遭遇
文章書くの難しいのに戦闘描写とか無理ぽ⋯⋯
「何を⋯⋯やってんだコイツは?」
そんな事は誰に説明されなくても、見たままの光景が全てだ。檻の中から女性の頭を咥えて外に出そうとしている。
咥えられた女性は血濡れになり、既に事切れているのか抵抗する素振りはない。肩が引っ掛かり上手く外に出せないようだ。
影からそいつの行動を観察していると、諦めたのか首を食いちぎり、こっちを見た。
いや、厳密にはこっちは見ていなかったのかもしれない。だが見られたと感じた事と人間の頭を美味そうに咀嚼する獣を目の当たりにし、
「ゔぇっ⋯⋯」
しまった。そう思った時には既に遅かった。思わず嘔吐いてしまった俺を獣が見つめる。
正面から見た獣は熊のような見た目をしていた。俺とと目があった熊は、醜悪で嬉しそうな笑いを浮かべた。
『GURUAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』
新たな餌を見つけた熊は俺へ向かい跳ぶ。恐怖に身が竦み体が動かない。
跳びかかられる寸前、間一髪無意識に身体が動き、熊の側面へ全力で前転することで間一髪窮地を脱する。
回避出来た安心感で気を抜いた俺に、すかさず振り返りざま巨大な腕を振るってくる。
「ぐっ⋯⋯!」
殴られた勢いで頭の無い女性が入っている檻へ叩きつけられる。
どうやら熊との距離が近過ぎて、爪には運良く当たらなかったらしい。
「げほっ⋯⋯このクソ熊公め⋯⋯。どうやって逃げっかな⋯⋯」
痛む背中に手を当て、ふと気づく。檻の中に⋯⋯人がいる。
──白く長く乱れた髪に、白い肌。
──紅い瞳に溢れんばかりに涙を溜めて。
──汚れたボロ切れを身に纏う、齢10程の少女。
「⋯⋯て」
「え?」
白い少女が何かを発したが、聞き取れずに思わず疑問詞を発する。
「早く⋯⋯」
早く助けろとでも言うのだろうか。
「逃げ、てっ!早く、逃げてっ!!」
◆──────────◆
耳を疑った。
この状況に置いて、自身の安全ではなく、俺の心配?人間ってのは自分を何より優先する生き物じゃないのか?この子は一体何だ?
押し寄せる疑問に. 呆然とする俺に少女は重ねて叫ぶ。
「何、してる、の?早く、逃げて!」
逃げれるのであれば、今すぐにでも逃げたいわ。何故転移後すぐに命の危険に遭遇しなければならないんだ。
⋯⋯でもな。
痛む身体に喝を入れ、俺は熊に対峙する様に檻の前に立つ。
「何、で?」
「⋯⋯格好悪いよな。ここで逃げたら」
「え?」
ああ、格好悪いね。誰がどうこう言おうと、ここで逃げたら、俺じゃなくなる。
俺を知らない、俺が何を言うかと思うがな。
さっきまで逃げろってサイレン鳴らしてた心が、あの子見た瞬間から、そんな熊ぶっ飛ばしてしまえって言ってんのよ。
一目惚れ?多分違うな、これは恐らく──
「スタートから格好悪かったら、俺の物語はきっと面白くない、続きを知りたいと思わない」
「何、言ってる、の?」
──そんな綺麗なものではなく。
「いざという時こそ、男は格好よくあれってな」
──ただの男の意地だ。
◆──────────◆
そう言った俺を呆然と見つめる少女。
そしてそう言い切ったは良いものの、恐怖で心臓は破裂しそうだし、格好悪く足は震えている、俺。
俺たちのそんなやり取りに熊は意味を理解しているのかしていないのか、醜悪な笑みを崩さず、少しずつ少しずつ近寄って来る。
(どうする?!ここからどうすればいい?!恐怖で思考がまとまらな──)
──熊が俺に向かい跳び掛かる
「──────────ッ!!」
少女が何かを叫んでいる。
恐怖か、混乱か、原因は不明だが聞こえない。いや、認識出来ない。
跳び掛かってくる熊に対して俺は、
ガッッ!!!
カウンターで顎に跳び膝蹴りをくらわせた。
『GYAU?!?!?!』
向かい打たれた熊は訳も分からず跳び退る。
呆然としているのは俺も同じ。危険に対して身体が勝手に動いた。そう表現するしかない様な動き。
「「え?」」
一瞬遅れて、俺と少女の驚いた様な、気が抜けた様な呟きが重なる。
知らずに勝手に熊に対して構えを取る。腕を立て、利き足を後ろにし重心を下げる。この構えは⋯⋯ムエタイか?
『GURUUUUUU⋯⋯』
熊にダメージは殆ど無さそうだが、先ほどの応酬によりこちらを敵と認めたのか、笑みを消しこちらを警戒している様だ。
⋯⋯あー、何で忘れてたんだ。
先程の動き⋯⋯深く考えなくとも、アレの恩恵だよな。
「何やってんだか俺は⋯⋯」
許されるなら今この場で、頭を抱えて蹲りたい気分だ。痛みと恐怖に襲われていたとしても、あり得ないだろう。⋯⋯スキルの存在を忘れるなんて。
ゆっくりと構えを解き、棒立ちになる。
『?』
俺の行動に熊は首を傾げる。
そんな熊に向け手を向け、握っていた拳を開く。
【縛れ】
俺がそう呟くと、熊の影が熊の体を這う様に伸び進み、地面に縛り付ける。
『GAAAAAAAAAAAA!!??』
抜け出そうともがくも、身体を大きく動かす事が出来ない熊。だが俺は俺で驚きがあり、
「おいおい、Sの影魔法で縛ってるんだぞ?影魔法が弱いのか、この熊が規格外に強いのか⋯⋯」
少しでも身動きが取れる熊に驚きを隠せない、そういえば先ほど格闘術の恩恵で膝蹴りを叩き込んだ時も、ダメージが少なかった気がする。
「まあ、どちらにせよ動きが制限されている事に変わりは無い⋯⋯か」
そう呟き、熊へ歩を進めようとする俺に少女が叫ぶ。
「剣!」
「ん?」
「剣、落ちてる!」
見渡すと檻の近くに装飾のない無骨な剣が落ちているのを見つけた。それを拾い、熊へ歩を進める。
「おい熊公、とりあえずやられた分+ついでにお前が殺したあの子の連れ添いの分返すぜ」
『GAUGAUGAUGAU!!』
言葉はわからないが、命乞いでもしているのか?
言語理解も万能じゃないんだな。
「お前には良い餌なだけだったんだろうな」
そう言って俺は手にした剣を掲げる。
どこを斬ればいいか、どこから刃を入れればいいか、全て剣術スキルが教えてくれる。
剣術スキルが導くままに、俺は全力で剣を振り下ろし、熊の首を刎ねた。
時間にしてはほんの数分だろう。けれども命を奪った感触と、短時間の激しい動きによって溜まった疲れが俺を襲う。
地球ではデスクワークとかあまり動かない仕事だったのだろうか、極端なインドア体質だったのかもしれないな⋯⋯。何はともあれ⋯⋯。
「やっと⋯⋯終わった、か」
そう言うや否や、俺は膝から崩れ落ちる様に、座り込んだ。