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半径三〇センチぐらいの最強勇者  作者: 岸根 紅華
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ぐふっ! 今日中って言ったのに、日をまたいでしまった!

「これより、女神の祝福ギフトを授かった勇者の力試しを行なう」


 何の説明のないまま、教会から馬車に揺られて数時間。

 やってきたのは王都からそう遠くない森の中。

 魔王が復活したと言われる近年、王都から大した距離じゃない森にでも魔物が現れる。

 護衛の騎士に馬車の中でそう教えてもらった。

 女神の祝福を貰ってすぐに、低級とはいえ魔物との戦闘。


 うん。ありえないでしょ?

 俺、さっきまで村人だよ⁉

 生産型の非戦闘員だよ?

 そんなのに、いきなり戦闘させて良いの?


 言いたいことは山ほどある。

 だが勇者でも平民の俺は、護衛のために付いてきた騎士様にも文句の一つも言えない。

 だってこいつら、護衛だった騎士さんたちよりいかつい顔で話ずらいんだもん。


「光の勇者。前に……始め!」


 そんな脳内でのみ喋りまくる俺を余所に、騎士たちに追い立てられた魔物が目の前に現れ、強制的に実戦訓練が開始された。


「グラァァァ!」


 光の勇者であるシェリーの相手は、数匹のゴブリン。

 初級冒険者が相手する魔物と軽視されがちだが、子供ぐらいの大きさしかないこの魔物。

 酔った元冒険者のおっさん一人分の戦力はある。

 ちなみに俺は酔ったおっさんには逆らうことはせず、延々と愚痴を聞くとこを得意とするから、戦力外だ。


 だが奴らの強みは数と生命力。

 油断して返り討ちになった冒険者なんて星の数ほどいる。

 特に女子には色々危ない。

 だから俺は役に立たないかもしれないけど、何かあれば飛び出そうと最大級に警戒……。


「はあぁぁぁ!」


 する前に彼女が女神から貰ったと思われる、真紅の片手剣を一閃。

 ただそれだけで、ゴブリンたちが四散した。

 それどころか軽く振っただけに見えた彼女の刀身は、雑草生い茂る地面さえも抉っていた。


「これが……女神の祝福ギフト……」


 誰かが呟くが、もちろんそれだけじゃない。


 低級と言えども、魔物に向かっていく強い意思。

 他の命を狩るのに躊躇しない剣筋。

 力に溺れず、酔いしれず、慈悲の心を失わない瞳。


 まるで絵本で読んだ勇者みたいだ。

 いや、勇者か。

 

「これで、いいのですか?」


 絶句と言う名の沈黙のあと。


「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」


 沸き起こる歓声。


 いきなり貰った女神の力に戸惑うことなく、凛としたシェリーの立ち姿は魔王から人々を救ったと言われる女神か勇者の姿にしか見えなかった。

 いやもう、彼女が女神でも良いんじゃね?

 颯爽と退場する彼女の姿を目に焼き付けているうちに、他の勇者の腕試しも終わってたようだ。

 それぞれの力試しは満足な結果だったのだろう。

 炎と緑の勇者も得意げな表情だ。


「次、智の勇者!」


 智の勇者が呼ばれている。

 もしかしなくても俺だ。

 

 俺はシェリーの凛々しい姿を脳内保存しながら、女神から与えられた祝福ギフトの本を片手に意気揚々と広場の中央へ歩みを進めた。

 そして、その場に立って初めて気付く。

(あれ? 俺の祝福ギフトって、武器じゃなくね?)

 嫌な予感しかしないがもう遅い。


「始め!」


 戸惑う俺の心情など無視して、騎士の号令が響く。

 狼狽えている暇はない。

 俺は人間の兵士に追い立てられ、逃げ込むように目の前に飛び込んできたゴブリンを見据えた。


 智の勇者ってことで手加減してくれたのか?

 少し体は大きいがゴブリンは一匹だけだが、戦う術がない。

 ヒヤリッと冷たい汗が頬を伝い、手に持つ本に落ちた。

 その瞬間。


「え? ええ? なにこれ? 頭ん中に……」


 危険を察したからなのか、多分、本の内容だと思われる内容が俺の頭の中に注がれた。


「これは……魔道書?」


 手に持つ本を持ち上げ、表紙をまじまじと見る。

 すると、


「え? 読める! 表紙どころか内容まで……ばっちり頭の中に入ってる!」


 さっきまでは意味の分からない文字が並んでいただけの本の内容が、今はスラスラと頭に浮かんできた。

 これが勇者の力ってやつか!

 

「グルルルル!」


 突然勇者の力を得て立ち尽くす俺を、恐怖で竦んでいると思ったのだろ。

 ゴブリンが威嚇の声を上げ襲い掛かって来た。

 でも、今の俺の頭の中には、数十からの使える魔法リストが並んでいて。

 女神の祝福で魔力は十分ある。


「これで負けたらただのバカでしょ!」


 無策に突っ込んでくるゴブリンを見据え、俺は口の端を吊り上げ指先に魔力を貯め、


「ファイアーボール!」


 素人なのに無詠唱。

 だが、俺は自信を持って、声も高らかに魔力を解き放った。

 そして、


 ポンッ!

 

 確かに無詠唱でも魔法は発動された。

 しかし……。


「え? それだけ?」


 躍り出た火球は急激な温度差で空気を歪ませ、わずか指先数十センチの所で消えた。

 いまだに空気を歪ませているの火力は確かに凄いが、当の火球は四散していた。

(もしかして俺、炎系の呪文は苦手なのか? ならば)

 

「ライトニング! アイスジャベリン! ストーンバレッド!」


 有り余る魔力を大盤振る舞いして、覚えたての魔法を解き放つ。

 のだが、


「な!? 何でだよ!」


 だがどんな魔法も、指先から放たれた途端に威力を無くして四散した。

 呆然とする俺に、


「ギュラァァァ!」


 火球を放ったのに氷のように冷たいこの場の空気は、どうやらゴブリンには読めないらしい。

 奴は刃潰れて錆び錆びの剣を振り上げる。

 殺傷力ヒクヒクの獲物だが、それでも殴られれば痛い。

 下手をすると大怪我を負ってしまうだろう。

 俺はゴブリンの突進を避けようと、華麗にバックステップを……。


「ぬひゃ!」


 決めようとしてそのままこけた。


「シャッ!」

「うひゃぁぁぁぁ!」


 確実に俺の頭を砕こうとしたゴブリンの一撃を、何とか横に転がり回避。


「いやいや、今のが入ってたら確実にあの世行だよね!」


 例え刃が使い物にならなくても、鉄の塊をぶん回してるのだ。

 当たれば痛いなんてもんじゃない。

 恐怖を身近に感じ、俺の体が硬直したが、


「いや、まだ俺には『女神の祝福』《ギフト》があるじゃないか!」


 確か貰った魔法の中に、攻撃特化の近接用の魔法があったはず。

 そう。

 魔力で刀身を作り出す、魔法剣。

 略して魔剣だ。

 本当はもっとカッコイイ台詞と共に使いたかったが、剣を振り襲いかっかって来るゴブリンに、そんな余裕はない。


「いでよ、魔剣!」


 俺は魔力を右の人差し指に集中。

 魔剣が具現化した瞬間に魔物を切り裂こうとした。

 なのだが。


「え? ええ!!」


 魔物に襲われている最中にもかかわらず、俺の体はその場でフリーズした。

 魔力を凝縮し、全てを切裂かんとする刀身は黒く輝き……。

 

「身の丈を越えるほどとは言わないけど、せめて俺の身長の半分は伸びようよ!」


 そう。

 満を持して使った魔剣は、俺の指先一〇センチの程度しかなかったのだ。


「こんなんじゃ、超接近戦でもなきゃ使えないだろ⁉」


 自分の魔法にツッコむ俺のすぐ横を、ブンッと音を立ててゴブリンの剣が通り過ぎた。


 いくら体に魔力が満ちていようと、数多の呪文が使えようと、その魔法がしょぼくちゃ意味が無い。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 俺は魔物に背を向け、無様に見げ惑うことしか出来なかった。


「あはっははは! ゴブリン一匹に逃げ惑う。アレが勇者?」

「ふふふ。ダメですよ笑っては、彼は勇者とは言え平民なのですから」


 これ見よがしに聞こえる、兵士に守られた貴族たちの嘲笑。


(ならお前が戦ってみろ!)


 そう叫びたいが、平民の俺は口が裂けても言えない。

 それに今は言う余裕も無い。


「やっぱ、俺みたいな村人に、勇者なんて無理なんだよ……」


 なんとか体勢を整えて立ち上がるも、魔物への恐怖とギャラリーの侮蔑の声に心が折れた。

 俺はこの模擬戦を終了しようと審判役の騎士に視線を向け、降参だと口を動かそうとした。

 刹那。


「相手が構える武器が死角になるように、左へ三歩!」


 どこかホッとするような。

 でも、足腰に力が入る様な美声。

 声のする方にハッと視線を向ければ、


「大丈夫。誰しも最初から歴戦の英雄じゃない。でも、君ならやれる」


 頭の中で降臨した戦女神であるシェリーが、ニコリとほほ笑んでいた。


「距離を取ったら、一回、ゆっくり深呼吸して。相手を良く見て」


 彼女に言われた通り、左へ左へ、相手が掲げる武器が死角になるように逃げる。

 なるほど、なんだかさっきより余裕が出来た気がする。

 良く見れば、追い立てられたゴブリンは必死な形相で、俺を殺そうとしている訳では無く、ただただ逃げ道をさがしているようだ。

 それはさっきまでの俺とそっくりだった。


「君の力を、女神さまからもらった祝福が何かを、良く考えて!」

「俺の……ギフト……」


 与えられた魔力に高揚してた。

 宮廷魔術師がうらやむような、数多の魔法に有頂天になっていた。

 でも、俺が貰った本当の祝福は……。

 俺は手に持つギフト《本》を再確認し、その手に力を込めた。


「……え? なに!」


 ただそれだけなのに手に持つ本は光り輝いたかと思うと、頭の中にさっきとは違う内容を流し始めたのだ。


「これは……人の体……だけじゃない。ゴブリンの……」


 戸惑いは一瞬。

 理解も一瞬。


「ああ。理解した」


 俺はゴブリンと言うか人型の種族のことを………………全て理解した。

 脳、心臓の仕組み、血の流れから筋肉の動かし方まで。

 全て俺の頭の中に入ってきた。

 だから、


「ギャワアァァァ!」


 喚き散らすこいつの感情が、流れ込んでくるように分かる。

 今まで怯えていた相手の攻撃は只々獲物を振り回すだけで、そこから半歩体を動かすと容易に避けられた。

 そして、バランスを崩した、隙だらけで無防備な後姿を俺にさらす。

 後の処理は簡単だ。

 指先一〇センチしかない魔剣でも、こいつの首にある動脈を切り裂けば終わる。

 こいつの人生を終わりに出来る。

 例え、やっと先日成人として迎えられ、これで気になる相手にアタックできる! っと彼女の好きなウサギを狩ろうと、はしゃいでこの森にきてしまったゴブリンでもだ。


(済まない。お前を倒さなきゃ、俺は勇者に慣れないから!)


 ゴブリンの首筋に、魔剣を突き刺そうとする俺の脳裏で、

(どんな生き物にも、命はたった一つ)

 今は亡き母親の口癖が囁く。


 いやいや、こいつは人類に仇名す魔物で、俺が退治しないと…………。


(世間が、皆が言うから。ただそれだけで、お前は自分で確認しないまま、それが正しいと思うのか?)


 さらに母親と一緒に、死んだはずの親父の口癖が蘇る。


「じゃあ、どうしろってんだよ!」


 訳の分からない心の葛藤に吠える俺は、振り返り俺を見るゴブリンと目が合った。

 死を覚悟した瞳からは、殺気よりも戸惑いや後悔、恐怖から来る焦りが滲み出ていた。


(殺らなければ殺られる!)


 心にそう言い聞かせても、俺の体は恐怖とかではない何かに邪魔され動くことが出来なかった。


「……さっさと、逃げろ」


 俺の独語に、人語が分からないと思っていたゴブリンが目を見開き、次の瞬間、油断しきっていた騎士の間を縫って草むらに飛び込んだ。


「あ~あ。これで俺は勇者に……」


 勇者の試験を諦めた、でも、ほんの少し両親の心意気に共感した俺が、フッと息を吐いた瞬間だった。


「グッ⁉ グギャァァァ!」


 眩いばかりの閃光が、逃げ出すゴブリンの背を切り裂いた。


「逃げられないよ。君たち魔物は絶対悪なんだから」


 金色に輝く剣に残る返り血を払い、キザったらしく前髪をかき上げる炎の勇者。

 名前はまだ知らない。


「隙を突いて逃げようとするなんて、やっぱり魔物って狡賢いよね……」


 にこやかに魔物の血を拭い、肩に剣を置く炎の勇者に対し、


「別に……田舎者の俺には分からないけど、ただ、逃げまどう無抵抗な魔物の背に剣を突き立てるのって……勇者としてどうなの? 格好いいの?」


 思いつく限りの嫌味を混ぜて奴を睨む。

 自慢じゃないが、相手の気分を害する言葉は、俺の頭の中に山ほどある。

 うん。まったく自慢にならないな!


 なのに奴は、


「うん。僕は魔物を倒すためだけに生きているんだから……」


 ほんの少しだけ寂しそうに笑った。


 貴族特有の上から目線じゃない。

 それよりももっと特有で、特別で……。

 まるで魔物を殺さないと、死ぬような呪いでも背負ってるような。

 そんな苦しそうな笑みだとなぜか感じた。


「教えられたものが全て。そう君は言うのかい?」


 苛立つ俺の気持ちは、彼女の涼やかな声に代弁された。


「ハーバライト卿。確かに君の言葉にも一理あるだろう。でも、教師の教えることが常に真実だとは私は思わない。なぜなら、彼らが教え、それを実行したものが全て正しいのなら、きっとこの世界には争いが無くて、魔王など存在しないのだから」


 敵意も邪気も無く、なんなら無邪気にほほ笑みながら俺たちの方へと足を進めるシェリー。

 俺自身は家庭教師なる者に教えられることは無かったが、彼女が言うのだからそう言うことなのだろう。

 その証拠に。


「ふっ。シェリー。もしかしたらそうなのかもしれないね」


 納得した訳ではないだろうが、でも苦笑いで口を閉じる炎の勇者。


「力試しはこのぐらいで良いのでしょう?」


 隙をついて俺に向かい、バチンッとウインクをするシェリー。

 思わず彼女に合せて納得したような顔で頷いてしまう。


 俺の表情に満足したのかシェリーは俺から視線をズラすと、茶番は終わりと監視役に来た文官に強気な笑みを浮かべた。

 それも剣の柄を握ってだ。


「と、とりあえず、この戦果は勇者の査定に反映します」

「うん。己に恥じないような、真っ直ぐな報告が届くことを祈る」


 そう言ってシェリーがこちらに向けた笑顔が、どこか寂しそうに見えたのは俺の気のせいだったのだろうか?

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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