18
アルデラたちが去った数時間後。
すでに日は沈み、『そろそろ今日の戦闘は終わりかな?』なんて思ったが。
やはり魔物は日が沈んだ方が、活動が活発になるようだ。
かなりの患者を診て、一息ついた時だった。
「誰か! 治癒の出来る人間はいるか!」
至る所を傷だらけにし、力の限り走った。
そんな誰かを助けたいって、心から思う兵士の悲痛の叫びに、
「ああ。俺が出来るが……何かあったのか?」
疲労困憊の体が、反射的に動いてしまった。
「あ! ごほっごほっ。ああ……ぜぇ。よ、良かった! こ、ここに来れば助けてくれるって……光の……勇者様が……」
「アルデラに何かあったのか!」
息を切らせた兵士の胸ぐらを、思わずつかんでしまった。
「ぜぇ、ひ、光の勇者様は、魔将軍を名乗る大型のミノタウロス相手に健闘。し、しかし、こ、子供を助ける際に負傷。現在、剣の勇者様が魔物の進行を抑えています! お、お願いです。誰か、光の勇者様を治せる治癒術師を!」
なんとなく、アルデラが重傷なのは分かった。
俺が動く理由なんて、それだけで十分だった。
「ティン!」
「移動準備オッケーです!」
すでに移動の準備を終えたティン。
それを確認した俺は、
「しばらくここをティンと共に離れる。軽症者の対応は通常通り、中、重傷者は治癒魔法を使って待たせていてくれ!」
それだけ言うと、俺は待っていたティンと一緒に駆け出した。
「アルデラ……!!」
近道に裏通りを駆け抜けた、俺の目前にいたのは……。
「あ、ああ。カイル殿……か……」
目の前には剣の勇者と対峙する手負いのミノタウロスと、その先に他の魔物から守るように子供を背に隠し、静かに涙するアルデラの姿だった。
彼女らしく子供をかばう左腕。
だが俺は、彼女の右腕。
いつもなら剣を握っているだろう右腕に視線が釘付けになった。
「ああ、これか? 私の力不足で、魔物に斬られてしまった」
そう。彼女の剣を握る右腕は肩の辺りから切り取られ、彼女を守る子供がその腕を大切に、でもしっかりと持ったいたのだ。
「グルルルルルル」
「ああ。悔しいな。光りの勇者に選ばれて、これで無念も晴らせ、領地も潤うと思ってたのに……。もう、私は、剣も振るえぬ役立たずになった……」
俺にではなく、目の前の魔物にでも無い、懺悔するような独語。
「ちがう! 勇者様は、俺を、俺を救おうとして……ぐずっ」
それを全力で否定する、背後で叫ぶ少年。
大体状況は理解した。
俺も少年も同意見だ。
だから俺は。
「グルラァァァァア!」
「煩い!」
剣の勇者に大斧を振り上げたミノタウロス。
その背後に音も無く近付き、太い首筋に浮き上がる、頸動脈を魔剣で突き刺した。
「グア?」
ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!
自分が致命傷を受けたことも分からず、地面に膝を付くミノタウロス。
そんな魔物に俺は一瞥もくれず、彼女に近付いた。
「アルデラ……」
痛ましい姿を見た俺に彼女は、
「カイル殿。私の夢は、この通り潰えた。でも、それでも、君は私の民を治療してくれるかな?」
そんな当たり前すぎる質問をかえした。
だから俺は、
「お断りだ。あの約束はあんたの夢が叶った時だ!」
彼女の首に指を当てて脈を診ながら、俺は涙で歪む瞳で、必死に彼女を睨みつけた。
「はは、これは手厳しいな。でも、でも、私の夢は叶わないんだ。こんな腕じゃ、こんな無様な姿じゃ、私の夢は……」
「ふざけんな!」
彼女の泣き言に、思わず怒りの声が漏れてしまった。
まあ、ここまで来たら、俺も止まらない。
「ふざけんな! 俺はあんたの夢に、自分を掛けたんだ。あんたの夢の一部に、俺が入ってるって喜んだんだ!」
言いながら俺は、必死で彼女の腕をつかむ子供から、
「これを勇者に戻すから、俺に渡してくれるか?」
「……分かった。絶対、、絶対! 勇者様のうで、治してね!」
すがる様な子供の視線に、
「こんな傷ぐらい、俺がなんとかしてやる! だから、だから……。あんたも光りの勇者なら、出来損ないの勇者の夢ぐらい叶えろ!」
俺は彼女の右腕を受け取った。
「ん? き、君はいったい何を……」
「カイルさ~ん! 準備出来ました!」
「いいぞティン! ついでにここに結界を張ってくれ! 二、三時間、魔王でも壊れない頑丈なやつを!」
「はい! 任されました!」
俺の意を汲んで、即座に詠唱を始めるティン。
「大丈夫かアルデラ…………!!」
そこに火の勇者のアキラが現れた。
いつもはうっとおしいのだが、今回は助かった。
「おい、剣の勇者、俺はこれからアルデラの治療に入る。終わるまで魔物は任せた!」
彼女の怪我の状況に立ち尽すクレインに、俺は無茶ぶりを吐く。
「はあ? 何を言ってるんだい君は? そんなこと……」
「彼女を助けるためだ。剣の勇者であるお前にしか頼めない! それでも……逃げるのか?」
恐ろしく卑怯な言葉を、俺はスラスラと口にした。
今は一分、一秒でも時間が惜しい。
これぐらいのよいしょぐらい許されるだろう。
「……分かった。その代り、彼女を絶対助けてくれ!」
俺たちに背を向け、ギュッと手にする剣の柄をつかみ直した。
こいつが単純で良かったお思いつつ、俺はティンに向かって叫ぶ。
「これより、第一級手術を開始する」
「はい!」
俺の声に、いつの間にか隣にいたティンが元気な声を上げた。
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