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ブクマありがとうございます。
「ではまず額の呪紋を消します。我慢できない痛みがあるようでしたら痛いって言って下さいね」
淡々と、前払いで三〇〇〇ゴールド払ったおっさんに、「呪紋の除去には痛みを伴う」そして、「最悪の場合、呪紋のよって自分の意思とは関係なく暴れ出す」っと言い、両手足をベッドに縛り付け、猿ぐつわまでさせた。
緊張してるのか猿ぐつわで「痛かったら痛いって言って下さい!」と言えなくなるのをまったく分かってない騎士殿は……。
まるで太った芋虫が這いまわるよな光景になっていて、思わず笑ってしまいそうになるが我慢した俺を誰か褒めて欲しい。
「では、手術を開始します」
そして治療を開始する。
もちろん、彼には相応の苦痛を与えるつもりなので、麻痺の呪文類は一切使いません。
なので、
「ひっ、ぐはっ! いだ! いだだだだだだだだだ!!」
猿ぐつわをしたのに騎士殿の大声が耳朶を打つ。
「ああ、ティン君。患者の口内から雑菌が入るから……」
「了解です!」
「む⁉ ぬが……」
こういう時だけ妙に気が利くティンが、さっさと騎士殿の猿ぐつわの上からもう一枚布をかぶせた。
「むごごごごご!」
よし、これで何言ってんだかわからなくなった。
俺はここぞとばかり泣こうが叫ぼうが、軽度の内出血しかしてない額を、魔剣で切り裂いていく。
「むごごっごごごごごごご!!」
分かってる。
痛いのは、よ~~~く分かってる。
だって俺は、無駄に神経を舐っているのだから。
「これは酷い……騎士殿はよほど上位の魔物と対峙したことがあるのでは? でなければこれほどの呪紋は……」
俺はちょっとした悪戯心で、口元の布をズラして聞いてみた。
「ふっ、ふぐぐっぐ……わ、分かるか⁉ こう見えてワシはゴブリンを数匹倒したことが……うがぁぁぁぁ!」
聞いて損したから手術を続けた。
魔物の底辺であるゴブリンが、呪紋なんて高等なことする訳ないだろ!
「……さすが騎士殿ですね!」
だが俺は、相手を持ち上げることに隙は無い。
そしてそのまま口元の布を戻しつつ、麻酔なしの激痛を伴う(激痛はわざとだが)手術に専念した。
「ぬぐぐぐっぐ!」
「はい、もう少しで終わりますからね……。それでもアノご婦人の手術時間より短いですけどね?」
たっぷり時間をかけ、極上の痛みを味あわせながらも嫌味も忘れない俺は、ちゃんと治療を続けていた。
もちろん、麻酔をしていないので、騎士殿は激痛を味わったまま。
気絶も出来ずに(させない)体がピルピル小刻みで痙攣して痛みを表現していた。
手術は終盤を迎えている。
正直ここまで耐えるとは思わなかった。
感嘆の視線を向ける俺に騎士殿は……。
「むきゅぅぅぅぅぅぅ」
どうやら気絶しているみたいだ。
しかも股間の辺りがグッショリ濡れてる。
後で宿屋の人に謝らなければ。
とにかく、手術も無事終わる。
「頭部の治療は完了。これより縫合に移る」
瓶をぶつけられた触ってもそれほど痛まない内出血は、俺の激痛を伴う手術で、見事完治したのだった。
翌朝。
騎士殿は「急ぎの仕事だから」と、治療費の残りの代金をやや多めに宿屋の主人に渡し朝一でこの町を出ていった。
きっと口止め料も含まれているのだろう。
まあ、明確にそう言われてないので喋るか喋らないかは俺次第。
とにかくまったく好きにはなれない奴だったが、ちゃんと料金を払って行ったのは評価していいだろう。
「でも……確かに少しはスッキリしましてけど……あんなぐらいのお仕置きで、良かったんですか?」
なにやら不服そうに眉を潜めるティンに、
「え? あれで終わりだと思ってるの?」
「え? 終わってないんですか!」
どうやらこいつも、サインする誓約書に目を通さないタイプらしい。
簡単に詐欺にあいそうで大変心配だ。
「この誓約書を良く見ろ! いや、ボケられるのも面倒だから最初から説明するわ」
「なんですか? どういう意味ですか? 止めて下さい! そんな可哀そうなものを見る目を向けるのは!」
「お前、そう言うのだけは感が良いのな!」
とにかく、話が先に進まないので、俺はゴホンッと咳払いを一つ、誓約書を見せながら彼女に分かるように、簡潔に説明を始めた。
「まずはここ『もし対象者に危害を加えた場合、総資産の半分を対象者に渡す』とある。奴は対象者を俺だと思っているようだが、最後の注意書きには対象者はこの町の人、全員とある」
なあ、注意書きは小さく、割と崩れているが、読めなくはないレベルで書いてあったりする。
「次に日付だ。この日付、よ~~~く見てみろ」
「はあ? そんなの今日に決まってるじゃないですか! 何バカに…………あれ?」
どうやら鈍い彼女でも気付いたようだ。
「カイルさん。この日付、一ケ月前じゃないですか?」
世界とばかりに、俺は口の端を吊り上げた。
この誓約書の内容を簡単にまとめると。
『一ケ月前から、町の人に危害を加えたら、財産半分町の人に上げて』
となる。
「あとはこの誓約書を国に出すなり、いや、裏稼業の人間に売るのも一興かもな」
魔力のこもった誓約書は、文字通り『制約』になる。
「まあ、たとえ奴が約束を破っても、この制約書に掛けられた制約は、『トイレに行った後、必ずズボンの前がびしょびしょになってる』なんて可愛いもんだよ」
「地味に酷い制約! いえ、これって完全に呪いの類いですよね!」
「ん? ティンはちゃんと誓約書を読めっていったろ? それを承知してサインしたのはあの騎士殿だぞ」
シレッとした俺に対し、
「さ……詐欺師。ここに世紀の詐欺師がおりますですわよ!」
行儀悪く指さし、ティンが嬉しんだが怖がってるのか、良く分からない声を上げた。
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