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半径三〇センチぐらいの最強勇者  作者: 岸根 紅華
25/54

ブクマ三〇越え記念です。

「くっ、出血が止まらない。透視…………」


 額から流れる出血が酷く俺は出血元を透視で探すが、さらに厄介なものを見つけてしまった。


「……くそっ! 脳内に血だまりが出来てる!」


 これは結構、かなりマズイ。

 裂けた血管から流れ出す血が、彼女の脳を圧迫しているのだ。

 彼女の頭、頭蓋骨に穴を開け、血を抜かなければならない。

 厄介な手術だ。

 しかも内出血をこれ以上酷くさせないため、動かせない。


「いやいや、清潔感のせの字も無いここじゃ無理だろ? せめて砂埃だけでも防げれば……」


 ぼやきながらも、母親の傷口に浄化の魔法を掛け続ける。

 俺の魔力量なら一日掛け続けても問題ないが、それじゃ他の治療が出来ないし、彼女の容体は悪化する。

 

 この世界ではあまり知られてないが、空気中、特に砂埃とかには数えきれない菌が存在している。

 俺も初めは「まかさ!」と思っていたのだが、最大の拡大ズームの魔法で見た限り、空気中には悪い菌がウヨウヨいることを知っていた。

 今この場所では、町の人々と王国騎士様らが騒いでいる。

 いろんな意味で危険な状態だ。

 

『どこかの部屋に移動して、治療をするか?』


 無理だ。

 彼女の状態は動かすのは危険だし、さっさと治療を始めなけりゃ手遅れになる。

 だが、ここに今すぐ無菌室を作るなんて不可能だ。

 そんな絶望的な状況に、


「え? 誰にも攻撃できない状況を作ればいいんですか? それなら簡単です。『絶対結界!』ほら、ここなら敵意のある人間も入ってこれませんよ!」

「な? なあぁぁぁぁぁ!」


 俺の絶叫がティンの結界の中で響いた。


 だがそれも一瞬。

 驚愕に目を見開きながらも、俺はすぐさま周囲を拡大ズームで確認。

 天井にまで張り巡らされているガラスのように透き通る結界。

 しかもこの結界。

 地面の上まで覆っている。


「これが私の必殺技『絶対結界』です。地上からの攻撃だけでなく、上空からも地中からも中級の魔物程度の攻撃なら傷一つ付かない優れものです!」


 自信満々に胸を張るティン。

 いつもなら調子に乗るなと一発お見舞いしてやろるのだが、

 これなら確かに……。


「きさま! 騎士を愚弄するつもりか!」


 希望を見い出した俺の耳朶に、野太い声が響く。

 道を開けろと言ったのに町民に邪魔され、さらに結界を張られ、プライドを大きく傷つけられた騎士様が剣を抜いて斬りかかっている。

 が、結界内部には振動の一つも伝わってこない。


「確かに砂埃も舞わないし、外部からの接触も遮断できてる」


 思わず俺が感嘆の言葉を呟くと、


「えへへ! 凄いですか? 天才ですか? でもでも、さらにこんなこともできちゃいます! 浄化クリーン


 調子づいた彼女は、さらに魔力を放出。

 力ある言葉で、結界内にある空気中の微細な雑菌まで取り除かれた。

 彼女の聖域《絶対領域》は、理想に近い治療室だった。


「カイルさん! 私ってば……え⁉」


 さらに自画自賛しようとする彼女を遮り、俺はギュッと彼女の肩をつかんだ。

 

「ああ。ああ。凄い。凄いぞ! こんな完璧な治療室、。見たことが無い!」


「へ? あの……ちょっと……近い……」


 突然の称賛に戸惑うティン。

 顔はもちろん耳まで赤くなっているので、予想以上に褒めてしまったのかもしれない。

 だが俺にとって、それぐらい凄いことだったのだ。


「これならいける」


 まだなんか言いたそうな彼女から手を放すと、患者である母親に体を向け、


「さあ、これからは俺の出番だ」


 気合を入れるための独語を吐き、俺は治療すべき患者に視線を向けた。


皆様のブクマのおかげで、作者の肩こり腰痛が緩和されました。

しかし、昨日酔って寝たので首を寝違いました。

出来れば寝違いに効く評価をツボを押してもらえると助かります。

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