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少々多めです。
「さて、重傷者もいなくなったことだし、俺たちもそろそろ……」
「た、大変だ!」
緊急を要する治療を終え、のんびり昼食を済ませ大きく伸びをした俺の耳朶に響く町人の声。
「はいはい、大丈夫。大体、大変だと言いながらも、本当に大変なことなんて……」
「勇者様たちが、再びこの町に来られたぞ!」
うん。本当に大変なことってあるのだと、心から思った…………。
「久しいなカイル殿!」
銀色の長髪をさらりと流しながら宿屋から出た俺にニッコリと挨拶をしたのは、光の勇者であるアルデラだった。
相変わらずの近寄りがたい雰囲気なほどの美人なのに、人懐っこい態度が良い意味でのギャップを生み出していた。
「あ、ああ。アルデラさんもお元気そうで……?」
あいも変わらずの凛とした立つ姿に、思わず見惚れていたが……。
何だろう?
なんかどこかに、違和感を覚えた。
「あの……失礼ですが……本当に元気?」
その違和感の原因を確認しようと、彼女に歩み寄った。
刹那。
「なにドサクサに紛れて、お姉様に近付こうとしてんですかニセ勇者!」
「なに勢いを利用して、お姉様にくっつこうとしてんですかエセ勇者!」
いつの間にか現れた二つの影に、俺は二筋のナイフを喉元に突き付けられてた。
「いやいや俺は別に、彼女に抱きつこうとかしてないから!」
「そんなこと思ってたんですかこのゲスが!」
「それでお姉様が妊娠したらどうするつもりですかクズが!」
「触ったぐらいじゃ妊娠しないから!」
「「分かるもんですか!」」
グイッと殺気のこもる刃に力を込められ喉の薄皮が切れるが、この状況で俺が出来るのは両手を上げて敵意が無いことを示すだけ。
「ははは。レフ、ライ。大丈夫、そんなことしないよ。彼は私の友人なのだから」
どうしょうも無い状況に、アルデラが救いの手を伸ばしてくれた。
本当に彼女は良い娘だなと思う反面、その優しさゆえか?
「……お姉様が言うから、刺殺しないであげる」
「……お姉様が言うから、縊り殺さないであげる」
彼女の周りには、恐ろしく面倒な人間が集まっているんな~っとしみじみ思った。
アルデラの言葉と共に、殺気と一緒に収められた刃。
凶器にさらされた喉に手を当て、やっと殺気の元に目を向けられた。
右には水色の髪を肩で切り揃えた少女。
左にはピンク色した髪を、同じく肩で切り揃えた少女。
それ以外の差異は見つけらない二人は、どう見ても双子だった。
「「でも、お姉様をいやらしい目で見たら殺す!」」
言いながら二人は、あっかんべ~! っと指で下まぶたを引き下げた。
その仕草に、俺は思わず二人の頭に片手ずつ手を乗せた。
「お前ら、彼女の護衛をするなら体調管理もしっかりしとけ、瞼の下が真っ白だ。目眩や立ちくらみが多いだろ? それは貧血のサインだ」
「「……き⁉ キサマ! なぜそれを!!」」
一度引っ込めた刃を再び俺に向けようとするが、
「な!? レフ、ライ! それは本当か⁉ やはり無理して私の護衛を……」
「お姉様!!」
二人はあっという間に、駆け寄るアルデラの両の出に囚われてしまった。
「「き、キサマ!」」
抱きとめられた嬉しさと、秘密がばらされた悔しさで、なんだか表現しようのない視線を、ボリボリと頭を俺に向ける双子。
「まあ、治療術師なんてやってると、人の健康状態なんて一目で分かるんだよ。お前ら貧血だ。簡単に言えば血が足りない。海草とか川魚とか、鉄分のありそうなの食べろ」
アルデラに抱き寄せられ至福の表情で、それでも俺に殺気を放つ少女たち。
なんか、物凄く面倒臭いんですけど⁉
そう思ったのも束の間。
「そうか。やはり君は私の思った通りの人物だったのだな!」
「「「………………」」」
なんでか彼女の満足げな微笑を向けられたら、俺も彼女たちも黙るしかないだろ?
「で、カイル殿は、私にも何かあると?」
どこか悪戯っぽくも挑戦的な視線を向ける彼女に、もう遠回しな言葉は要らないと、俺はコクリと頷いて口を開いた。
「一番目立つのは疲労。目の下に白粉を塗っても隠しきれないほどの隈だ。それに左足首を痛めてないか? さっき双子に駆け寄った時、僅かに庇ってるように見えた」
俺の推察に彼女は一瞬目を見開き、口の端を吊り上げて苦笑した。
「レフ、ライの体調ばかりか、私の体調まで見抜くとは……やはり智の勇者は凄いな!」
キラキラした穢れの無い瞳を向けるアルデラ。
直視できず、そっと視線を逸らす俺。
無理です。
なんか穢れきった俺が、そんな瞳を真っ向から見られるわけありません!
なのに、彼女はレフとライを放し、ズイッと俺に近付き。
「正直、私たち疲労困憊だ。それに先の魔物の猛攻を防ぐ際、左足首を捻った。カイル殿。彼女共々私を治療してはくれないだろうか?」
そう言った彼女は、俺の手をギュッと握った。
ギュッと握った。
ギュッと握った!
必要だから三回言いました!
しかも、見上げるようにウルウルさせた瞳を上目使いで向けてきたんだ!
この破壊力。
抵抗できるわけないだろ?
いや、それだけで昇天する気満々になってしまう。
「わ、分かり申し上げた! そなたたちを治療することに異存はござらぬ!」
混乱して訳の分からない言葉使いになった俺を、咎められる奴がいたら咎めて見ろ!
「そ、それじゃ、三人とも治療室へ……」
宿に三人を誘導しようとして、ハッと気づいた。
(あれ? 治療室って、あのおっさんが……)
除菌したとはいえ、あのおっさんが粗相した場所に彼女を連れて行く訳にはいかない。
だから俺は、
「おいティン! 今すぐここに聖域を作ってくれ!」
俺は後ろにいるはずのティンに指示を出す。
が、
彼女はまったく動く気配を見せない。
不審に思い振り返ると、
「浮気! カイルさん。よりにもよって、こんな美人さんと浮気!」
何かぼそぼそと呟きながら、身悶えていた。
どこかの書物で表現自体は知っているが、ハンカチの端を咥えてキィー!! ってなってる奴、初めて見た。
「いえ、これは正妻としての最初の試練。ガツンと強気で行かなければ!」
物珍しさに眺めていると、彼女は瞳になぜか強い意思をみなぎらせ、ズンズンとアルデラに向かって歩き出す。
そして、
「初めまして! 私、カイルさんを最初から勇者と認め、行動を共にしている聖女候補です! カイルさんにはそれはもう、命の救ってもらったりあんなことやこんなことまで色々、隅々までお世話したりされたり……とっても良好な関係を築かせてもらってます!」
堂々と胸を張り、威圧でもするかのように言い放つティン。
そうか。
自分で言うのもなんだが、結構ぞんざいに扱ってた感があるので、そう思ってくれているのなら、もう少し雑に扱っても良いのかと思えてしまう。
そんなティンティンの態度に、
「そうか、君がカイル殿の聖女候補か。申し遅れた。私は天の勇者に任じられたアルデラ。生憎私の聖女候補は近くの村で治療を行っていて遅れているので後で紹介するが、先に君の名を聞いても良いかい?」
アルデラはニコリとほほ笑み、手を差し伸べてくる。
「ぐぬっ! そ、それは……」
あからさまに狼狽えるティンだが、どうやら彼女の紳士な眼差しには抵抗できず、
「私は……ティンティンです」
絞り出すように小さな、でも、しっかりと彼女の目を見て名乗りを上げるティンの姿。
まあ慣れたとは言っていたが、毎度毎度、失笑されるのは嫌なものだろう。
自分も爆笑したくせに、アルデラはそんな人ではないと思いたい。
なんともエゴイストな俺がいた。
「「へえ……………」」
やはりレフとライは奇異な目をティンに向けた。
そんな視線を吹き飛ばしたのは、
「ティンティン……うん、可愛君にピッタリな名だね」
嫌味成分が一切混ざってない、アルデラの言葉だった。
「なんですか? 私に合ってるだなんて……バカにしてるんですか!!」
それを嫌味だと思ったのだろう、ティンが涙目でアルデラを睨むが、
「ティンティンとはバラの名だろう? 可憐な君にぴったりだと思ったんだが……君のご両親は、本当に君のことを愛していたんだね」
コクンッと首をかしげるアルデラ。
なんか彼女が言うと、どんな言葉にも悪意の欠片も見えないのが不思議だ。
ティンティンと言う言葉にも、なんだか気品を感じてしまう。
それは俺に限ったことでは無いようで…………。
「アルデラさん! あなた、本当はとってもいい人だったんですね!」
すでに感涙を流すティンが、彼女の両手をガシッと握っている。
「ん? 良く分からないが、よろしく頼む」
「はい……はい!」
何度もうなずうき、信頼の眼差しを向けるティン。
少しちょろすぎやしないか? っと心配になるが、彼女にとってはそれほど稀有なことだったんだろう。
「ほらティン。自己紹介が終わったんなら治療、始めるぞ」
「はい! アルデラさんのためなら私、魔王の一撃も防ぐような強力な結界張っちゃいますよ!」
「いやいや、そこまでやる気出さなくていいから。菌の侵入を防ぐだけでいいから」
「何言ってんですか! アルデラさんを治療するのに、ただの結界だけじゃ申し訳ないでしょ!」
「お前、結界をなんだと思ってるわけ? 治療の度に城みたいな結界張ってたら……」
「それだ!」
「それだ! じゃね~よ! 無駄口叩いてないで、頼むからさっさと結界張れよ!」
そんな俺たちのやり取りに、
「あはは! カイル殿たちは面白いな」
心底楽しそうに笑う、アルデラの声が重なった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
あともう少しで、第三章も終わりです。
クライマックス近くになると、いきなりエタる作者に、どうか力を貸して下さい!
はっきり言うとブクマや評価が欲しいです!(なんて物欲的なセリフ!)
こんな作者ですが、最後までよろしくお願いします!




