9:閑話
あけましておめでとうございます!
今年は、今年こそは、良い年でありますように!
なのに結構暗めな閑話を投稿する作者。
決してグロくはないですが人の生き死にが出るので、
苦手な人、正月早々水を差されたくない人はスルーしてください。
ゴーン。ゴーン。
教会の鐘が悲しそうに響く。
分かってる。
これは、この夢は、いつものアレだ。
祭壇にあるのは、二つの棺桶。
いまじゃ、ろくに顔も思い出せない両親のものだ。
二人の死因は『治療中に魔物が襲ってきて、患者を庇って二人とも……』だった。
端から聞けば美談だろう。
でも、
それでも、
一〇歳の子供を残して逝った彼らを、俺は褒める気にも誇る気にもはなれなかった。
「カールとベネッサ。二人は良き隣人で良き…………」
視線の先では教会の神父さんが耳触りの良いことを言い、それに嗚咽を漏らす村の人々。
それが俺には、茶番に見えた。
だって。
いやだ、いやだ、いやだ。
心の中で叫ぶ。
日頃の行いが良いから、二人は早く天に召されたなんて嘘だ。
俺はもっと、一緒にいたかった。
酒飲みの親父も、口うるさい母親でも、
バカみたいに笑う二人に、もっと、もっと……。
「う……。うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
たまらず俺は、隣にいた人の静止を振り払い祭壇に駆け上がる。
ここで終わるなんて。
もう、二人に合えないなんて。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
自分でも予想以上の声が出たと思う。
でも、それで天国にいる両親に声が届くのなら。
俺が心配で、戻ってきてくれるのなら。
叶えられないだろう希望にすがり、俺は棺桶にすがって泣きわめく。
泣き腫らし、厚ぼったくなった目蓋で、
鼻水が流れ落ちる惨めな顔で、
俺はみっともなく泣き続けた。
そんな俺の肩を、ポンッと軽く手が置かれた。
見れば、さっきまでなんか良いこと喋っていた神父様だった。
葬儀の邪魔だろう俺は、当然どかされると思った。
のだが、
「ああ。ああ。彼、彼女は幸せだったのでしょう。こんなにも自分の息子に愛されていたのですから……」
何いってんのこいつ?
思わず泣くのをやめ、キョトンと神父を見つめる俺に、
「おお神よ。カールとベネッサは、我が子に愛情を注ぎ、我が子も彼らに愛情を注ぎました。だからそれが涙となって流れる。さあ、心行くまでお泣きなさい。与えられた愛と、与えた愛の分まで……」
そう言って神父様は、自分の胸元で手を組み、天に向かって瞳を閉じた。
なんとなくだが許された気がした。
ああ。
俺は今、泣いて良いんだ。っと……。
その後のことは、正直良く覚えて無い。
目覚めた時には教会の簡素なベッドの上にいて、横には神父様が座ってて。
「おはようございます」
なんて笑顔で声を掛けられた。
俺は大声で泣いてたこととか思い出し、恥ずかしくて視線を外して頷くだけだったが、
「さてカイル。君にはやらなければいけないことがあります」
いたわるでもなく、同情するでもない神父様に、思わずキョトンとする俺。
そんな俺に、神父様はちょっとだけ悪戯っぽく笑い。
「あなたはこれから生き続け、立派な人間になるのです。それはもう、両親が自慢できるような。近くで見られなくて悔しい! と思うような立派な人間に」
「立派な人間?」
戸惑う俺に、神父様は続ける。
「そうです。彼らが『こんなに早く死ぬんじゃなかった!』っと悔しがるほど立派になれば、彼らは天国で、いつまでも君を見守っていてくれるでしょう?」
そう言って笑う神父様を、俺は思わず視線を向けるが、彼の姿はぼやけていた。
あれだけ泣いたから、もう涙は枯れたと思っていたのだが、そうではなかった。
胸に落ちたこの感情は、なんて言えばよかったのだろう?
「ゆっくりでいいです。つまずいても、転んでも良いです。でも、真っ直ぐ前を向き、誰にも恥じない生き方を心がけていれば……」
そんなぼやける視線の中、神父様は優しく俺の頭を撫でる。
なあ父さん母さん。
今の俺は、二人みたいに人を救えてるかな?
二人が胸を張って誇れる、自慢の息子になってるかな?
夢の中の二人は何も言わず、ただにこりと微笑むだけだった…………。
最後までお読みいただきありがとうございます!
作者の今年の目標は、ブクマ五〇です!
よろしくお願いします。
また、御用と急ぎでない方は、評価や感想などいただけると嬉しいです。
前書きにも書きましたが、今年は良い年でありますように。




