第9話:何事も、本質を理解するって難しいよね
課題が落ち着いたので、結構速いペースで更新できました!
とある事情で、実家の熊本に帰ることになりました。
また少し遅れるかもしれませんが、よろしくお願いします。
祝福「ゴッドハンド」。無限に存在する祝福の中でも神の名を冠する祝福は数えるほどにしかない。
さらに言うなら、いままで神の名を冠する祝福を受けたのは伝説の勇者と魔王だけである。伝説の勇者は既に死んでいるため、現存している神の名を冠する祝福は二つしかない。
家族に祝福の名を伝えると
「やはり!トーマ様は神に選ばれし者、神童だったんですね!」
「さすがは私の息子だ!」
「すごいや、やっぱり兄ちゃんはすごいや!」
「ハッハッハ!神の名を冠する祝福とは!なんという幸運。」
「トーマ、いったいどんな祝福なの?」
「それが、ただ祝福を発動状態で何かに触れるとその触れたものの魔素を吸収するってだけの能力みたいなんです。」
「・・・神の名を冠する割にはそんなに凄そうな祝福には感じませんね?」
「・・・いや、神の名を冠するくらいだ。きっと本質を理解できれば、もの凄い祝福であることは間違いないだろう。」
「そうね、能動系の祝福はその本質を理解できてこそ本領を発揮する。まずは本質を理解できるように祝福をちゃんと理解するところから始めなさい」
「はい、お母様。わかりました。」
「トーマ、伝説の勇者様の物語を読んだことあるか?」
「はい、四歳のころに。祝福の存在を知って調べていたときに読みました。」
「そうか。四歳の時に読んだっきりならもう一度読んでみるといい。なにかヒントが得られるかもしれんぞ。」
「そうですね、もう一度読んでみることにします。」
・・・・・・・・・・
父の書斎に来た。ここに来るのも結構久しぶりだな。相変わらずすごい量の本だ。
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『伝説の始まりと終わり:ネイチャーレイチャー著』
暗黒時代、それは人間が魔族による支配のもと、わずかな希望の光も見えない人生を歩むことを強制させられた時代のこと。圧倒的な強さを誇る魔王軍を相手に、人々は絶望するしかなかった。
暗黒を生きる人間の中に一点のまばゆい光が現れた。その光は自らが光るだけでなく、周囲を照らし、暗黒の世界を明るく照らした。その光こそ、人間を魔物の支配から解放した伝説の勇者、ヘラクレスである。
(中略)
彼が12歳になったとき、神は彼を人間の救世主にするべく、神の名を冠する祝福を与えた。
その名も「ゴッドブレイブ」
彼の能力で人間は魔王の精神支配から回復し、反乱をするだけの気力を取り戻した。
人間はその隠し切れぬほどの恨みを糧に、魔族との戦いを長い間続けていた。
これが後世に伝えられることになる「革命戦争」である。
この戦いで多くの人間が命を落としたものの、最後に勝ったのは人間であった。
精神支配によって祝福の発動を抑えられていた人間の中に天才的な魔導士が隠れていた。
その天才魔導士は物理攻撃が効かない魔王をヘラクレスとの戦いで疲弊したところを狙って封印した。
疲弊していた上に、ヘラクレスとの戦いに集中していた魔王は隙を突かれる形で封印魔法をまともに喰らってしまった。こうして、革命戦争に事実上勝利した人間は自由と希望を手にし、新たな歴史を築き始めた。
この天才魔導士こそ、生きる伝説 アブラカ=タブラ その人である。
(以下省略)
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この文章から考察するに、勇者が授かったという「ゴッドブレイブ」の能力は
・精神攻撃を完全に無効化し、それは味方に付与することも出来る。
・魔王と互角に戦うことができるほどの戦闘能力を得る。
こんな感じだろうか。魔王と互角に戦うことができるほどの戦闘力を祝福の力で得たのかはわからないが、少なくとも勇者ヘラクレスは魔王と同じくらいの戦闘力を有していたことになる。
ブレイブ、勇敢とか勇気とか、そういう意味だろうか。精神攻撃を無効化するほどの勇気を自分と味方に付与する。確かにすごいが、精神攻撃を無効化するだけの能力で魔王と互角に戦えるものだろうか。
魔王を封印したというアブラカ=タブラのほうがよっぽど凄い祝福を得ているのではないだろうか。
いつか会ってみたいものである。
さて。本題に入ろう。ゴッドハンド、魔素を吸収する手が最強か。物は試しだ、実際に魔素を吸収してみようではないか。
「うーん、どうしようか。何か手ごろに魔素を吸収できるものはないかな?」
「それでしたら、私がこの火の魔法陣に魔気を注入いたしますから、それを吸収されてはいかがですか?」
「おお、名案だね!じゃあ、お願いするよ。」
金属板の上に書かれた火の魔法陣にレイカが手を置いた。小規模の火の魔法だ。
「"ゴッドハンド"」
祝福の名を宣言すると、オレの手が神々しく光を放った。そしてその手を燃え上がる炎に近づけた。
その瞬間、炎はヒュッと音を立てて消えてしまった。
「・・・・・レイカ、君が注入した魔気量的に本来なら炎はあと何秒くらい維持できる予定だった?」
「はい、あと十五秒は燃えているはずでした。」
「なるほど・・・。この能力の本質が見えてきたかもしれない。」
「本当ですか!」
「それを確かめよう。アリスを庭に呼んでくれ。」
「承知しました。」
「僕の仮説が正しければ・・・これは物凄い能力だ・・・。」
・・・・・・・・・・
「お呼びでしょうか、トーマ様。」
「うん、ちょっとやってほしいことがあってね。」
「やってほしいこと?」
「僕に向かって、君ができるだけの全力の水魔法を撃ってほしいんだ。」
「え、ええ!そんなことできません!」
「いいから!君じゃないとお願いできないんだ。頼むよ。」
「・・・わかりました。では」
「よし、こい!」
アリスは目をつぶる。そして集中し何かを唱え始めた。詠唱しているのだろうか。
「トーマ様、いきます!"ロマサガの咆哮"!!!」
まともに喰らえば全身を骨折してしまいそうな水魔法がオレを襲う。
「具現化せよ、ゴッドハンド!!」
オレの目の前に全長3メートルほどの神々しく光る大きな手が出現した。
その手にアリスの水魔法が当たると同時に、ヒュッという音と共に水魔法は跡形もなく消滅した。
「間違いない、ゴッドハンドはあらゆる魔法攻撃を無効化することができるんだ・・・。
魔法は魔素を糧に繰り出される。その魔素を吸収されれば魔法は当然消滅する。
つまり、ゴッドハンドは言い換えれば[あらゆる魔法を無効化する能力]というわけだ」
「な、なるほど・・・。ものすごい能力ですね。」
「この世の自然現象は魔素をエネルギーとしていますから、自然現象もその力なら無効化できるのでは?」
「できるだろうね。しかも、単に無効化するだけでなく魔素を吸収してしまう。」
「さすが、神の名を冠するだけはありますね。」
少なくとも、魔法攻撃を主体とする悪魔などの精神体魔物に対しては非常に有利に戦いを進めることができるだろう。
先ほどのように具現化させることも出来る。すべてはオレの使い方次第だな。
神の手、この世界のエネルギーの根幹である魔素を吸収する手。対魔法だけではない。様々な場面で使えそうな祝福だ。
・・・ていうか、さっき具現化したときのゴッドハンド。某サッカー漫画のそれだったな。主人公が使うその技に技名も見た目もそっくりである。
「トーマ様、そろそろお食事の時間でございます。」
「ああ、もう夕食の時間か。すぐ行くよ。」
オレは家族の待つ食卓へ向かうのだった。
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「トーマ、祝福については何かわかったか?」
「はい、僕が授かった祝福は触った対象の魔素を吸収するというもの。このことを言い換えれば、ゴッドハンドは対象の魔法を完全に無効化する、という能力です。アリスの水魔法で試しましたが、アリスの水魔法を完全に無効化できました。」
「なるほど、魔素を吸収するってことは魔素をエネルギーとしている魔法を無効化することができるというわけだね。やっぱり兄ちゃんが授かった祝福はすごいものだったんだ!」
「ゆっくり吸収するわけではなく、一瞬で吸収してしまうのね。」
「はい、そのようです。」
「それなら吸収というよりは[奪う]という言い方のほうがあってるかもしれないわね。」
「ああ、確かにな。そのほうがしっくりくる。触った対象の魔素を奪うため、魔法なんかは無効化できてしまうというわけだな。しかも奪うのは魔素だから、魔気を使う人間には何の害もなく、魔素をエネルギーとしている魔物に対しては効果覿面というわけだな!」
なるほど・・・。ん?てことは、オレって魔物は一瞬で倒せるようになったってことか?魔王さえも?
もしそうだとしたら、封印されている魔王を完全に消滅させることも出来るのではないだろうか。
いやいや・・・そんなことができるはずがない。慢心はいけない。いくら最上級の祝福とは言ってもそこまでは出来ないはずだ。
「ところでトーマ。学校の件だが・・・」
「は、はい。もう決まりましたか?」
「うん、祝福の結果を聞いて、私はホグワール魔法学園が良いと思う。魔法を無効化できるというのなら、あの学校が最適だろう。」
父が言うのならホグワールに行くのが最適で間違いないんだろうが、一応理由が聞きたい。
「なぜホグワール魔法学園が良いと?」
「あそこは魔法の研究が最も進んでいる学園で、魔法に関する研究室が何個もある。魔法が得意なトーマにあってると思う。さらに魔法を無効化できるならきっとそれが役に立つ日も来るだろう。また、あそこは恒例行事として闘技大会がある。魔法を主体にして戦う生徒がほとんどだから間違いなく1位をとれる。あそこを首席で卒業できれば将来きっと役に立つし、各国の貴族も学びに来るほどの学校であるからお前がこの家を継ぐことになったときその繋がりがお前を助けてくれるだろう。」
なるほど。たしかに良さそうだ。ホグワール魔法学園にしようかな。
「トーマ様が絶対にホグワール魔法学園に行きたくなる情報をお教えいたしましょうか?」
「なに?レイカ。」
「ホグワール魔法学園の学園長は、あの伝説の魔導士、アブラカ=タブラが務められているのですよ。たしかトーマ様、会ってみたいとおしゃっていましたよね?」
なんてことだ。それはもう行くしかないではないか。
「お父様、僕はホグワール魔法学園に進学したいと考えました。お許しいただけないでしょうか。」
「もちろんいいとも。がんばりなさい。」
「いろんな人と出会って、色々な経験をするといいわ。」
「兄ちゃんなら首席間違いなしだね!」
「僕より優秀な奴なんていっぱいいるさ。」
こうしてオレのホグワール魔法学園への進学が決まった。魔法学園でやりたいことは決まっている。アブラカ=タブラと話をすることだ。是非勇者ヘラクレスの話も聞きたい。不安を抱えつつも、若干の高揚感を胸に、オレは出発に向けて準備を進めるのだった。
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とある別次元の世界にて・・・
「モイラよ、貴様トーマになんて運命を与えたのだ!」
「なんだ、いきなりやってきたと思ったら。トーマとは誰だ?」
「貴様が[神をも惚れさせる世界一の容姿]を与えた人間だ。」
「ああ、あいつか。とんでもないバカだよな。望めばどんな運命も叶えられたというのに。」
「バカなことあるか!最強の力を手に入れたところで、神に影響を与えうるほどの能力を持つことはない。しかし奴は神に影響を与える容姿を手に入れてしまった。これ以上にない運命ではないか!」
「・・・え、もしかしてベネフィー・・・惚れちゃったの?」
「ああ。しっかりと惚れてしまったよ。おかげで最上級の祝福を与える羽目になった。」
「ということは、奴は三人目の最上級祝福の保持者となったわけだな。」
「ああ。我が誰かに劣情を抱くなど、夢にも思わなかった。」
「なるほど・・・そう考えると、あいつが願った運命は考えうる最高の選択だったというわけか。」
話している二柱の神に話しかけるものがいた。
「で?そいつはどんな祝福を手に入れたんだい?」
「ゴッドハンドだ。ゴッドハンドを手に入れた奴には、さすがのお前でも勝てそうにないな。」
「確かに、魔法が聞かないのは戦い辛そうだ。魔王にも勝てるんじゃないか?」
「ああ。奴の祝福に太刀打ちできるのもゴッドハンドを持つ奴だけだろうからな。」
「事実上、今現世で一番強いのってトーマなんじゃない?」
「いや、それでも強いのは魔王だろうよ。奴は最強種の悪魔ではあるが、その祝福のおかげで物理攻撃を主体とする好戦的な特殊個体だからな。悪魔特有の闇魔法など、悪魔本来の強みを封じれても、物理攻撃を防げないんじゃ、まだ勝ち目は薄いかな。」
「封印が解けたら、またお前が地上に降りて戦うのか?」
「いやあ、半神半人になった今、オレが地上に降りて戦うことは出来ないだろう。理から外れた存在になったんだ。後のことは今を生きる人間に任せるさ。」
「ふうん、意外と薄情なんだな。」
「それに、魔王が復活してもそのトーマってやつが人間を救ってくれるんじゃないか?」
「でも、魔王のほうが強いのだろう?」
「今は、ね。」
読んでいただき、ありがとうございました!
コロナの影響で、自動車学校の予約が全然入れられないんですよね・・・。
早く車に乗れるようになりたいです。




