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半径三〇センチぐらいの最強勇者  作者: 岸根 紅華
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二章:1ただ平凡に生活がしたいんですけど?

初ブックマークつきました!

ありがとうございます!

「はい、治療完了! お代は二〇〇〇ゴールド!」

「はいはい、二〇〇〇ゴールドだね」


 俺の無愛想な低い声に臆することなく、腰痛が治ったのか試すようにトントンと腰を叩く患者。

 武器屋の看板娘とうそぶくドワーフのおばちゃんセレフさんは、完治した喜びをバシバシと俺の肩を叩き表現した。

 そしてにこやかに金貨二枚を俺に渡す。


「痛い痛い! いや、ホントごめん。俺、か弱い人間なんだから、ドワーフの力で叩かないで!」

「何言ってんだよ! ドワーフと人間、体の構造は一緒だって言ったの、あんたじゃないか!」

「いや、構造は一緒だって言ったけど、筋肉組織やら血管の大きさが違うとも言ったよね? ひ弱な俺に加減しろって言ったよね?」

「あ? そうだったかね? まっ、そんなの気にしない、気にしないあはははは!」


 人懐っこい笑みを浮かべるセレフさん。

 確かにその笑みはどこかほっこりするが、看板娘と言うのは詐欺だと思う。

 後で然るべき処に匿名で密告しよう。

 

 しかし、笑いながら俺の肩を叩くセレフさんが言ったことは本当だ。

 前にご主人のヨゼフさんの体を、治療ついでに透視で見たことがある。

 もちろん許可を貰ってだが、臓器の有無に骨の数。

 筋肉の在り方まで全部人間と一緒だった。


 ただ、彼らの筋肉と血管は、人間の倍ほど太い。

 俺の予想だが彼らの怪力や手先の器用さは、そこからきているのだと思う。

 だからと言って、筋肉バカだとは思わないが………。


「それに、今のって本当に相応の値段なんだけど?」


 未だに俺の肩を叩き続けるセレフさんに、聞こえるように声を上げるが、


「へ? そうなのかい? あははははは!」


 笑ってごまかされた。


 治療内容としては、部分透視で腰の骨と骨の間の軟骨が正常かどうか一つずつ丁寧に調べ、潰れた軟骨が神経を傷つけているのを特定。

 そこに麻痺パラライズで麻痺させ、指先一〇センチの魔剣で神経や動脈を傷つけないように切開。

 移動テレポートの魔法で潰れた軟骨を取り除き、部品創造クリエイションパーツで軟骨モドキ(鳥軟骨をイメージ)を作りだし、代用品として骨と骨の間に挟みこむ。


 そんな神経をすり潰すような繊細な治療を、三ヶ所やった。

 本来ならそれだけの料金を貰っても足りないと思うのだが、


「まあ、ヨゼフさんには、色々ワガママ聞いてもらっているから良いか」


 ヨゼフさんはこの町一番、唯一の鍛冶屋だ。

 町一番の称号は、小さい町だからと言うわけでは無い。

 彼と競えるほどの腕を持つ鍛冶屋がいないからだ。

 

 だから俺は異世界医術書にのっていた道具を、嫌ってほど作ってもらっていた。

 ある程度の物なら俺の創造クリエイトの魔法で作れるのだが、やはり本職には叶わない部分もある。

 

 セレフさんの治療にも十分役だった。

 そんな結構大変な手術(俺の手で治癒魔法を叩きこんだから手術と名付けた)に、まったく感動を見せずに笑顔で答えるセレフさんは、

 

「ありがとね。また腰が痛くなったら来るから」

「腰の治療は神経使うからやだ! 暫く無理はするな!」


 やや強めな語気だが、


「はいはい、分かりました」


 まったく分かってないと思われる表情で、足どりも軽く去って行った。


「まったく、この町の人間は……」


 足取り軽いばあさんの後姿に苦笑しつつ、ふっとため息を吐いた。


 ここは王都から遥か南にある町、アルタ。


「この町、名前あったの!?」


 っと言われるほど最果てで、魔物すらろくに現れない最も小さい町だ。

 故に魔物避けの柵は木製だし、ちびっ子達も平気で町の外の森で遊ぶ。

 魔物がウヨウヨいると噂される北の地、グラナダに比べれば平々凡々を絵に書いたような町だ。



 『勇者の儀』と呼ばれた、俺にとっては断罪まがいの儀式から半年。

 俺は地図に名すらないような町に連れてこられていた。

 他の勇者は比較的魔物の弱い王都の近くで、騎士団に守られながら経験を積んでるらしい。


 そして俺の今の身分はというと……。

 ただの町人だ。

 いや、村人から町人にレベルアップはしたのか?

 それにしてもしょぼいレベルアップには違いない。

 あの王はシェリーの言うことをちゃんと聞いて、俺をこの最果ての町に移動させた。

 ただそれだけ。


 別に支度金をくれるでもなく。

 仕事を斡旋するでもなく。


 ただただ、「後は好きに生きろ。ただしこの町から出るな」っとホン投げたのだ。

 多分嫌がらせの部類なのだろうが、実は俺にとってはご褒美だった。


 貴族なら辺鄙な場所すぎて生きていけないかもしれないが、ここは俺が住んでいた村に比べれば都会に近い。


 ただ、ここまで馬車で来る道中が酷かった。

 昼に盗賊、夜には夜盗。

 やつら、俺を王都から避暑地に向かう貴族の金持ちだとでも思っていたのか?

 夜這い朝駆け。

 いや、夜討ち朝駆けで襲ってきた。

 しかも、執拗に俺を執拗に狙ってくる。


 それはまるで親の仇のように、

 それはまるで誰かに雇われたかのように……。


 そんな極悪な賊に対し、俺の護衛騎士は己の身を守るので精一杯。

 そもそも俺を守るつもりがない気がする始末。


 まあ、何とか俺は持つ勇者のショボイを全力で使い防戦した。


 時には戦略的撤退(泣きながら足に肉体強化の連打で逃げ)、また時には華麗に反撃(風の魔法で砂を飛ばして目潰しからの不意打ち)をして何とか町に着いたころには、俺も結構戦えるようになったのだが、この町での職業は用心棒とか冒険者では無い。


 何を隠そう、俺はこの町唯一の医者になったのだ。

 町に着いてからも、定期的に現れる夜盗や盗賊の身ぐるみを剥ぎ、町の骨董屋で売りさばき(なぜか奴らの武具は上質なものが多かったため、高値で売れた!)コツコツ溜めた軍資金を元手に小さな家を借り、そこで診療所を開いた。

 俺の貰った勇者の能力と異世界の本は、人を助けるのにぴったりのものだった。


 もちろん最初から客…………患者が来るわけではない。

 別に国に認められてる訳じゃないし、有名な医者の元で修行をしたこともない。

 なので、名ばかりの護衛騎士が何も言わずに帰った時から、俺の営業活動は始まっていた。

 朝昼晩と町中を徘徊し、怪我人や病人っぽい人間を片っ端から治療した。

 もちろん無料に近いサービス価格でだ。

 それにほら、俺も経験を積みたいじゃん!

 おかげでとっても貴重な体験《人体実験》が出来、診療所にもちらほらと患者が訪れるようになった今日この頃。

 幸いなことに今の所、患者から苦情はない。

 町民とはWinWinの関係を築きつつあった。


 だから最近、この町の人間は俺のことを、


「ヤブせんせ! ゆび切っちゃったからなおして!」


 そうそう。

 ヤブと言えば医者。

 医者と言えばヤブ!

 セレフさんを見送る俺の背後から幼い声。


 うん。違うね!

 

「おいこらキルラ。俺はヤブじゃない。カイル大先生って呼べ!」


 振り向けばやはり、俺の半分にも満たない背丈の幼女。


「え? でもそう言えばカイルせんせが喜ぶって、お兄ちゃんが……ちがうの?」


 まだ穢れを知らないクリッとした茶色いお目めの少女は、訳が分からないとコクンッと首をかしげた。


「よし、お前のアニキ連れて来い。二時間ばっかし説教してやる! が、その前に」


 俺は地面に膝を付いて彼女と視線を合わせた。


「怪我したとこ見る前に、熱っぽいとか喉が痛いとかないな?」


 俺はキルラの血の滲む指先を確認。


「あのねあのね、あっちできのぼうふりまわしてたら、木の棘がささったの!」


 どうやら木のささくれが、深く刺さったみたいだ。

 なんで木の棒を振り回してたのかは、子供だからあえて追求はしない。

『そこに木の棒がある』

 彼らには、それだけで十分な理由なのだ。

 ついでに前髪を上げてるおでこと首筋に指を当てる。

 別にどさくさに紛れて、幼女に過度のスキンシップを強要している訳じゃない。

 治療呪文を使う前の触診をしているだけだ。


 治癒呪文。


 それだけを聞くと、どんな怪我とか病気もパパッと治してしまう便利な魔法に聞こえるが、そんなに便利なもんはこの世界にはない。

 この世界にある治癒の呪文は、体にある自然治癒力に干渉し傷を速く治すもので、破損した手や足を復元できるものでもない。


 しかもこの治癒魔法。


 体内に菌が入って起こる病気とメチャクチャ相性が悪い。

 治癒の呪文は自身の治癒力を活性させるだけでなく、体内に潜む雑菌も活性化させてしまうのだ。

 そうなると治癒力と菌の戦いになり、大抵は高熱が数日続く事になる。

 治癒力が低い老人や子供にはまさに死活問題なのだ。


「よし、大丈夫そうだ。除菌クリーン、ついでヒールっと…………」


 傷口を魔法で除菌し治癒する。

 最後に指先の血を清潔な布で拭うと。

 あら不思議!

 傷の跡すら残らない、幼女特有のぷにぷにの指先に戻っていた。


「ほら綺麗に治ったぞ」

「ありがと! おかねは……」

「ガキから取るきはね~よ! それよりお前のアニキにカイル大先生はヤブじゃないって言っとけ!」

「わかった! ヤ……カイルせんせ!」

「おい、今ヤブって言いそうだったな。もう覚えちゃったのか? お前の中ではもう俺はヤブ固定なのか?」

「…………じゃっ、ばいばい」


 俺の叫びを完全に無視し、キルラが手をブンブン振って走り去っていった。


「はあ…………。まっいいか」


 彼女の後姿を見ながら、俺は平凡だがやりがいのある今の生活を楽しんでいた。


最後までお読みいただきありがとうございます。


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