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光を守護する影の物語 旧題:異世界転移物語  作者: 転移待人
0章 -プロローグ-
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プロローグ


 ガタンゴトン


 ガタンゴトン



 今日も今日とて、満員電車に揺られて会社へ行く。

 代わり映えしない毎日。安い給料。広くない交友関係。彼女無し。

 それでもこの生活に不満はない。毎日を健康に過ごせて、食いっぱぐれのない生活に、不満なんて起きようものか。


 給料をあげようとすれば努力しなければいけない。努力は嫌いだ。

 交友関係を広げようとすれば、時間も精神もすり減る。自分の周囲には心から信用できる数人がいればいい。

 彼女? 論外だな。信用できる出来ないで言えば、女性なんて常に裏を探りながら相手をしなければならない。どうして苦労して関係を作ってまでそんな気苦労を背負わなければならないんだ。相方がいる人は毎日そういうのに耐えているとか、尊敬するね。なりたいとは思わないけど。

 女性に対しての当たりが強い? ああ。何故だかわからないけど、女性関係では苦い思い出しかなくてね。相性やら時の運やらが圧倒的に悪いんだろう。⋯⋯まあそんなもの関係なしに悪意しかない女性と関わりを持っていた事も原因かなぁ。⋯⋯あ、男女問わず子供は別。俺も本心で接することが出来るし、何より遠慮が要らないのがいい。


 まぁとりあえず。現状を変えたい、日常を潤したい、なんてことはこれっぽっちも思わない。

 ⋯⋯けれどももし。そう、もし少しだけ我儘を言うのであれば、この毎日に刺激が欲しい。日常的な刺激ではなく、非日常的な、だ。

 男というのは、普段から自身の日常を非日常的現象がぶち壊していく事を一度は妄想する。するよな? 俺だけか?


 例えば、学校・職場にテロリストが侵入するとか。

 例えば、帰宅路で路地裏で奇妙な体験をするだとか。

 例えば⋯⋯異世界に転移させられ、摩訶不思議な力を与えられるだとか。

 妄想する事柄は変化しても、結果は自信がヒーローになる結果を妄想し、悦に浸るものだ。


 ああ。なぜ自分の生活領域には、テロリストが来ないのだろう。来れば自信がカッコよく撃退ないしは解決し、英雄になるのに。

 ああ。なぜ自分の帰宅路では、喋る猫や、怪しい御仁が現れないのだろう。現れていれば、非日常に入り浸り、場面に応じて適切な行動をし、英雄になるのに。

 ああ。なぜ自分はこの世界にいるのだろう。もしファンタジーな世界に行ければ、剣を手にモンスター共と戦い、英雄になるのに。


 少しと言ったが、だいぶ大それた我儘だった。だか日常平々凡々に暮らせていることに比べれば、些細な我儘だろう。神罰でも降るかね? まあ神なんて信じていないし、どうでもいいが。


「次は○○。次は○○です。終点です。お降りの際は忘れ物⋯⋯」


 そんな風に自問自答をしているうちに、最寄駅だ。

 今の通勤路線は終点まで行けば最寄り駅となるため、途中下車しなければならなかった前勤務先より、幾分か楽。

 人に揉まれながら電車を降り、ホームから改札へつながる階段を揉みくちゃになりながら登る。毎日思うのだが、どうしてこいつらは我が先と押し合いながら進むのだろうか。いずれは階段へ辿り着き、改札へ向かえるのに。

 人の思考ほど、脈絡なく滅茶苦茶で説明のつかないものもそうそう無い。大抵は周りがそうしているからとかいう流され思考、全くもって理知的じゃない。


 なんて。朝から周囲に対するマイナス思考をしていては、1日をどんより過ごしてしまう原因になるな。やめやめ。

 ともかくそんな感じで、私ことパンピーで若干ヲタッキーなITリーマンは今日も今日とて代わり映えのない毎日を始めるのであった、まる。


 人混みに押され、なんとか登った階段を後ろ目に、改札へ向かう。改札越しにAI案内人のモニターが目に入る。

 名前は確か⋯⋯そうそう、しぐれちゃんだ。人類もここまできたんだなぁと科学の発展に感心しつつ、改札を通る。聞き慣れたピピッという電子マネーの音。小さいモニターに表示される電子マネーの残高を見て、顔を上げる。


 改札を抜けた。


 視界に広がる大勢の人⋯⋯ではなく、紫色の光。


 ハッとして振り返るも、今抜けたはずの改札がない。というか光で視界が遮られている。内心バクバクな状態で前へ向き直ると、更に強く光る紫色の光。眩しくなって目を閉じる。この光に包まれていると何故だか暖かくて、思わず身体中の力が抜けたかのようになる。


 ああ、これじゃ、会社に遅刻しちゃうなぁ。

 上司にどう言った⋯⋯もん⋯⋯かなぁ⋯⋯。


 そして俺は意識を手放した。

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