16
「ふえ~。何とか助かった」
このあたりに魔物の気配が無くなり、聖域を解除した俺たちに。
「カイル殿、無事で何よりだ」
「いや、さすがは光の勇者。助かったよ」
俺の賞賛の言葉に、なぜかアルデラは苦笑を浮かべた。
「んん? どうした? どこか傷を負ったのか? ティン! もう一度聖域を!」
「いや、違うんだ……いや、別に怪我などはしてないのだが……」
先ほど放った剣戟とは間逆の、なんとも煮え切らない彼女の横から現れる二つの黒い影。
「きさまはまったく、女心を知らぬ!」
「きさまはまったく、乙女心を知らぬ!」
アルデラの護衛、レフとライだ。
それにしても……。
「え? 女心? 乙女心?」
「「そうだ! お姉さまを光の勇者と呼んだ。それはお姉さまにとっては褒め言葉ではなく、どこか一歩離れた場所から言われる言葉だ!」
「双子すげーな! これだけの台詞、完全にハモッて言えるなんて!」
「「きさま! 話を聞いてたか!」」
思わず違うところに感心したら怒られた。
「「だからだな、本来なら許可出来ぬが特別にお姉さまの名を呼ぶ事を許す!」」
「お、おい、レフ? ライ? そんなこと言っては……」
「うん、良く分からんが、アルデラさんには『光の勇者』ってのは禁句な方向か?」
「「そうだ! それに『さん』付けも他人行儀だとお姉様は言ってた!」」
「レフ、ライ! それは内緒だと……」
「いや~~。呼び捨てって、結構ハードル高いんだけど?」
「「そこは私たちが許します! ヘタレと言われたくなかったら、頑張りなさい!」」
「そうですよカイルさん! 勇気を出して!」
「もう! 私の言うことを聞いてくれ!」
耳まで真っ赤になったアルデラを、ニヤニヤと見つめる俺を含めた町の人たち。
「いや~ごめんごめん。分かってたんだけど……こんな恐怖と緊張が続くと、ほら、少しどこかでリラックスしないと」
「そうですよ! なんか、アルデラさんの困った顔って珍しいから、おかげで皆緊張がほぐれたって言うか、微笑ましいと言うか……」
「ティン。君まで裏切っていたとは……」
まんまと乗せられたと悟り、普段凛々しい彼女が、がくりっと地面に膝を付いた。
「本当にすまなかった。でも、おかげさまで、ほら」
項垂れる彼女にそっと近寄ると、彼女は顔を上げて周りを見渡す。
そこには、
「あらあら、あんなに真っ赤になっちゃって」
「アルデラさま、カワイイ!」
「なんか、近寄りがたかったけど、なんか、今なら……」
最後に呟いた奴の顔は覚えたが、今まで恐怖で震えていた人々が、笑顔になっていた。
「やはりあんたは民に光を与える『光の勇者』だよ、アルデラ」
「…………え? 今なんて?」
物凄く恥ずかしいが、この場、この状況で、言わない訳にはいかないだろ?
俺はポリポリと頬をかきながら、アルデラの視線を避けるように空を見上げた。
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