黒白
矛盾がないように書くのはむずい
後々設定資料見直して改稿するかも
さて、名前を覗いた結果他にも気になる情報があったわけだが。
「なあ、お前さん」
「ん?」
「16歳?吸血鬼?多すぎる情報で混乱しているんだが⋯⋯」
矢継ぎ早に少女にそう問うと、ムッっとした表情でこう返す。
「16歳、もう大人。吸血鬼は成長が遅い。というか殆ど変化しない」
「じゃあ世の吸血鬼はみんなガキンチョなのか?」
「むぅ⋯⋯ガキンチョじゃない」
どうみたって10歳児ほどにしか見えない。
「じゃあお前さん「名前」ん?」
「ずっとお前とか貴方じゃ不便」
檻から出てすぐの地面に腰を下ろしながら、少女がそう言う。確かに同感だ。
「そうだな⋯⋯だが、どうするかな」
「付けて」
「俺が?」
そう返すと、小さく頷き期待を込めた目でこちらを見つめる少女。
犬猫じゃあるまいし、どうしたもんかな⋯⋯。
どうして妻子持ちでも無いのに、名付けで頭を抱える羽目になっているのだろうか。
「何か希望とか無いのか?」
「特に無い。貴方がつけてくれればそれで良い」
困った。ハードル高いぞおい。
そして俺に懐きすぎじゃないか?吊り橋効果ってやつなのか?熊に襲われる恐怖を共有した的な。
「んーじゃあ、白?」
「シロ?何だかペットみたい」
だよな。俺もそう思う。だが今俺が名付けたものをずっと使うわけでなく、仮名の様な感じで使い、名前を思い出したらそちらへシフトしてもらう為に、敢えて気に入らなそうな名前を提案したわけだ。
⋯⋯ネーミングセンスがないわけじゃ無いぞ。
「綺麗な白髪に(不健康そうに思える)白い肌、俺はお前さんに合ってると思うけどな」
「綺麗⋯⋯?」
「ああ。綺麗だと思うぞ。俺は好きだ」
「⋯⋯ん」
おや?ほんのり顔を赤らめていらっしゃる。これは作戦成功か?白でいけるんじゃ無いか?
「じゃあ白、で良いか?」
「ん!シロ気に入った!」
そう白が言うと、白の身体を眩い光が包む。
思わず腕で目を隠し、光が収まるまで待つと、勝手に白の生体情報が目の前に表示される。
◾️生体情報
名前:白
年齢:16
性別:女
種族:吸血鬼
⋯⋯まじか。生体情報として認識されちまったぞ。
自身の不用意な行動が取り返しのつかない事を起こしてしまったと思い、白に謝る。
「⋯⋯白すまん。白の名前が上書きされて、書き換わっちまった」
俺の謝罪に対し、白は一瞬疑問符を浮かべた後、微笑み。
「?問題無い。シロはシロ。今から、ずっと」
「いやまあ⋯⋯でもなぁ⋯⋯」
名前の手掛かりを喪失した事を聞いても、笑顔でそう言う白を見ると、別に良いか、と思ってしまう。
「ありがとう。次は貴方の番」
「お、そうか。じゃあカッコいいのを頼む」
「クロ」
えー⋯⋯。白と黒か⋯⋯。ゴチャゴチャしてるより、シンプルでいいと思うんだけど。
「ちなみに命名基準は?」
「綺麗な黒い髪。力強い黒い瞳。全身真っ黒。これはもうクロと名乗るしか無い」
「⋯⋯途中まで褒められていた気がしたが」
「?クロ格好いいよ?」
まあ白と黒、いいコンビっぽい名前かね。
元々の名前を覚えてないから、なんとも言えないけど、苗字がないとちょっと違和感感じるな。
と考えていると、白を包んだ光と同じものが俺を包む。
「あっ」
どちらの声か、思わず溢れた呟きを合図に光が収束していき、俺の生体情報が開かれる。
◾️生体情報
名前:黒
年齢:25
性別:男
種族:人間
そういえばモザイクとの会話でも、飛ばされてからも自分の生体情報は見てなかったな。
俺って25歳だったのか。⋯⋯じゃなくて、黒になってるな、名前。
ニマニマしながら俺を見つめる白へ、苦笑交じりに伝える。
「どうやら俺はこれから黒、らしいな」
「クロとシロ、お似合い」
「だな」
白が嬉しそうにそういうと、何故だか心が暖かくなるような気がして、自然と笑みが溢れた。
◆──────────◆
「と言うことで、2人の名前も一新されたところで」
「ん」
「白はこの先どうする?」
気に掛かっていた質問を投げる。正直今更かよと思う部分もあるが、意思疎通は大事だ。
「クロと、一緒にいる」
「まあここでお別れってのもな、最低でもどこかの街までは一緒に行動するか」
常識的に少女(16歳)を連れまわすのも気がひける為、保護してくれるところに辿り着くまで、と考え発言したのだが。
白は瞳を潤ませ。
「クロと一緒。ずっと一緒。ダメ?」
こう言うわけだ。詰まるところは、熊から勝手に助けて、名前をつけて、ポイはないだろ。というモザイクからのお告げなのかね。
「ダメじゃないさ。だが白にも白の人生がある。俺に付き添うと、自由にやりたいことも出来ない様な状況に陥る可能性もあるぞ」
「それでいい。クロがいれば、良い」
んー、依存が過ぎる。独り立ちできるまで保護するべきか、より依存度を増させてしまう気がしないでもないが⋯⋯。
「わかった。白が嫌になるまで側にいな」
「旦那様の事を嫌だなんて思う妻はいない」
「誰が旦那か」
関係を飛躍的に進めようとする白にツッコミを入れつつ、周囲を見渡す。
「綺麗だって、好きだって言ったのに⋯⋯」
「耳当たりの良い部分を抽出すんな。俺は少女愛好者じゃないんだよ。っと」
俺は鉄くず木くずの中に車輪の残骸らしきものを発見し、白に問う。
「白、もしかしてお前馬車に乗って来たのか?」
「乗ってというか運搬された?あのままだと奴隷だったから」
そう言いながら、ボロ切れの首元を引っ張り、首輪を見せる白。
「奴隷?⋯⋯ああ成る程、それでその首輪で檻なのか」
「ん、これが有ると魔力が外に出されて、魔法とかが使えない」
例外はあるけど。と付け加え白が言う。
ふむ。
「白?そこから動くなよ?」
「ん」
俺の言葉の意図を理解したのか、顎を上げ首輪が見えやすい様にすると、じっとする白。
俺は手元の剣を構え、白を傷付けず、首輪を両断する事を考える。
そうすると剣術の恩恵で、俺の身体が俺のしたい事を達成できる様に、動く。白の首元を2閃。側面近くを両断し、白の首から首輪が外れる。
「っ⋯⋯!⋯⋯ふーっ、出来るもんだな、流石剣術」
「クロは剣術スキルも、高いレベルで持っているの?」
「ん?ああ剣術はそこそこな」
「嘘。徒手空拳も影魔法も尋常じゃない」
⋯⋯そりゃ誤魔化すのは無理か。目の前で見られているわけだし。心の中で、まあ白にならいいかと思い、打ち明ける事にする。
⋯⋯俺も随分とこの子に気を許しているな。
「悪い、スキルについては見せるのは構わないが、色々と複雑な事情と経緯がある。だから、白を助けるまでの俺の話、聞いてくれるか?」
長い様で短い、地球で光に包まれた後の話。
モザイクとの取引、俺の目的。話す内容に頭を悩ませつつそう告げると白は。
「⋯⋯ん」
肯定の意を示す、頷きで返した。