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なに? 推敲してる間にブックマークが増えてるだと!!
「彼女は中央のベッドに、コナンはその横のベッドに置いて! ゲンさん状況を簡単に説明してくれ!」
俺の声に従い、そっと少女をベッドに寝かせたゲンさんが口を開く。
「あ、ああ。いつもの町外の見回りの時、ゴブリンの集団に遭遇しちまってな。それでこいつ『アンナの住む町は俺が守る!』なんて一人で斬り込んで行って、でも、隙を突かれてゴブリンに囲まれてタコ殴りにされてるところを、この嬢ちゃんが助け出してくれたんだ。その時にこの嬢ちゃんは……」
ゲンさんの説明を聞きながら、俺はベッドに乗せられた少女に視線を這わせた。
患者は十代の少女。
意識は無く、左の肩口から胸まで切り傷がかなり深く、いまだに出血を続けていた。
それに対してコナンは、
「額と肩に出血が見られる。それと、右膝と右腕は完全にイカレてるな」
俺は不自然な方向に曲がり折れてる右手足を確認しながらも、とりあえず額のこびりついた血を拭きとり、
「……あれ? 傷口が塞がってる?」
この血の量なら額はパックリ切れてておかしくないのだが、その形跡すらない。
肩の出血もそうだった。
理解できない状況に俺が手を止め、眉を潜めていると、
「あ、ああ、俺、見てました。コナンが止めを刺されそうな時、この嬢ちゃんがゴブリンを威嚇しつつ、ピカって右手を光らせて傷を治してくれたんだ。そのゴブリンは俺たちが片付けたが……」
筋肉マッチョなゲンさんの隣の……名前は忘れたが、自警団の兄ちゃんが状況の説明をしてくれていた。
「ん? 光り? 治した?」
説明に不自然さを覚えた俺は、その嬢ちゃんとやらに視線を落とした。
「……はい。それは私……です」
いつの間にか意識を取り戻したのか、俺と大差ない年の少女は吐血しながらも呟いた。
「おいおい、まさか……」
その嬢ちゃんの姿を、改めて確認。
王族のような金髪碧眼の整った容姿。
少々薄汚れているが、教会の紋章が彫られたバッグと、純白の神官服に胸元に輝く銀色の十字架。
右手にしっかりと抱えている、分厚い聖書。
これは紛れもなく、上級神官様以上の出で立ち。
「おいお前、上級神官なの? この額と肩の傷治したのお前なの?」
治療の準備をしつつ、その少女に問い掛ける。
もちろん俺に、王都の人間に良いイメージは無い。
まったく無い。
出来れば関わりたくないレベルだ。
「は、はい! 精一杯頑張りました……精一杯頑張りました!」
そんな俺の心など知らぬ存ぜぬとばかりに、彼女は満足げな笑みを浮かべる。
「女の上級神官って確か、『聖女』って呼ばれるほど回復魔法得意だよな? それも
手足の骨折ぐらい、余裕で治せるぐらいの」
彼女にチラリと視線を向けて問う。
聖女とは勇者と対となる存在で、魔王が出現すると現れる者。
噂じゃその力を極めれば、死者さえも生き返らせたと言う伝説の治癒師だ。
そんな彼女にとって、この患者は大した怪我でないように思えるが?
「わ、私。聖女候補ですけど、治癒魔法があまり得では無くて……」
「おい、ならなんで聖女の看板背負ってんだよ!」
思わずツッコんだ俺は、絶対悪くない。
こいつらは勇者と同じ、王国に保護されてる存在だ。
しかも金色の髪は、王家の血族。
過小評価してもこいつは、かなり地位の高い貴族様だ。
王によってハブられた俺が、仲良くする道理も義理も無い相手なのだ!
が、
そうなんだが、だからと言って死にそうな人間を、ほっとくわけにはいかない。
しかも、
「はぅ……実は私、東の町の侯爵家の四女だったんです……。それが生まれた時からの金髪碧眼で、両親変な期待があって……しかもある日、女神様のお告げ受けちゃって……いやいや、私なんて何かのついでに聖女候補になっただけで……しかも治癒呪文苦手で……聖なる守りなら得意なんですが……」
死にそうな状態で必死に語る彼女に、嘘偽りはないと思われた。
それでも言いたい。
「それじゃなんで治癒魔法もろくに使えないお前が、聖女名乗ってんだよ!」
「だからお家の事情で聖女候補になってるって言ってるじゃないですか!」
さっきまで小動物のように呟いていた少女は、今や俺をつかみかからんとするほど睨みつけていた。
が、
「げふっげふっ!」
次の瞬間、勢いよく吐血した。
「と、とにかく、治療を優先させよう」
なんか色々めんどくさくなったので、俺は彼女からソッと視線を外して治療を始めた。
「……なんですか? 治癒魔法が苦手な聖女候補の言葉は無視ですか? うぐっ、ぜぇ。ぜぇ……。私だってやる時はやりますよ! 私の聖女ストレートを喰らいますか?」
「うんそれって聖女が胸を張って言うことじゃないよね?」
「ぬ、胸! やっぱりあなたは『大丈夫、何もしないから』とか、『ちょっと休むだけだよ、だから宿に入ろうか?』なんて言葉巧みに婦女子を食い物にする輩! それならば……ごほっごほっ!」
それなのに、俺の態度が気に入らなかったのか、シュッ、シュッ、っとベッドで脇を絞り慣れた手つきで拳を突き出し、途端に吐血する聖女。
しかもその間にも傷口からも口からも出血は止まらず、急速に顔色が悪くなっている。
見る間に顔色が悪くなっていく彼女。
フラグ立ちまくりのコナンと対抗してるのか?
それとも聖女って、先に死んだ方が勝ちなのか?
なんで治癒、防御魔法がメインの聖女の拳が、歴戦の拳闘士のように空を切り裂くのか?
なんてことはこのさい置いておこう。
「ほら傷口見るから動くな……結構酷いな」
元気そうに暴れている彼女だが、切り裂かれた傷口はかなり深い。
しかも目視しただけでも他に数カ所の傷がある。
「私をどうするつもりですか! 変なことすると……」
「煩い、スリープ」
「ふっ、ふにゃぁぁぁぁぁぁぁ」
いまだ騒ぐ少女を、強引に静かにさせた。
別に眠らせてなにか如何わしいことをするつもりは無い。
無駄に動く彼女の、出血を押さえるためだ。
「よし、それじゃ始めようか。まずは……」
俺は己のこめかみを指で揉みほぐしながら、
「シックスセンス」
精神に作用する魔法を自身に唱えた。
俺は治癒術師だ。
怪我や病気があれば老若男女、どんな者にも、どんな状況でも冷静に対処しなければならない。
熱にうなされてたり怪我で苦しんでたりする歳の近い娘の患部ちか、まあ、いろいろ際どい事も多々ある。
十代の健全で健康な体と精神は、時として心に波風を立てる時が多々ある。
そんな時に役に立つのが、この『シックスセンス』の呪文だ。
これは精神に作用し、どんなエロい光景もどんなグロイ景色でさえも、どこか他人事に見られる優れものだ。
まあ、一〇分で効果が切れてしまい、その後の反動が難点なのだが……。
「なので、さっさと片付けるぞ!」
気合を入れるために一人ごちると、俺は彼女の衣服を無造作に切り裂いた。
その途端。
ぶるるんっ!
健康的で、彼女の年には不相応に肥大した胸が、無音の効果音で露わになる。
チェリーボーイの俺には鼻血もんの光景だ。
だが、魔法のおかげで精神にさざ波一つも立たない。
「……やっぱり左胸の傷が酷いし出血も多い……くそ!」
俺は指先で透視で患部を見つつ、所々で治癒の呪文を放つが、
「血が溜まって透視を使っても追いつかない。テレポート! テレポート!」
体内に溜まった血が多すぎて患部が見えず、俺は体内に溜まる血を少量ずつだが地面に移動。
彼女の血がビシャビシャと音をたて、地面に吸い込まれていく。
「……見えた。これだ」
血の海で浮き沈みを繰り返す、切り裂かれた動脈を発見。
「テレポート、ヒール! 良し、これで……!!」
患部を治療し、ホッとしたのも束の間、つなぎ合わせた血管を血が流れて無いことに気付いた。
「くそ! ショック症状か!」
予想以上に彼女は出血していたらしい。
「マズイ。このままじゃ……」
止まった心臓を動かす術はある。
でも、それは、本当にイチかバチかの賭けで、正直成功の確率は……。
やったこと無いから分からない。
思わず狼狽えて止まってしまった俺の腕に、そっと何かが触れた。
ブックマークが増えてます。
どうしよう?
凄く嬉しい!