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これで一章が終わります。
なんだかヘイトばかり溜まった内容ですが、二章からはちゃんとカイル君が活躍する……はず!
「次、智の勇者!」
シェリーが呼び出されて数分後。
俺も謁見の間に呼ばれた。
彼女のように名を呼ばれないのには疑問が残るが、とりあえず導かれるまま豪華な扉を潜る。
染み一つ無い真っ赤な絨毯を進むと、巨人でも入れそうなだっだぴろい部屋が現れた。
その正面、一段高い場所にあるのは多分王座。
だって昨日見た偉そうなおっさんがふんぞり返ってるから。
その周りにはガリガした奴や、デブデブした奴が、俺が着たことも見たことも無いような豪華な服で周りを固めている。
ちなみに俺以外の勇者も、王座より一段下がった所に並んでいた。
そしてなぜか、歩みを進める俺に向けられるのは、
嘲笑?
侮蔑?
それとわずかな同情?
そんな視線にさらされながらも、俺は王の前に立つ。
膝を付き、習ったばかりの臣下の礼ってやつをとった。
「ふぅ」
頭を下げているので誰だか分からないが、こっそりとだがこちらに聞こえるほどのため息が聞こえた。
ここは空気が悪い。
だから一回天井でもぶち抜いて、空気の入れ替えをした方が良いと思った。
「さて。『智の勇者』とやらの処遇についてだが……」
そんな俺に対し王の苛立つような、疲れたような声が聞こえた。
え?
処遇って言葉、なんか罪状を言い渡される罪人みたいで嫌なんですけど?
なんてぼんやり思っていたら。
「カムイ。お前は村人でありながら金目当てで勇者を名乗り、聖印を偽装した」
「え? ええ!」
思わず顔を上げ、肘掛けの腕に頬杖付いてる王をまじまじと見つめた。
なんか王様、訳の分からないこと言ってますけど?
「静まれ! 王が発言中だぞ!」
思い切り否定したいけど、なんか王様の横にいる偉そうな人間に遮られた。
王様の発言を遮ったり許しも無く顔を上げると、不敬罪になるって教えてもらったが、それよりも重罪人確定っぽい雰囲気なんですけど⁉
「魔王が復活したこの非常時に、勇者の聖印を偽り王や教会を混乱させた罪は万死に値する」
「あの……別に俺、自分から聖印があるって言った訳じゃないし……」
「黙れ黙れ! 村人の分際で、我が国の王に意見するのか! もはや王が直接言葉を掛ける間でもない。そ奴を即刻斬首にせよ!」
ある日突然、左手の甲に聖印が現れ。
なんか厄介払いのように生まれた村を追われ、無愛想な護衛騎士に連れられて王都に来てみれば。
聖印偽装で死刑?
「さすがにそれは無いんじゃない?」
誰にも聞こえないよう口元で独語を吐き、いつでも逃げ出せるように膝を上げて身構える。
視線を巡らせると、扉の前には屈強な騎士。
それにすぐ横には三人の勇者が控えてる。
うん。とても逃げ切れない。
「なら。一発ぐらい殴っちゃう?」
キッと視線を王に向けるが、中腰の俺を警戒した近衛騎士が王を庇うように前に出ていた。
「あ~あ。出来れば俺も他の勇者みたいに、攻撃特化のギフトが良かったな……」
さすがに手詰まり。
俺は静かに立ち上がると皮肉げに口元を歪め、それでも王を睨みつけた。
「ふっ……下民の分際で……近衛騎士。処刑の日時が決まるまでこやつを牢に閉じ込めておけ!」
観念した俺を見て王の横にいたガリガリのおっさんが、イヤらしく頬を緩めた。
その声に反応し、ガシャガシャと鎧を鳴らし騎士が歩み寄る。
刹那。
「お待ちください!」
謁見の間に凛と響く美声。
シェリーの声に、今までおっさんたちの濁声しか聞いてなかった耳が浄化された気分だ。
「光の勇者よ。王の決定に異議を唱えるか?」
だがすぐに、脂っこい声に耳朶を汚された。
この王国で、王の言葉は絶対だ。
罪人を下手に庇えば、例え高位の貴族だとしても共犯として罰せられることもあると言う。
俺は反射的に彼女に「大丈夫だ」っと視線を向けたが。
そんな俺に彼女はぴくりっと目を見開くが、反対に安心しろと言うように目を細められた。
だから俺は無言でその場に立ち尽した。
まあ、非常時の準備だけはしっかりさせてもらうが……。
「王の決定に背くつもりはございません。ただ、すでに王都では四人の勇者の話題が出回っております。それを偽りだったと公表するのは、いささか不具合が生じるのではと愚考いたします」
「ほう。それはなぜじゃ?」
彼女の言葉に王が、片眉を吊り上げて興味を示す。
「一つは四人の勇者が現れたと公言してしまったこと。それをすぐに三人だと訂正すると我が国の文官の質が悪いと他国に思われます」
まあ、俺の聖印を確認しに来たのは、完全にお役所仕事っぽい文官だったから否定はできないわな。
「次に今回、他国で聖印が現れたのは二人から三人」
俺にはまったく分からないが、意味ありげに視線を王に向けるシェリー。
「何が言いたい!」
王も彼女が言いたいことが分から無いらしい。
苛立ちを隠せず、次の言葉を催促した。
「はい。この状況で偽りと言えど四人の勇者を輩出したとなれば、他国より我が国の優位性を保てます」
「別に偽物と公表せずに、こ奴をコッソリ処刑すれば良いのでは?」
内容までは聞き取れはしなかったが、ガリガリが王に耳打ちをした。
俺に向ける視線からして、どうやらこいつは俺を殺したくってしょうがないことだけは分かった。
しかし、
「我が国にも他国の間者は入り込んでおりましょう。王城に入った勇者は四人。王城から出たのが三人では、何かあったと疑われます」
「では、影武者でも立てれば……」
「それよりも彼をそのまま勇者として、どこかの町にでも赴任させた方が良いのではないですか?」
ここでシェリーが、初めて口の端を吊り上げた。
「民には安心を、他国には勇者が余って仕方ないと、余裕のある国とのアピールが出来ます」
なるほど。
こんな俺でも、勇者の肩書を持って町にいれば民は安心するし、他国には『勇者? いっぱいいるから、余ったんで町を守れせてます!』なんてアピールが出来るのかもしれないということか。
「別に処刑でも良いのですが、使えるもは有効に使った方がと……そう具申いたす所存であります」
チラリとこちらに向けた顔は、大丈夫だとウインクした。
そんな彼女の予想を裏切ること無く。
「…………分かった、そなたの意見通り処刑は取りやめ、こ奴には適当な町にでも行ってもらおう」
吐き捨てるように王が言う。
村に帰ることは出来そうにないが、彼女のおかげでなんとか俺は処刑を免れたらしい。
明日(すでに今日ですが)から更新していく予定です。
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