四章:1ただの自己満足だ
四章始まります。
兵士の言葉に町の住民は一拍おいた後、誰一人例外なく右往左往混乱していた。
悲鳴を上げて逃げ惑う女性に、騎士や勇者はなにをしているのだと怒鳴り始めるおっさん。
その場に膝を付いて拝みだす老婆。
大人たちの恐怖が伝染し、泣きだす子供たち。
今まさに、この場を恐怖が支配していた。
「この国一番の城塞都市が落ちたんだ! 防御壁もないこんな町、魔物の大軍の前じゃひとたまりも……ぐえっ!」
この状況にまだ不満なのか? いまだに叫び続ける兵士を俺が動く前にレフとライが馬上から引きずりおろした。
「何すんだ! 俺はこの町のことが心配……で……」
地面に転がされ、レフによって腕を後ろ手に拘束されながらも叫ぶ兵士の喉元に、いつにまにか近寄っていたアルデラの剣が突き付けられた。
そして、
「静まれ!」
悲鳴や怒号の混ざり合う広場に、凛としたアルデラの美声が響いた。
「いったい何を……私は……この町に警告を……」
「混乱と災いを招きに来た。の間違いだろう? その口の臭さ。きさま、人間を喰らう魔物だろう?」
さすがは光の勇者。
この魔物の擬態を見破ったみたいだ。
「ギガッ! よくぞ我が擬態を見破った人間! だが、城塞都市が落ちるのは時間の問題だ!」
「きゃっ!」
開き直った魔物が力任せにレフを突き飛ばし、体の膨張に伴って人間用の鎧がひしゃげて吹き飛んだ。
「なぜなら、魔戦将軍の配下の中でも、最も力の強い我が……」
人間だった口が頬まで裂け、魔物が本来の姿に戻ろうとした瞬間。
「バカかきさまは!」
アルデラは呆れたような声と供に、魔物の喉を剣で突いていた。
まあ、普通に考えれば、正体見破られて、呑気に自己紹介なんて……。
魔物ってバカなのかな?
思わずそう思ってしまう。
おっと、後始末が残ってた。
「きっとこの魔物は、グラナダに援軍を送らせないようにこの町を混乱させに来たんだろう。それを見破るとは、さすがは光りの勇者だ!」
呆然と立ち尽くす町の人々が理解しやすいよう、わざと大声で説明すると、
「え? そうなの⁉」
なんて聞き慣れた声の呟きが、聞きたくないのに耳に入ってきた。
「本能のまま動くお姉様。ステキ!」
「己の勘だけを頼りに生き抜くお姉様。カッコ良い!」
フォローのつもりなのか? レフとライが引きつった笑顔を浮かべる。
おいおい、あんた本能で魔物だと見抜いただけの脳筋か!
そんな思いを声に出さなかった俺を、誰か、誰か本当に褒めて欲しい。
ニセ使者の騒ぎから数時間後、本物の使者が来た。
もしニセ使者がまだいたら、さらに混乱を招いたことだろう。
やはりグラナダはまだ落ちて無かった。
だが魔物に取り囲まれ、各地に救援願いを出しているのは本当だった。
「ふむ。あそこには火の勇者がいるはずだから、そう簡単には落ちぬと思うが……」
「まあ、火の勇者には御者がいっぱい付いてるみたいだし、あんたみたいに疲労困憊、満身創痍じゃなきゃ、何とかするだろ?」
「そうだな。だが味方は多い方が良いだろう? レフ、ライ、出発の準備を!」
言外に、あんたは休めと言ったつもりなのだが、どうやら通じなかったようだ。
俺の中で、彼女の脳筋疑惑が跳ね上がる。
「はあ。単刀直入に言うが、あんたとレフとライの体はまだ全快してない。治癒術師としては、あと二日の休養を推奨するけど?」
「うむ。カイル殿の言は正しい。そう分かっているが……」
「いや、全然わかってない。その顔はすぐにグラナダに行く気満々じゃねーか!」
苦笑するアルデラを見て、額に手を当てて首を振る。
やはり彼女は、脳筋。
それも飛び切り人が良くて、なのに人の話を聞かない部類の、キングオブ脳筋だと分かった。
なんか、物凄く嫌な予感がする。
「なあ、アルデラさん。相談があるのだが?」
なので俺は、彼女が納得できるギリギリだと思える提案をした。
そして……。
本物の使者の話を町長と一緒に聞いた俺たちは、グラナダに向かうことになった。
援軍としてじゃない。
援軍が集まるまでの偵察としてだ。
俺とアルデラは、なんとかそこで妥協したのだ。
「町長殿。王国への救援の使者は三人一組。必ず別に道、三方向からでお願いする。それとくれぐれも町の警備は厳重に、町の外から来る情報を鵜呑みにせぬように」
馬上から町長に念を押すアルデラ。
その後、「これで良いのか?」っと俺に視線を向けなければ完璧なのだが、町長も町民もその視線に気付いてないから大丈夫だろう。
皆の希望である光の勇者様が、実は脳筋だったなんて知られてはならない。
いや、もう遅いのかもしれないが、独断と偏見でそう思った。
とにかく俺たちは早急にグラナダへ向かわなけりゃならなかった。
何で俺がって?
アルデラたちの体調管理のためだ。
もちろん、それだけじゃない。
国王の命令は、俺とティンがグラナダに行くこと。
それ以外の指示は聞いてないと、ティンにも確認済み。
恐らく現地で新たな指示を伝える者がいるのだろうが、この混乱する状況ではきっと出会えないだろう。
だから俺は、この偵察に同行する。
後は「ちゃんとグラナダには行った。戦闘の混乱で指示する者なんていなかった。だから帰った。光の勇者が証人だ」と言えばいいだけだ。
そう説明したとき、ティンは「詐欺師……」なんて、ゴミ虫を見るような目で見たような気がしたが、華麗にスルー。
「さあ、さっさと行って、状況確認して、さっさと戻って来るぞ!」
気合十分な俺に対し、
「ああ。情報収集は大切だからな」
素直なアルデラと、
「…………そうですね。それでカイルさんの目的は果たせますもんね」
素直でないティンの返事が返ってきた。
レフとライは俺の言葉になど、返事をする気も無いみたいだ。
兎にも角にも、俺たちはグラナダに向かって馬を走らせた。
なんとか四章までたどり着きました。
これも読者様の応援のおかげです。
引き続き応援よろしくお願いします。




