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「全員突撃! あ! 悪いが俺の護衛も忘れず頼む」
森の内部に戻って数時間後、俺たちは森の出口にいた。
そして、かなり強引にグラナダに入るための突撃を敢行した。
今は一刻の時間も惜しいからだ。
「うむ。先頭は私が行く。レフ、ライ、カイル殿とティンティン殿の左右を、サイン殿たちは後方をお願いする」
「「「「「了解」」」」」
そんな俺の、無謀にも思える作戦に、アルデラは嫌な顔一つしないでニコリと皆の顔を見て立ち止まり、視線をグラナダに移して剣を天に掲げた。
そして、
「轟け雷鳴よ!」
気合一閃。
頭上に雷雲が発生し、雷が落ちた!
かと思うと、見る間に彼女の掲げる剣先に吸い込まれ……。
「雷収絶撃剣!」
アルデラが振り下ろした剣先から放たれる雷鳴。
途端に目も開けられない閃光が過ぎ去った……その後には、
「……何これ?」
思わずアホみたいに口を開いて、吐き出される言葉。
これは、なんて表現すればいい?
だって一瞬で、光に焼かれ、感電した、見渡す限りの死体の山が出来上がってたのだ。
「これ、数回撃てば勝てるんじゃないですか?」
ティンの言葉に激しく同意し、アルデラを見るが、
「いや~。これは私の全力なんで、出来てあと二回かな?」
片膝を付き、ダラダラと汗を流すアルデラの姿。
「おいおい、なんでいきなりそんな無茶を……」
「いや、無茶では無いよ。ちょっと気合いを入れただけだ。私にはこれぐらいしなくちゃいけないほど、君が急いでいるように見えたから……」
冷や汗が流れる彼女が無理矢理吊り上げた口角に、自分の焦りを見透かされた気がした。
「私は君を信じると決めた。だから……」
なんで? とか。
どうして? とか。
そんな言葉が入る余地のないまま、彼女は上げ立ち上がり、
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
何が起こったのかのか理解する前の魔物に、威嚇の声を上げて走り出すアルデラ。
「……よし。全員突撃!」
彼女の気持ちを察したのか?
無言で俺の言葉、っというか彼女に皆、付き従うよう走り出した。
「まったく。これじゃ俺も、気合入れて頑張らなくちゃな」
頼りがいのありすぎる背を見つめ、彼女の後を死ぬ気で付いて行こうと、俺も皮肉げに口角を吊り上げて走り出した。
「ぬはっ! ほ、本当に、死ぬかと思った!」
なんとかかんとか、俺たちはグラナダに入れたのだが……。
アルデラ以外、ちゃんと立っている者はいない。
彼女に死ぬ気で付いて行こうとしたのは、完全に間違いだったのだ。
マジで何回か死んだと思った!
いや、彼女は悪くない!
っと思いたい。
実際、彼女は悪くは……いやいや、作戦では彼女が先頭で皆が後を付いて行くみたいになってたけど、それは一般的な法廷速度を守った移動のはずだ。
あんな超高速で魔物をぶった切りながら進むなんて、誰が想像した?
「ぜぇ。ぜぇ。お姉様……さ、さす……げほっ! げほっ!」
「そ、そうで………………」
いつも一緒にいたはずの、レフとライさえこの有様。
強行軍では無く、超高速強行軍だと言えば分かってもらえるだろうか?
「うむ。カイル殿になるべく急いでと言われたので頑張ったのだが……ちょっと急ぎ過ぎたか?」
なのに本人はケロッとして、頬をかいてるのだからたちが悪い。
いや、無事にグラナダに着いたのだから、良しとすべきなのだろうか?
とにかく俺たちは、城塞都市グラナダに着いたのだ。
これから確認すること、やるべきことは山のようにあった。
「ぜぇ。す……ぐに……ここの……責……任……者と……話……が……した……げほっげほっ!」
「うむ。すぐにここの責任者と話がしたい。誰か知っている者はいないか!」
優しさ溢れるアルデラが俺を代弁してくれるが、その優しさをもう少し移動速度に分けて欲しかった。
多分、明日の朝には太腿激筋肉痛確定だ。
とにかく。
俺たちが息を整えている間に、町の代表者。
町長らしき人物が現れた。
らしきっと言ったのは、現れた人物が全身鎧を着込んでいたからだ。
「…………うん。とりあえず初めまして……ここの町長で良いのかな?」
初対面の人には、第一印象が大事と、何とか呼吸を整え笑顔で出迎えるが、
「ああ。私がこの町の長、コールだ……」
挨拶してくれた初老の紳士は、どう見ても異常なほどにくたびれていた。
例えるなら真っ黒な職場で使い倒され、酒場でグダ巻いてるおっさんのよう。
「初めまして、俺はカイル……ってか、おっさ……コールさん大丈夫か? なんか、顔色悪くないか?」
前言撤回。
コールさんは酒場のおっさんより憔悴しきっていて、しかも顔色は飲みすぎて吐きそうなおっさんよりも青白かった。
明らかにアレの症状が出ている。
「私はまだ大丈……夫……だ。しかし、この二週間ほどからこの町に下痢やおう吐が蔓延し、死亡者まで出る始末。被害は収まらず、本来病気と無縁そうな兵士や冒険者にまで広がり、魔物の襲撃にも支障を来たす……」
そこまで言うとコールさんは急に地面に膝を付き、おう吐を始める。
「この現状は……」
ただの町人では無く、この町のトップがこの症状。
どうやら思ってたより、事態は深刻のようだ。
「す、すまん。ちょっと席を外させてくれ!」
切羽詰まった声でこの場を立ち去ろうとするコールさん。
彼の突っ張った下半身を見て確信した。
「ティン。ここの結界を展開。それと大至急で元気そうな人間集めて来い。それとアルデラさん。あんたの力で動けるこの町の有力者を集めてくれ。なるべく早く!」
「はい!」
「分かった」
無く駆け出す二人の背を見送りながら、俺は俺の仕事を始めた。
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