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半径三〇センチぐらいの最強勇者  作者: 岸根 紅華
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10

改めまして、あけましておめでとうございます!

今年も(今年こそは?)良い年でありますように!

「…………さて、そろそろかな?」


 月の明りも流れる雲に隠された真夜中。

 懐かしいとも嫌なともつかない夢から目覚め、ぼんやりと覚醒する俺。

 目覚めはあまり良くないが、悪気もない。

 俺はむくりとベッドから体を起こすと、明りも持たずに部屋を出て隣の部屋をノックする。


「…………」


 返事がないのでもう一回。


「はあ。やっぱ寝てんのか…………!!」


 そう思った瞬間、カチャリと少々控えめな音を立て扉が開いた。

「遅いじゃないですかカイルさん。そろそろ起こしに行こうかと思ってたとこですよ!」


 寝ていたわけじゃないらしい。

 トーンは落としているが元気な声だ。


「さあ行きましょう!」


 ビシリッと明後日の方向に指を向けるティンティン。

 どうやら準備万端のようだ。

 俺たちは無言で頷き合い、ひっそりと騎士殿の泊まる部屋へと向かう。


開錠アンロック


 扉の前で、開錠の呪文を唱える。

 俺の半径三〇センチの魔法領域の中で、違和感なく使える魔法の一つだ。

 女神は俺に義賊にでもなれと言いたいのか?


 ガチャッ。


 天に向かって問い質しているうちに、扉の鍵が難なく開いた。


「…………カイルさん。天下の大盗賊の話、聞いたことあります?」


 隣のティンがポツリッと呟いた。

 どうやら似たようなことを考えていたらしい。

 だが俺は、あえてその言葉をスルーしてドアノブに手を掛けた。


 キイィィ。


 わずかな音を立てて扉が開いた。


「カイルさん。何も見えません!」


 なんのてらいも無く、堂々と言い放つティンティン。

 当然と言えば当然。

 部屋の中に灯りは無く、廊下にある蝋燭のわずかな光だけが、扉からわずかに入っているだけなのだ。


「ああそうだった。暗視ナイトビジョン


 俺は指先を彼女の額に向け、暗視の魔法を掛ける。


「うわぁぁぁぁ。こんな暗闇でも良く見えますぅ!」


 彼女の感嘆の声に、自分がちょっと使える魔法使いっぽ思えて嬉しい。


「……おしゃべりはここまでだ」

「はい!」


 元気よく、しかしこそこそと準備を始めるティン。

 その間に俺は部屋の中を確認。

 酒を飲んで、ベッドの上で泥酔している騎士殿。

 俺の部屋と大差ない作りだが、床には酒瓶やら何かの食べ残しやらが散乱し、雰囲気的には俺の部屋の方が広く感じた。

 もしかして、酒乱と言うやつなのだろうか?


 もう、態度や言葉使いも含め、『キング・オブ・ザME・I・WA・KU』を名乗っても良いんじゃないかこのおっさん。

 そんな旗でも作ってよあろうかと思うが、今は時間が無い。


「さて、起きるなよ」


 床に散らばるゴミを避けながら、俺は高イビキのするベットに到着。

 仰向けに寝ている彼を、そっとうつ伏せにしようとした。

 刹那。


「ぐろぉぉぉぉ。お、俺は偉いんらろ!」


 勝手なことをほざきながら、勝手にうつ伏せになる騎士殿。

 極力避けたい、おっさんとの接触を減らしてくれてありがとう。

 俺は心の中でお礼を言い、ソッと指先をおっさんの首筋に当て、


麻痺パラライズ


 背骨に沿って通る神経に麻痺の呪文を唱えた。

 

 知っている人も多いと思うが、人間は脳から神経に指示を出し四肢を動かす。

 だからもし、その指示する神経が麻痺してしまったらどうなる?

 

 俺はニヤリと口角を吊り上げ、

(後は任せた!)

 そのまま手振りだけでティンに丸投げ、俺は部屋の片隅に姿を消した。


「痛い、いたい、イタイ……」


 金色の髪を茶色のカツラで覆い、恨めしそうな声を上げるティン。


「んあ⁉ 誰だ? もしかしてどこぞの町娘が、夜這いにでも来たのか?」


「ずいぶん希望に満ちた願望だなおい!」


 彼の願望に思わずツッコんでしまうが。

 大丈夫。

 彼には気付かないどころか、体を起こしもしないで手首をクイクイと動かし手招きをした。

 

「ほんと、なんですかこの人! 予想を遥かに超えてダメ人間なんですけど!」


 やや声だかに愚痴る彼女に俺はウンウンと同意いするが、そのまま続行するよう手振りで促す。


「恨めしや……。馬に蹴られなければ、私は夫と息子と幸せに暮らせていたのに……」


 ティンが、さらに声を高ぶらせてベッドに眠る騎士殿の頬をソッと撫でた。


「ひっ! なんて冷たい……。お、お前は誰だ」


 やっとこの異常な事態に気付いたのか。

 騎士殿がベッドから飛び起き…………ようとした。

 が、


「ふっふがぁぁぁぁぁぁ!」


 頭を起こす勢いでバランスを崩し、ドスンッと床に転がり込む。

 そこに追い打ちを掛けるように、


「ああ。ああ。なぜ私は死んでしまったの? 私は何も悪いことなどしていないのに!」


 感極まったティンティンが胸に手を当て、叫びながら騎士殿に視線を向ける。


「お、お前、本当に、誰だ?」


 昼間のことを忘れてしまったのか?

 それとも本当に些細なことだと、思ってるのか?

 己の馬で怪我をさせた国民を、舐めてるのか?


「あ、あなた! 昼間、あなたの馬が蹴った人を忘れたって言うんですか!」


 同じことを思ったのだろう。

 ティンが騎士殿の胸ぐらをつかみ、グワングワンと揺さぶる。


「ぐはっ! なにをしているのだ! 私はこの国の近衛騎士……」


「そんなの関係あるか! いや、関係大有りだ! あんたは、近衛騎士であるあんたは、最も守るべき国民を殺したんですよ! あんたはそれが普通で、たいしたことじゃないって言うんですか!」

 

 せっかく念入りに打ち合わせをしたのに、彼女は自分の心の内を吐露した。

 が、


「何を言っている! 国民は王のために存在する! だから王のために働く俺はなにをしても……」

「ふざけんな!」


 バキッ!


 止める間もなく、いや、止めるつもりもないが、彼女の拳は騎士殿の頬を殴っていた。


「ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな! 私たちはあんたらの家畜じゃない!」


 この瞬間。

「あんた、呪われてるから、この護符買え」作戦は終了した。

 だがきっと、彼女に悔いはないはずだ。

 もちろん俺にもだ。

 だから次の作戦に移ることにした。


「おい!」


 小声で合図を送ると、我を忘れていた彼女はハッとなりこちらに視線を向けた。

 クィッと顎で促すと、作戦が失敗したことを悟ったのだろう。

 彼女は悔しそうに顔を歪めながらも、忍び足で部屋を出た。


「おい、誰かいるのか⁉ このくせも……が!!」


 俺はがなり散らすおっさんに向け、足元に転がる酒瓶を放り投げる。

 酒瓶は放物線を描いて、トドのように横たわるおっさんの頭部を直撃。

 よし。

 これで次の作戦の第一段階は終了した。

 俺は無理やりそう思い込むことにし、暗い部屋からそっと退出した。

最後までお読みいただきありがとうございます!

作者は明日、初詣に行く予定です・・・・・・。

賽銭とブクマや評価をかけたいのですが、なにも思いつきません。

なにで、賽銭は置いといて、ブクマ、評価、あと感想もお願いします。

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