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「前方に魔物多数!」
「回避……不能! 戦闘に入ります!」
「よし、一気に蹴散らすぞ!」
「「はいっ!」」
「何回も言うが、お前らが大声出さなきゃ回避できたよな!」
アルデラのよく響く声と、それに応えるレフとライの大声。
これで気が付かない魔物がいたら、そんなの見回りにする魔王軍がマヌケなんだと思う。
うん。やはりマヌケは俺たちだけだ。
「グラァァァ!」
無駄に元気ノーテンキな声に、魔物の群れは威嚇の咆哮を上げて向かってきた……。
「なあアルデラさんや? 俺たちはなんでグラナダに向かっているか……分かってるかい?」
馬を走らすこと早や二日。
俺たちは道からやや外れた場所で野営をしていた。
本当ならグラナダの様子をじっくり観察して、帰路に着ける行程のはずなのだが、なぜかいまだに目的地に着いてなかった。
理由は簡単。
アルデラたちが目につく魔物と言う魔物、いや、探し出してまでちょっかいを掛けて戦ってるからだ。
これじゃ、移動中に休ませようとした彼女らの体も休まらない。
「え? 私たちは偵察部隊なのだろう? ならば魔物に見つかったら殲滅して口封じをしなくてはならないだろ?」
「うん。それより見つからない努力をした方が効率的だと思わないか?」
「見つかってしまうのだらしょうがないだろ?」
「それは君たちが大声で確認し合うからじゃないかな?」
おかしい。
確か俺は、彼女に淡い恋心みたいなものを持っていたはずなのだが、今俺の心中にはいら立ちの心しかない。
「グラナダに向かうため、俺たちは極力戦闘を避けるべくなんじゃないか?」
これでも、かなり温厚に言葉を選んだが、なぜか彼女は困ったように眉を潜めて俺を見る。
「ああ。それは分かっている。分かっているのだが……それでは見過ごした魔物はどこに向かう? それらは我々が補給に寄った村に行くのではないのか?」
その言葉に、俺の煮えたぎった心はスゥっと冷め、そればかりか後ろから冷水をかけられたぐらい全身が冷えた。
「いや、それぐらいカイル殿が考えて無い筈はないと思うのだが……やはり私は、周りが見えず愚直で単細胞な女なのだな」
反省するように頬を掻き視線を落とす彼女に、俺は黙って見つめることしか出来なかった。
自分と身近にいる彼女らのことばかりに気を取られ、視野を狭めてたのは俺の方だ。
愚直?
単細胞?
その言葉は簡単にバカにしてい良い言葉じゃなかった。
最初からこの女は、この国の民のために真直ぐだったんだ。
良くワルだと思ってた奴が実は優しく、そのギャップで惚れるなんて物語がある。
だが、優しいと思って惚れた人物が、実はさらに物凄く優しかったら……。
俺はいったい、どうすれば良いのだろうか?
『まずは求婚! いやいや、とりあえず土下座だろ? それから……』
俺の中で彼女の評価が、ドラゴンの滝登りの如く上がっている中。
「ふむ。やはり君に……カイル殿に、全てを、この身を任すしかないようだ。これより私は、カイル殿の指示に従おう……」
なぜか彼女は、俺の指示に従おうとしていた。
それは嬉しい。
が、
間違っていたのは俺の方だ。
そんな俺に、彼女の純粋な思いが捻じ曲げられてはならない。
俺の中の酷く面倒臭い感情が反射的に、跪こうとする彼女の肩をガッとつかんだ。
「ダメだ。いや、何がダメってこと無いんだけど、君は君のままで良い!」
なんか良いこと言ったような気がするが、完全に俺の我がまま。
キョトンとする彼女に、何かいい案は無いかと視線を彷徨わす挙動不審な俺。
「カイルさんは魔物を倒したいけど、アルデラ姉さんの体のことを気にしてるのですよ!」
そんな俺に、意外な所から助言が入った。
「そうですよね、カイルさん」
にこやかな視線を向けるティン。
「お、おう! その通りだともティン君!」
思わず意味不明な言葉使いになってしまうが、本当のことなので堂々と胸を張ろう。
「さあ、邪魔な魔物たちを駆逐しつつ、グラナダに向おう!」
そう言い放ち、心の中でアルデラの領地での無料治療を、三ヶ月に増やそうと決める俺だった。
それが、無謀な旅の始まりだと知らずに……。
最後までお読みいただきありがとうございます。
それに、ブクマがすでに、今年の目標に届く勢いです。
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