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半径三〇センチぐらいの最強勇者  作者: 岸根 紅華
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ブクマ九〇越え!

本来なら二話投稿の予定でしたが、

クライマックスなので、一話にまとめました。

公約違反じゃないから!

「ちっ、泥が詰まってる……削除して浄化クリーン治癒ヒール。よし、主要な血管はつなげた。次に神経の接続を開始する」


 腕をに血を巡らすための大まかな血管はつないだ。

 休む間もなく、俺はそのまま神経をつなげる手術に移行した。


「おい、腕の神経って、いったい何本あるんだ?」

「カイルさんが知らいのに、私が知る訳ないじゃないですか!」

「別にお前に言った訳じゃないよ!」


 なぜかカチンッと来るのは俺が疲れているからなのか?

 睨み付けるような視線で、彼女に問い掛けるが、


「うわっ! 今の見ました! あのデカい魔物、今、こんなにデッカイ岩投げつけましたよ! あんなの私の聖域じゃなきゃ一発でしたよ!」


(こっちは神経すり減らして、患者の神経つなげてるのに……)

 俺の怒りを無視しするティン。


 あとで泣かそうと思った。

 でも斬り落とされた腕の手術は聖域のおかげで、予想以上に順調に進んでいた。

 そこだけは褒めていいかもしれない。

 一〇八発撃ち込もうと思っていたデコピンを、二発ぐらい減らしてやろう。


「よし。神経の接続終了。あとは筋肉つなげて縫合をして…………」


 最後の神経をつなげた俺は、ふっと溜めき交じりに深く息を吐き出し、視線を上げた。

 もしかして、それが悪かったのか?

 定まらない視線の先はまさに今、剣の勇者を投げ飛ばした魔物。

 魔物の親分とか言われても信じてしまう、身の丈三メートルを超える、筋肉向き向きのミノタウロスと視線が合ってしまったのだ。


「ティン聖域の強度最大! 魔力が続く限りこらえろ!」

「ええ! 何でですか? 私、魔法の使い過ぎで……ひい!」


 異を唱えようとしたティンは俺の視線の先を見て態度を変え、必死で聖域の強化を始めたその間に、魔物は雄たけびを上げ、身長と同等の戦斧を振り上げて突進してきた。


「後五分……いや二分持たせろ!」

「無理無理無理! 神様! 女神様! どうか私だけでもお救い下さいぃぃぃぃぃぃぃ!」


 とりあえず、彼女の独語はスルーしよう。

 忘れはしないがな!


 グオォォォォォォン!


「ひゃひぃぃぃぃぃぃ!」


 間近で教会の鐘を聞いたような、聖域の中の空気までビリビリと震える衝撃と、およそ女子らしくない声を上げるティン。

 だが、何とか一撃はしのいだ。


「ティン! ここがこらえどころだ!」

「でも、長くは持ちませんよ!」

「それでも踏ん張れ!」

「ひ~ん!」


「グラァァァァ!」


 勝ち誇ったような咆哮と供に、二撃、三撃と聖域に響く斬撃。


「さすがにまずいか……いや、まだだ! ティン! 一旦休んで呼吸と魔力を整えろ!」

「え? でも……あ! レフちゃん、ライちゃん!」


 そう。視線の先、ミノタウロスの背後にレフとライの姿を見つけたのだ。


 「「お姉さまの治療の邪魔はさせない!」」


 ミノタウロスのむき出しの肩に、数本のナイフが突き刺さる。


「グロォォォォ!」


 獲物を狩るのを邪魔された怒りか?

 新たに現れた生きの良い獲物への喜びか?

 ミノタウロスは戦斧を彼女らに向けた。


「レフ!」

「分かってるライ!」


 二人は頷きあうと、レフは火球、ライは氷球をそれぞれ作り出し、巨大な魔物に放つ。


「ええ! そんなちっちゃい魔法じゃ効きませんよ!」

「なにを考えてる? いや……これは!」


 彼女らの意図が分かった時には、火球と氷球はミノタウロスを目前に激突。


 ボシュ!


 鈍い音を立て、あたり一面に水蒸気が立ち込める。


「目くらましか、やるな」


「低脳な魔物に有効!」

「バカな魔物に……!!」


 得意げな声は、身をズラすほどの烈風に遮られた。


「あの野郎。人類の知恵を力ずくで吹き飛ばしやがった!」


 そう、ミノタウロスは巨大な戦斧を団扇代わりに、水蒸気を吹き飛ばしたのだ。


「「うわぁぁぁ!」」


「あああ! レフちゃんが! ライちゃんが!」


 台風のような風圧に耐え切れず、レフとライが吹き飛ばされた。


「大丈夫だ、あいつら飛ばされたぐらいじゃ死にゃしない、それよりも……」


 その彼女たちが稼いでくれた数分間で、


「良し。縫合完了!」


 何とかなった。

 あとは彼女が目覚めてくれれば……。


「ありがとう」


 そんな俺の肩を細くしなやかな、でも、力強い指がつかんだが、


「もう無理! 今度こそ壊れます!」


 ティンの悲鳴が響く。

 見れば、いつの間にかミノタウロスが、巨大な戦斧を両手で振りかぶっていて、


「きゃあぁぁぁぁ!」

「グラァァァ!」


 ティンの絶叫と、魔物の咆哮が重なり、


 バリンッ!


 間髪入れずに結界が砕け散った。


「グルルルル!」


 結界が破壊され、満足げにほくそ笑んでいる魔物。

 だが、


「はあぁぁぁぁぁ!」


 油断しきった魔物の遥か頭上から、裂帛の声が響いた。

 刹那。


 ザシュ!


「ソンシいわく『勝ちが見えた戦ほど、危ない物は無い』だとよ」


 俺の呟きは、勇者の一撃で袈裟切りにされた魔物に届いたのだろうか?


「………………」


 魔物は静かにくずおれた。


「魔物の総大将。ミノタウロスは、光の勇者アルデラが打ち取った!」


 治療したばかりの右手に持った剣を天に上げ、アルデラ(光の勇者)が、声高らかに勝利宣言を謳う。


 近くにいた魔物も、この町の兵士も、まるで時間が止まったかのように動きを止め。

 注ぐの瞬間。


「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」


町中に、人間の歓声が響き渡った。



「はあ。疲れた、だるい、眠い。今なら三日三晩、一回も起きずに寝れそうだ」


 緊張の糸が切れて、俺はその場にへたり込む。

 ああ。ああ。分かってる。

 勇者によって町が守られ、魔物が去った後にこそ俺の仕事があるのだと。

 だがその前に、


「ギュラァァァァァァ!」


 勇者アルデラの背後から倒されたはずの魔物が、最後の命の灯を燃やしきるように立ちあがった。

 背後からの不意打ちに、諸手を上げて人々の声に応えていた彼女は、反応を遅らせた。

 彼女にとって、致命的な隙だった。

 もちろん彼女にとってだけだ。


「ああ。そう言うの良いから、もう寝とけ」

「ギュッ⁉ ギュ…………」


 俺は立ち上がろうとした魔物の首筋に、サクッと指先十数センチの魔剣を叩きこんだ。


「グ⁉ ギュル?」

「人を生かすための治癒術師って、生物の生き死にをちゃんと理解してるんだぜ。だからもう、お前はお終い。もう、さっさと行きな」


「………………」


 ズズウゥゥゥゥン!


 背後で聞こえる地響きに、俺は涙目の欠伸を噛み殺した。

最後までお読みいただきありがとうございました。

さて、長らく続いたこの物語も、エピローグの一話となりました。

正直、どうまとめようか考えてます!

明日か明後日かに投稿予定です。

もう、エタらないと思います。

ここまでこれたのも皆様の温かい応援のおかげです。

本当に、ありがとうございました!

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