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クロワッサン

突然の王命を受けた日から2日後の今日。

つまり、書状に記された入城の予定日の朝、オルティス家一同は優雅な朝食をとりながら、王家からの迎えをゆったりと待つ…


「キアラちゃん!やっぱり着ていくドレスはこの間買ったスミレ色の方がいいんじゃないかしら?!胸元にレースがある!」


なんてことはできるわけがない、と。

ええ、分かってましたとも。

キアラは自室の中を侍女以上にウロウロする母を半目で見つめながら、本日何度目かの溜息をつく。


「はぁ…お母様、ドレスは昨日散々話し合って、こちらにしたじゃありませんか。『シンプルなデザインだし、ライトブルーが清楚な感じでいいわよね』って言って。ちなみに5分前まではあのコーラルピンクのドレスが可愛い、そのまた10分前にはあちらのエバーグリーンのドレスが大人っぽい、その15分前にはオリエタルブルーのドレスでしたっけ?」


はじめに現在イブが手にもつ装飾の少ない控えめなデザインのAラインドレスを指差した後、部屋に散らばるドレスを次々と指差して指摘する。


「でもでも!今朝目覚めた時に、ライトブルーのは地味過ぎるんじゃないかと思えてきたのよ!ほら、キアラちゃんは胸元が…ちょっと…こう、寂しげだし。ね?」


そう言って胸元に手をやり、眉尻を下げて自分を見る母親にこめかみがヒクついてしまうのは罪だろうか。


「あの、お母様…先日お話しましたように、王城での主役が私でないという点は明白です。私の服など、ましてや胸元など誰も気にしません。」


「そんなこと言っても、今日は陛下と謁見の機会があるかもしれないのよ?!王宮には大勢の方がいらっしゃるだろうし、娘の素敵さを少しでも上げたい、娘の可愛さを色んな方に認めてもらえたらと思うのは親心じゃないのぉ。」


娘が親心を分かってくれないっ!イヤイヤッ!と両手で顔を覆う母に見えないようにこっそりとため息をつく。

これを可愛いと思うか、めんどくさいと思うかは人それぞれだろう。


「……分かりました。では、お母様の仰るように、そのスミレ色の方にしますね…」


キャミソールとズロースにコルセットをつけただけの、未婚女性としては恥ずかし過ぎる状態で待たされたまま、かれこれ1時間は着ていくドレスを迷ってるのだ。

もういい加減どれでもいい。


「きゃー!キアラちゃん大好きよー!」


「はいはい…」


それからドレスを着た我が子を見てようやく満足したらしい母が部屋を出ていくと、キアラは疲れたようにドレッサーの前に座る。

その顔に軽く化粧を施しながら、イブが口元を緩めて話しかける。


「お疲れ様でございました。ご主人様と奥様はキアラ様のことを溺愛しておられますからね。」


「愛してくれてるのは嬉しいんだけど、いつまでも若い…というか扱いが子どもに対するそれというか…」


「私はそれも仕方がないと思いますわ。奥様にとってお嬢様はいつまでもお嬢様なのです。」


どうかご容赦をと苦笑するイブに分かっているというように軽い笑みを返す。

最後に髪をハーフアップにしてもらって準備は完了だ。

時計を見ると予定していた時間よりすっかり遅くなってしまっていたが、まだ迎えはきていない。


「さて、腹ごしらえをしてから入城…いえ…戦場に臨みたいわ。」


「朝食のご用意はできておりますので、お嬢様は先に行かれてください。私は荷物の最終確認をしてからすぐに馬車に積めるようにしておきますので。」


「ありがとう。では、甘えさせてもらうわ。」


必要なものは王家で用意するとあったが、そもそも通いなのか住み込みなのか、どれくらいの期間なのか、仕事内容はどのようなものかなど不明なことが多すぎる。

用意しておいて損はなかろうと、ある程度の下着を含む衣類と装飾品、メイク道具や本など、いくつかの物は持参することにした。

持ち込みがダメだと言われたら、そのまま馬車でもって帰ってもらえば良い。


ダイニングに入ると、イブよりも歴の長い侍女のゾーイが両親の向かい側の椅子を引く。

飴色のダイニングテーブルに、今朝は真っ白なテーブルクロスが敷かれている。

目の前にはツヤツヤと輝くスクランブルエッグ、周りがカリカリに焼かれた厚切りベーコン、瑞々しいレタスと白アスパラガスのサラダが、彩り豊かに皿に収まっている。

テーブルの中央にはほんのり湯気が立ち上る柔らかそうな白パンと、キアラの大好物であるチョコレート入りのクロワッサンが盛られた籠が置かれている。

さりげなく淹れられたモーニングティーの香りを吸い込むと、入城への杞憂が少しはれた。


「神の恵みと、この幸福に、今日も感謝します。」


「「感謝します」」


父の言葉に続いて食前の祈りをささげる。

さあ、食事だ!


と、ここで玄関の呼び鈴が鳴る。

まさかでしょ?!と思っていると、やはりそのまさかで、トーマスが王城からの迎えがきたのだと告げる。

くっ!せめて迎えの時間さえ知らせてくれてれば!

クロワッサンくらいなら…とモタモタしていると、見兼ねた父が眉をグッと下げて言う。


「キアラちゃん、何でも美味しそうに食べるキアラちゃんはとっっても可愛いけど、さすがに早く行った方がいいんじゃないかな?」


くっ、バレた。


「そうよ、キアラちゃん!さ、早く!クロワッサンは逃げませんけど、お迎えは逃げちゃうわよ!」


「お母様、華奢な身体のどこにそんな力が?というか、いや、お母様のせいで食べ損なったんですけど?!」


グイグイ進む母に引きずられるようにして玄関につくと、そこに待っていのは、執事のトーマスとひとりの男性だった。

腰の剣や服装、ピンと伸びた立ち姿からいって騎士だろうか。

キアラを前にして深々とお辞儀をする。


「道中つつがなく、オルティス侯爵令嬢をお送りいたします。」


「まあ、素敵!では、よく食べる娘ですが、どうぞ宜しくお願いいたしますわ。」


「キアラちゃん!パパはキアラちゃんが出来る子だって分かってるからね!頑張ってね!」


「お嬢様、食べすぎた時用の胃薬もバッチリ積んでありますので!」


「では、お嬢様、お気をつけていってらっしゃいませ。」


「何なの、どこまで私を疲れさせたいの。」


まともなのは最後のトーマスだけだった気がする。

恥ずかしさに赤面するキアラに気づいてないのか、迎えの騎士は家族の散々な挨拶にも動じることなく丁寧に一礼すると、キアラを馬車までエスコートする。

件の紋章がついた立派な2頭立て馬車に彼も一緒に乗り込むと、壁を叩いて馭者に出発の合図を送った。

ガタンと音がして馬車がリズムよく走り出す。

あまり揺れを感じないのは、さすが王家の馬車というべきか。


とうとう王城に行くかと思うと、なんだかドキドキしてきたキアラ。

お迎えの彼とも何か世間話でもした方がいいよなとチラチラと連れを見つつキアラは思った。

これだけは言わせてほしいと。


……


……


クロワッサン~~~~泣!!

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