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今日二話目です。
よろしくお願いします。
「カナン! しっかりしてカナン! あんた、カナンを治せるの! 願い。私が出来ること、何でもするから、カナンを助けて!」
「分かった。分かったからその手を放せ! 無理に槍を抜こうとするな!」
涙でぐちゃぐちゃな顔で懇願してくる少女を、少々強引に押しのけ、俺はカナンと呼ばれた少女を診察する。
「傷口は大きくないが、槍の隙間からかなり出血してる。さっさと止血しないとヤバイな」
顔色の悪さに荒い呼吸。
普通なら手遅れと言ってもおかしくない状態だ。
だが、
「俺なら治せるはず……いや、治して見せる!」
そう呟き、彼女の胸に手を当てる。
別にドサクサに紛れて、やましいことをしているのではない。
「こ、これは、彼女の心音を確認しているんだ」
そう自分自身に良いきかせるように独語を吐き、彼女の心音を確認。
良かった。思った以上にしっかりいている。
「さすが、この魔物の群れを相手にしてただけはあるな」
感嘆の声を上げながら槍の刺さった辺りに手を当て、透視の呪文を掛ける。
「くそ! 武器の手入れぐらいしっかりしとけよ!」
錆びだらけで刃こぼれもしてる槍の穂先に毒付く。
激しく波打ち不衛生な刃に、彼女の動脈が傷つけられていた。
「浄化。麻痺。魔剣」
傷口付近を消毒、左手で槍を固定し、右手の中指で患部を麻痺させ、人差指に魔剣を出し、槍が刺さる腹を慎重に切り裂いていく。
周りの筋肉や神経を傷つけないよう、慎重に、でも素早く患部を広げる。
「…………ここか」
槍先の欠けた刃が、彼女の動脈に食い込んでいた。
「魔剣解除。治癒術待機」
人差し指の魔剣を解き、代わりに治癒呪文を指先に展開。
生命力に満ちた淡い緑色した光りを確認した後、左腕で固定していた槍を……一気に引き抜いた。
ブシュッ!
槍の刃に堰き止められてた血液が勢いよく噴き出て、俺の顔を、体を濡らすが、
「治癒!」
狙いたがわず指先の治癒魔法で血管を再生させた。
「よし、上手くいった」
彼女の出血は止めた。
これですぐに彼女が死ぬことは無くなった。
俺は切り裂いた患部と、槍が刺さった傷口を、針と糸でつなぎ合わせるように、丁寧に治癒の魔法を掛けていく。
これで一安心。
だが、
傷以上に厄介なのが、不衛生な槍で刺され体内に入り込んだバイキンだ。
簡単に言うと、不衛生な槍先の雑菌が体内に入り、弱った体で増殖する感染症ってやつだ。
予想でしかないが、槍が彼女の動脈を傷つけて十数分。
雑菌は血管を通って全身に巡っている。
増殖を始めるには十分な時間だ。
「透視、透視、透視」
俺は指先程度しか見えない透視を連発し、彼女の心臓付近から広がるように体内を調べる。
そして、
「見つけた!」
槍が刺さっていた脇腹では無く、右胸近くで増殖を始めている雑菌を確認。
「浄化!」
その中心部に魔力を解き放ち、雑菌を駆逐した。
「さて、後はどこにいる……」
それから十数分。
「ふむ。カイル殿。魔物は駆逐したが、彼女はどうだ?」
健やかに寝息を立てる少女の横で、呼吸を乱し座り込む俺。
端から見たら、『眠れる少女と変態さん』などと命名されそうな絵図らだが、
「傷口は塞いで、大まかに雑菌を駆除した。後は彼女の生命力次第だが、容体は落ち着いているからまず大丈夫だろう」
息を切らしながらも親指を立てる俺に、
「そうか。さすがは私が見込んだ名医だな!」
にこやかに親指を立てかえすアルデラ。
「え? 俺って……名医……だったの?」
彼女の笑みに息も絶え絶えの俺は、上手く笑い返せただろうか?
最後までお読みいただきありがとうございます。
そんなあなたに吉報です。
ブクマ五〇を記念して、新作『悪役令嬢? 婚約破棄? 何それ美味しいの? 私には弟の愛さえあればいいのです!』を投稿します。
うそです。
投稿はうそじゃないですが、作者が酔った勢いで書き始めたものです。
御用とお急ぎでない方は、ぜひそちらもご覧ください。




