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お仕事の説明

「はいはい、二人ともそこまでな!俺たちだって暇じゃねーから、さっさと話を進めるぞ!」


ベアトリーチェ王女とジャンヌのやり取りを見兼ねたクロードがようやく止めに入る。

アイザックも、ベアトリーチェ王女の手をそっと引いて、優しく隣に座るよう促す。

アイザックは見た目に反してとても優しいようだ。

そう、喩えるなら大きなハスキー犬とでもいおうか。


「あ、今アイザックのこと優しいとか思ったでしょ。大きな犬みたーい、とか。」


「心が読めるんですか?!」


聞いてしまった後にアイザックに失礼であることに気づいた。


「あはっ!キアラちゃんて顔に何でも出ちゃう~!でも、アイザックには妬ける~。」


「何なんです?!じゃなくて!ロス様!大変失礼いたしました!」


「いや…僕は、大丈夫…」


黒い切れ長の目が優しく細められる。

やはり、アイザックは長身で無口なところがとっつきにくい見た目に反して、心根は優しいのだとキアラは確信した。


「あー、もうお前が喋ると話進まねーから、俺から話すわ。」


「そうね。ふふふ、ジャンヌ、ハウスですよ、ハウス。」


「くっ…」


痺れを切らしたクロードが口を開くと、ベアトリーチェ王女がハリセンをこれ見よがしにチラつかせる。


「えーっと、貴女の…いや、何かあった時に呼びにくいから、名前でいいか?俺たちのことも名前でいいから。あと、敬称含めて敬語も不要だ。面倒くさいから。」


「敬語もですか…いきなりは難しいかもしれませんが、お望みであれば善処いたします。私のことはキアラとお呼びになって構いませんわ。」


「ありがたい。」


もともと家格や身分に、多くの貴族が持っているであろうほどのこだわりはないので快諾する。

ただ、長く染み付いている習慣もあるので、自分の言葉遣いについては慣れるまで難しいかもしれない。

いや、どうだろう、このメンバーならすぐに敬語なんか吹き飛ぶかもしれないとキアラは思い直す。


「ずるい!キアラさん、私のことも愛称のビーで構わなくってよ?」


「それは流石にどうでしょう…」


早速「様」から「さん」に変わったベアトリーチェ王女の順応力の高さといったら。

キアラの記憶では、彼女は確か現在16歳で、キアラより1つ下のはずだ。

とはいえ、「ビー」のような親しい間柄で呼ぶような呼び方は…と躊躇っていたら、悲壮感漂う顔で見られてキアラは胸を抑える。

可憐な少女にそんな顔させたら心がえぐられる。


「…で、では、ベアトリス様…でいかがでしょうか?」


途端に、ベアトリーチェの顔がパァっと晴れる。

その目は、よく見ると陛下譲りのハンターグリーンだ。

顔の造りとしては、どちらかといえば王妃様に似ているのかもしれない。

そして何故か隣の美人(仮)がキアラを見てくるが、それは完全に無視することにした。


「はいはい、良かったなベス。で、今回の大まかなところは、陛下からお話があった通りなんだが…まずは、キアラから聞きたいことを聞くか。」


さらっとベアトリスをもっと気軽く呼んだクロードの距離感に驚きつつ、頭の中を整理する。


「そうですね…順を追って整理させていただきたいのですが…そもそも、なぜ私なのです?」


「それは、キアラちゃんが可愛いから♡」


「もうお前はだぁっとれ!!」


キアラはその様子をみて、たしかにクロードは見た目と中身の差が激しいのだと思う。

クロードの見た目は、そう、喩えるなら、恋愛小説に出てくる王子様そのものだ。

シルバーグレイの少し波打つ髪は、騎士という職から言うとやや長めかもしれないが、清潔感は忘れていない。

気怠げに見えるほど深い二重に、珍しいアメジストの大きな瞳が印象的な美形。

隣の美女(仮)と同じ系統の美しさがあるが、服の上からでも分かる引き締まった身体が男性騎士であることを主張している。


「キアラが選ばれた1番の理由は、オルティス侯爵がいずれの政治派閥にも属してないからだ。」


キラリと光る、その瞳と同じ色のピアスは、自分に似合うと分かっていて付けているに違いない。


「数代遡っても汚点がなく、派閥に属さず、ベスと歳の近い娘もいて、しかも家格も低くない。そんな家自体ほとんど国宝級の珍しさなんだが、オルティス侯爵ほど白い貴族っていうのは、もう唯一無二だろ。」


「ああ…確かに。我が家は少し特殊かもしれません。」


オルティス家は古くから続く貴族だが、少し特殊な一族であるため、政治派閥には属さない。

クロードが新の意味からそれを言ってるのかキアラはには判断できず、当たり障りのない答えを返す。


「そんな環境で育ったから、キアラちゃんは純粋で可愛いんだよねー♡」


「ふふふ。いちいち鬱陶しいですわね。」


ベアトリーチェ王女が再び#逸物__ハリセン__#をちらつかせる。

それにヒクつく彼女…いや…彼を見ながら2つ目の質問を。


「…では、あなたのソレは…その…趣味なのでしょうか?」


「お前、変態だと思われてんぞ。」


「いえ、生まれ持った性が…という複雑な事情がある可能性も捨ててはおりません。私は、そういったことを差別いたしません。」


「いや、違うからね?え、何その『私は理解者です』って目。キアラさん、俺は健全な青年男子で、恋愛対象は女性ですからね?!」


じゃあ、なぜ…と眉間にシワを寄せてキアラが言外に問う。


「まず、騎士やベス自身が四六時中キアラに付いて、侍女の仕事や、ここの内情、王城の案内をするわけにはいかないよね?かといって、クロードの言うように、キアラのようなご令嬢はおいそれとは見つからない。」


「…なるほど…」


意外と現実的な理由に驚く。


「それに、俺の役どころはクロードやアイザックよりも身近な護衛って意味合いが強めなんだよ。何かあった時の戦闘要員。」


戦闘要員の言葉に、改めて彼を見てみる。

確かに、こうして並ぶと肩幅は女性に比べて大きいような。

ただ、着ているお仕着せが首の詰まったデザインで、スカートが足首まですっぽりと隠している上に、腹が立つほどの胸の膨らみのせいで、つまり、体型はよく分からない。


「そんなに身体を見つめるなんて……キアラちゃんの、エッチ。」


「っっ!!べ、ベアトリス様!」


「はーい!」


バーーーーン!!


本日3回目の制裁を与えられたジャンヌが蹲る。

彼に関しては呼び捨てに抵抗はない、全くない、とキアラは拳を握る。


「まあ、こんなんだけど、いざとなったら大丈夫だから、心配すんな。」


「(コクリ)」


「そうそう、残念なのはいざって時にしか役に立たないことなのよねぇ。ふふふ。」


「その前に、いざとなる時が来ないことを祈りたいのですが。」


そこで3つ目の疑問を思い出す。


「あの…そもそも、ベアトリス様の旦那様が、王太子の座を奪うことは可能なのですか?その、継承順位から言って…」


「さすが!やっぱりキアラちゃんは賢いわね~。」


突然元気になるジャンヌ。

もうこのキャラは好きにさせよう。

早くも耐性がついてきたキアラだ。#____#


「第二王子がいらっしゃいますよね?」


「ああ、ただ、ウィルはまだ5歳だからな。」


クロードがそう言って肩をすくめる。

ジャンヌが苦笑してその話を引き継ぐ。


「そう、継承権としてはウィリアムの方が勿論上。でも、立太子の儀に臨むことができるのは満18歳以上の男児だと王立法に定められているんだよね、これが。この法律から変えるのは、頭の固い貴族院の爺さん連中が許さないだろうからね。」


第二王子への気軽な呼称も気になったが、ジャンヌのこれまでにない真剣な様子にキアラは少し驚いた。

どこか剣呑な光を湛えるフォレストグリーンの瞳。

口ぶりからいって、キアラには分からない、いわゆる政治的な壁があるのかもしれない。


「そうなると、18歳以上の、一番王と血縁の近い男児から王太子を選ぶことができますのよ。両親の兄弟はいずれも他国に嫁いでおりますので、私の夫になる方が、自ずと次の王太子候補となりますの。」


「第一王子が…いない場合に…」


アイザックの言葉に、キアラの胸にザラリとしたものが沸き立つ。

それはつまり、王太子が何らかの形で表に立てなくなったとき…例えば、亡くなってしまったときに…という意味が含まれていることを察する。


「…それで、具体的に私は何をすれば良いのでしょうか?」


「キアラは、ベスの周りの人物を深く観察してほしい。縁談相手は勿論、茶会、舞踏会なんかも含めて。俺も基本的には行動を共にするけど、別でも動くつもりだし、本物の令嬢の方が入りやすい場っていうのは意外とあるからね。それに…」


「なんです…?」


ジャンヌは何かを言い淀むと、キアラを見つめた。

正しくは、その目の奥の何かを見つめているに思えた。

結局ジャンヌは何も言わず視線を外すと、クロードに先を譲った。

一体何だったのか。


「まあ、何か困ったことがあれば、いつでも俺やアイザックを頼れ。あー、男手が必要だとか、護衛を頼みたいとか、調べ物をしたいとか、何でもいい。基本的には、鍛錬場か、騎士団の執務室にいっから。」


「ただ…僕たちには緊急の遠征なんかもあるから…そういう時はジャンヌで…」


「なるほど。分かりましたわ。」


「キアラさん、こんなことに巻き込んでごめんなさいね。貴女に危険なことがないように、私も彼らも細心の注意を払いますわ。」


「いえ…」


心底すまなそうに微笑むベアトリーチェ王女の様子にキアラの胸が痛んだ。

国がどうという話以前に、よく考えれば、この小さな花のように可憐な彼女の未来を汚そうという人間がいるかもしれないのだ。

そう思うと、自然とお腹に力が入った。



グゥ~~~キュルッ



もう、何でこのタイミングでお腹がなるかなーと、キアラは消えてしまいたい思いに駆られた。

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