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なんか、酔って書いた作品が、ランキングに入りましたが、
こちらは通常運転で参ります。
「さて、それじゃあ、始めようか」
俺はコレラ患者がひしめく教会で、手助けしてくれる十数人に及ぶ看護者を前に一人ごちる。
「これからコレラ患者を治療するにわたり、いくつかの注意事項を言う! 俺の言うことに不満があるかもしれないが、絶対守ってくれ! まずは……」
俺が徹底させたのは三つ。
一つは患者に接触する時は、必ず口元に分厚い布し、触る時には手袋をすること。
一つは患者の吐しゃ物や便、それが掛かった物は大事なものでも燃やし、灰は地面に埋めること。
一つはおう吐や下痢の症状が見えたら、無理せずに申告することだ。
さらに俺は説明を続ける。
「それじゃまず、患者の容体別に三色に分ける。一つは青。この患者はおう吐や下痢はあるが自分で動ける者。一つは黄色。動けずに介護を要する者。最後は赤色。動けずに肌の弾力が無く、意識が無いか途切れ途切れのものだ。その患者は俺の元に! 体力のない女子供、老人から優先的に治療をする」
「うむ。聞いた通りだ。各自、ウォッカで手を消毒してから始めてくれ」
俺の指示、っと言うよりアルデラの声に反応して動き出す教会関係者。
やはり光の勇者である彼女に、応援を頼んだのは正解だった。
嫉妬?
プライド?
安心しろ。
プライドなんてはなから無いし、嫉妬なんて患者の命に比べれば塵あくたも同然だ。
「先生? この子をお願いします!」
そんな俺に、早くもシスターの一人が重傷だと思われる患者を連れてくる。
彼女が俺を見る目は、光の勇者がいる手前あからさまではないが、明らかに疑心に満ちていた。
だが、そんな視線は想定済み。
俺は彼女が連れてきた幼女に近寄り、診察を始める。
「……脱水が激しい。ティン! 準備は……」
「はい! 怪しい液体『アクエリオ』も、布きれを入れた桶も準備万端です!」
俺の言葉を遮りティンが、桶の中に薄く濁る水と、ボロ切れの入った桶を両手に抱え持ってきた。
「うん、怪しいっていうな! これはちゃんとした、も体の水分に近い水だ!」
ドヤッ! っとした顔の俺を、はいはいと聞き流すティン。
言いたいことは山ほどるが、今は放っておこう。
「よし。治療を開始する。テレポート!」
俺は幼女の腹の下、腸のある場所に手を当て転移の呪文を唱え、腸に住み着くコレラ菌を体内からボロ切れの入る桶に転移させた。
もちろん、一気に取り除くことは不可能。
なんたって人間の腸の長さは、子供だって一メートルを余裕で超えるのだから。
俺の治療は、腸にある廃棄物と一緒に、出来るだけコレラ菌を転移の魔法で外に出し。
失われた水分を黒砂糖と塩、森で採取した抗菌作用のある葉、シソソと一緒に煮て水分を吸収しやすくした液体。
『アクエリオ』を飲ませるというものだった。
「テレポート……よし。大体のコレラ菌は取り除いた。後は定期的にアクエリオを飲ませてくれ! 次!」
ジワリッと滲む額の汗をぬぐい、俺は次に運び込まれる患者に視線を向けた。
「か、必ず助けると言ったのに、これだけ待たされるとは……ぐぷっ!」
皮肉を言いながらも差し出す桶におう吐したのは、クレインと行動を共にするアーシャだ。
「そう言うな。お前が我慢してくれたおかげで、一〇数人の人が危機を脱したんだ」
言いながら、彼女の下腹部を透視する。
「……変なことしたら、すぐさま殺しますよ!」
「安心しろ。そんなトゲトゲした目で見られたら、何かする気もおきねーよ!」
俺を睨みつける彼女を少しでも安心させようと、わざと憎まれ口を叩いたのだが……。
「そんなに私の顔……怖いですか?」
「はい?」
瞳の端に涙を溜めながらも、ツンとした彼女の横顔があった。
「い、いや、別に……」
「分かって……るんです。私の顔って……きつくて、怖いってこと……」
キッと俺を見つめる彼女の瞳は確かに一見、威圧感があるように見えるが、良く見れば自分の病状が不安でしかたないと語っていた。
「ああ。確かにそう見えなくもないが……でも、俺にはなんか必死で群れから離れまいとする小鹿に見えちまう」
そう言う間に、俺は彼女の腸に集まるコレラ菌を発見。
「テレポート!」
すかさず呪文を繰り出し、病の元凶であるコレラ菌を桶にある布に転移させた。
「少し、肩の力抜いて笑ってみろ。そうすればちっとはかわいく見えるぞ。もとは悪くないんだから」
いまだに険しい顔の彼女を、少しでも和ますとした言葉なのだが、
「え? わ、私が可愛いだなんて……な、何いってますのん⁉」
なぜか、とてもうろたえられた。
「ん? なんかお前、言葉使いおかしいぞ。それにコレラにかかってるはずなのに顔が真っ赤だ! おいおい、俺でも知らないような正体不明の病原菌に掛かってんじゃねーだろうな!」
彼女に掛けた俺の優しい? 言葉は、
「ぬぅ!! バカ! 死ねバカ! さっさと治療しろこのヤブ医者! バカ!」
彼女の物凄い罵詈雑言で帰って来た。
『このアマ! アクエリオの中に筋弛緩剤でも入れて、頬筋緩みまくらせて人に見せられない顔にしたろか!』っと思った俺は悪くないと思う。
だが今彼女は俺の患者。
手を抜くことも、わざと治療を間違えることも許されない。
「手元が狂うから、ちょっと静かにしてろ」
「ぐっ……」
だからそんな憎まれ口で、彼女の口撃を防ぐしかなかった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
ブクマ六〇越え!
ありがとうございます。
ありがとうございます!
今夜中にもう一話投稿させていただきます!




