来ないけどな。
体力強化魔法はやったことも無かった。ただ、オレは杖を使わずとも魔法が使えるから、もしかしたら才能はあるかもな。」
「すげえな。装備魔法は既に使えるのか。オレは祝福[驚異の俊足]の恩恵もあってか足の体力強化魔法は既に使える。祝福による脚力強化と魔法を組み合わせれば相当な速さを獲得できる。装備魔法も使えるようになったら更なる速さを獲得できそうだな。」
「すこしやってみたいよな。校庭とかは勝手に使ってもいいのだろうか。」
「許可は必要かもしれないが、間違いなく使えるだろう。この学園で一日に一つしか講義を受けられないのは自分の研究・学習・鍛錬をする時間を設けるためだ。授業が終われば、生徒のためにあらゆる施設が解放されるはずだ。それに俺たちは精神階級が高い。優先的に使わせてもらえるだろう。」
・・・・・・・・・・
オレとダネルは事務室に行き許可を取りに行った。
一人のおじいさんが居た。入学試験の時にいたおじいさんだ。
「失礼します。一年のトーマと言います。校庭の使用許可をもらいに来ました。」
「ああ、君が例の仮面男か。校庭の使用許可なら必要ないから自由に使っていいよ。校庭の使い方は知っているかい?」
「校庭の使い方?」
「その様子だと知らないようだね。この学園の校庭は多重空間魔法でできている。見た目はただの校庭だが、数百個の空間が重なりあってできている。校庭の入り口に水晶型の魔道具が数百個置いてある箱がある。それに魔気を込めればそのうちの一つの校庭が使用できる。そうそう、使うときに“フィールドチェンジ”と宣言するのを忘れずにね」
・・・・・なんて学校だ。
つまり、この学校には数百個の校庭があり、それらは許可を取らずとも貸し切りで使用できるというわけか。見た目は一つの校庭。その異次元空間には数百個の校庭が存在する。世界一の魔法学園の名は伊達じゃない。水晶型の魔道具とはルネリア先生が授業中に使っていたあの魔道具のことだろう。
さっそくオレとダネルは校庭に行き、入り口に確かに置いてあった箱を開けた。鍵もかかっていないその箱には沢山の水晶型の魔道具が入っていた。
「“フィールドチェンジ”」
オレは一つの水晶を手に取り、魔法を発動させた一瞬で校庭に転移した。
貸し切りの校庭。身体魔法の練習にはもってこいの場所だ。
「今日の授業で装備魔法のバフのつけ方は教わらなかったから、オレはとりあえず体力強化魔法をやってみるよ。」
「オレは足以外の体力強化を練習する。足技だけでは勝てない相手は絶対にいるからな。」
こうしてオレたち二人はそれぞれ身体強化魔法の練習を始めた。
体の一部に魔気を集中させ身体能力を向上させる。つまり、体のエネルギー源である魔気を集めることでより多くの魔気を使って体を動かすことができるため身体能力が向上するという仕組みだな。まずは足からやってみよう。
戦いにおいて速度とは最も重要なことといえる。相手より早ければ攻撃は当たらないし、こちらの攻撃を相手はよけられない。速度を上げることが何よりも優先してやるべきことだろう。
目を瞑り、足に意識を集中させる。ただ足に力を入れるのではない。体に流れる魔気を足に集中させるのだ。
「“脚力強化”!!」
・・・成功しただろうか?妙に足に力がみなぎる感じがする。
試しに正面に回し蹴りをしてみた。オレの足はうねりを上げ空を切った。オレの蹴りによって生み出された空気砲は地面をえぐりながら紫色の空間の壁に激突した。
「・・・成功した」
「なんだ今の!?風魔法か?」
「いや、体力強化魔法で強化した足で蹴りを繰り出しただけなんだが・・・」
「魔気を込めすぎたんだろう。まあG級の魔気を持っているからな。その分体力強化魔法で強化される脚力が尋常じゃないものになっているのだろう。これに装備魔法のバフ効果も加わったらすごいことになるかもな。」
ルネリア先生の使った体力強化魔法と同等かそれ以上の威力。初めてだったし、練習すればもっと強い体力強化魔法を使えるかもしれない。
「装備魔法のコツをルネリア先生に聞きに行こうかな・・・。次回の授業まで待てない・・・」
「それはいい考えだ。オレも他の部位の体力強化魔法をやろうとしたがうまくいかない。コツを聞いてみたい。」
・・・・・・・・・・
ルネリア先生の研究室を訪ねた。
ドアをノックする。
「失礼します、一年のトーマとダネルです。身体強化魔法について聞きたいことがあってきました。入ってもよろしいでしょうか。」
「どうぞ~。」
部屋の中は熱気に包まれていた。研究室の中は筋トレ器具と人体模型、そして校庭に転移することのできる水晶が置かれていた。ルネリア先生は汗びっしょりだ。
「筋トレをされていたんですか?」
「あははは。筋トレじゃないよ。身体強化魔法を練習していたんだ。見てみて。このダンベルには重力魔法が書かれていて、重さが5tもあるんだ。魔力の込め方で重さが変わるようになってる。何もしなければ当然持ち上げることは出来ない。身体強化魔法を使えば簡単に持ち上げられるけどね。」
そう言ってルネリア先生は5tもあるというダンベルを片手で軽々と持ち上げた。ルネリア先生の腕は決して太くはない。女性らしい、細くて美しい腕だ。
「本当に5tもあるんですか?」
ダネルは信じられないといった感じだ。ダンベルには確かに重力魔法の魔法陣が描かれている。5tあってもおかしくはないと思うが、確かに信じられないな。
「持ってみるといい。」
そう言ってルネリア先生は静かにそのダンベルを床に置いた。
ダネルはダンベルを片手で持つとそれを上に持ち上げようとした。持ち上がらない。今度は両手で持ち上げようとする。持ち上がらない。顔を真っ赤にして持ち上げようとする。しかしダンベルは涼しい顔をしてピクリとも動かないのだ。
「どう?信じてくれた?こんなに重いダンベルも身体強化魔法を使えば簡単に持ち上げられるようになるよ。」
「・・・やべえ、なんか興奮してきた!身体強化魔法を習得できれば一気に強くなれる気がしてきたぞ!」
「あなたは強くなりたいの?」
「はい!仲間から信頼されるような強さを手に入れたいと思っています。」
「・・・暴力のために身体強化魔法を習得するの?」
「いえ、違います。守るために身体強化魔法を習得したいと考えています。」
「ふふふ。それなら大歓迎。良いでしょう。身体強化魔法について、授業外ではあるが伝授しようじゃないか。」
「ありがとうございます!」
「それにしても、ただでさえ階級が高いのに向上心まで最高級とは。君たちはホグワール魔法学園史上最高の生徒になるかもしれないな。」
ルネリア先生は授業外では若干男らしくなるようだ。
授業中のルネリア先生と目の前にいるルネリア先生とでは印象が全く違う。使い分けているのだろうか。
「“フィールドチェンジ”」
ルネリア先生は研究室に置いてあった水晶型の魔道具で校庭に転移した。
「便利だろう?この魔道具。現実世界に戻ると元の空間にリセットされるからどれだけ荒らしても問題ないのさ。」
なるほど、ルネリア先生が使った魔道具は授業中に使ったものと同一のものらしい。
授業でルネリア先生が地面をえぐってできた大きな穴は元通りになっている。
「さあ。修業を始めようか。」
ルネリア先生とオレとダネルの秘密|(?)の特訓が始まった。
・・・・・・・・・・
やはりこいつは只者じゃない。
初めて出会ったときからこいつはなんかオーラが違っていた・・・ような気がする。
金虎会員どころか、親父よりもすでに強いんじゃないだろうか。
さっきの体力強化魔法だってそうだ。
認めたくはないが、祝福の恩恵を受けているオレよりも強力な脚力を手に入れていた。
しかも魔法だけではない。剣術も極めているのだ。間違いなく今のオレよりは強いはずだ。
しかも努力家。いわゆる努力のできる天才ってやつだろう。
階級はG級。神レベルの精神力と神の名を冠する祝福。オレがこいつよりも強くなれる日なんて来ないのかもしれない。ただ、こいつのそばで鍛錬していればオレも相当強くなれると確信しているのだ。
ペネムやエルと仲良くなれたのもデカい。こいつらと共にこの学園で鍛錬すればきっとみんなを守れるようになるはずだ。
二度とあんな悲劇を起こさないために。オレは今日もまた一歩強くなるのだ。
ダネルの過去についてはまた別の機会に本人に語らせます。ペネム・マルティエルの過去についても、いずれ本人たちの口から語られると思います。
流れで載せれない場合は番外編として出したいと思います。