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半径三〇センチぐらいの最強勇者  作者: 岸根 紅華
20/54

三章:1お前ら雑過ぎんだよ!

三章入りました!


「おいおい、なんだこりゃ?」


 城塞都市グラナダに向け旅を進めて早や八日。

 俺たちは予定通り、アルタとグラナダのほぼ中間にあるトレントの町に着いた……のだが。


「うわぁぁぁ。これは酷いですね」


 俺の感想を肯定するティンティンの呟き。

 目の前に広がるのは、破壊された家屋とうめき声を上げる怪我人の山、山、山。

 

「…………」


 俺は説明を求めるように、無言でティンティンを睨みつけるが、


「私だって知りませんよ! なんでカイルさんが私のせいみたいな視線を向けてるんだかも分かりませんよ!」

「いやなんかお前なら『怪我人集めときました!』なんて言うかなって……」

「あんた、私をどういう目で見てんですか! いや、分かりましから! そんな可哀そうな捨て猫見る目で見ないで下さい!」


 どうやら彼女は何も知らないらしい。


「なら、他の誰かに聞かなきゃ分からんな」


 物凄く当たり前のことを囁き、近くの瓦礫のそばで怪我人に包帯を巻いてる女性……は緊張するので、さらに隣の荷物を運んでいるおっさんに声を掛けることにした。


 ちなみにティンティンは初対面がああだったから、人見知りするのを忘れていた、ある意味稀有な存在なのでノーカンだ。


「んん? なんか、バカにされたような……それでも褒められてるような気配がします!」


 聖女候補と言うのは、勘も優れているのか?

 とにかく、人見知りな俺でも人に声ぐらい掛けられる……はず!

 意を決した口を開く。

 が、


「あの……」

「ああ? あんだ? 今忙しんだ!」

「はい、すみません……」


 会話終了。


 これは俺が人見知りとかコミュ症とかの問題じゃない。

 この町全体がピリピリしてるから話づらいんだ。


 自分の町がこんなになっているのだから、ピリピリしてるのは当然と言えば当然。

 だがそんな彼らに対し、俺は無策では無かった。

 それは、


「お医者さんはどこだい! 娘が、娘が大変なんだよ!」


 耳を澄ませば、意外と早く現れた救世主《説明してくれそうな人》。

 瓦礫をどかすおっさんを押しのけ、おかみさんと呼ぶのに相応しい恰幅の良いおばさんが現れた。


 こんなこと言うと不謹慎だが。

 彼らが困っているのなら、それを助けて情報を聞き出せばいいのだ。


「ちょっといいですか? 俺は前の町で医者をしていました。患者さんはどこに? どんな症状ですか?」

「ああ……あんたお医者さんかい? 娘が、勇者様と魔物との戦いに巻き込まれ傷を負っちまって、傷の程度は大したこと無かったんだけど、傷口が……それに今朝から高熱が…………」

「娘さんは今どこに? 案内して下さい!」


 この町の惨状とか、なんで子供が勇者の戦いに巻き込まれたのか、聞きたいことは山ほどあるが、とにかく今は患者を優先した。



「こっちだよ!」


 俺はドスドスと走るおかみさんに早足で付いて行きながら、過去の症例に似たものが無いか頭の中で探した。


「ここだよ! この一階の奥の部屋に」


 おかみさんに連れてこられたのは宿屋。

 どうやらこの人、ホントに宿のおかみさんだったらしい。

 そんなこと思いながら、足早に促された部屋へと向かう。


「あんた! お医者さん! お医者さん連れてきたよ!」


 おかみさんが乱暴にドアを開けた。

 そこは掃除の行き届いた清潔感のある部屋の奥で、ベッドに眠る幼い娘。

 ベッドの横には、心配で眉間のしわが深くなってるごついおっさん。

 そのおっさんは俺をギッと睨むと。


「そんなナヨナヨした奴に、娘を任せられか!」

 

 いきなり罵声を浴びせてきた。

 さすがにカチンッときた俺は、


「別に嫌ならいいですよ。他の患者さんの治療しますから……。行くぞ」


 そう言い放ち、今まで無言で付いてきたティンティンに声を掛け、クルリと踵を返そうとする。

 その俺の肩を、


 ガッシ!


 っと力強い腕が止めた。

 そして、


「何言ってんだいあんた? 私が見つけてきた医者が気に入らないとでも言うのかい?」


 おっさんを睨みつけるおかみさん。

 ついでとばかりに、俺の肩をつかんだ腕にギリギリと音が出るほど力がこもる。

 俺の肩、とても痛いです。

 誰もが動けない部屋の片隅に、サササッと影が走った。


 大人しいく付いてくるなと思っていたティンティンだ。

 彼女は無言でベッドに駆け寄り、少女の顔色を確認。

 次いでソッと毛布をはぎ、手や首周りを調べた。


「意識が無い上に脈が速く、熱もあります。早く手当てしないと……」

「おい、娘になにをする!」


 ティンティンの声が、ビリビリと空気を震わす大声に掻き消される。

 しかし彼女は酷く冷静な声で、


「あなたは、自分のお子さんが苦しんでいる時に、猜疑に満ちた怒りを撒き散らすだけで、差し伸べらた救いの手を払いのけるのですか?」


 大声で言い返したわけじゃない。

 ただ聖歌でも歌うような澄んだ声音に、おっさんは彼女の倍はあろうかという巨体を怯ませた。


「今は一刻を争うんです。もし私たちがお子さんを助けられないようなヤブだと判断したら、その時のあなたの怒りは私が受けます」


 凄い。

 なにが凄いのかと言うと、ティンティンがまるで聖女様みたいなことを言ってるからだ。


「これでも聖女候補です!」


 そんなことを思っていたからか? グルンッと勢い良く首を曲げたティンティンに睨まれた。

 どうやら心を読まれたようだ。

 未聖女恐るべし。


「まあ、まだ言いたいことありますけど、カイルさん。この子を見てあげて下さい」


『なんでいきなり聖女らしいんですか』とか『キャラ変わってませんか?』とか。

 俺にも聞きたいことは山ほどあるが、確かに今は患者優先。


「……悪かった、気が立っていて……お、お願いだ。娘を助けてくれ……下さい」


 彼女の剣幕に押されたのか。

 おっさんも素直に頭を下げた。

 そこまでされると、つまらない意地を張り続けられない。

 俺は一礼して患者に歩み寄る。


「患者の容体は?」

「はい。発熱と右腕に中度の裂傷です」


 茶化さずボケず。


 ケガ人や病人に真摯に対応する彼女。

 しかも、旅の道中で俺が片手間で教えた異世界の知識も吸収している。

 正直、治療師にとってこれ以上の才能は無いと思う。

 まあ、調子に乗るから面と向かって褒めはしないが…………。


 とにかく、患者である少女の病状は判明した。


「恐らく傷口から菌が入る感染症だと思う。すぐに治療を開始するぞ」

「はい!」


 性格以外は優秀な彼女は、俺の言葉に異を唱えることなく素直に治療の準備を始める。


 少女の病気は感染症。

 いろんな媒体から体内に入った細菌が、体中で悪いことを引き起こし、最悪死に至らしめる病気だ。

 彼女の症状を見ると、傷から魔物が持つ細菌が入ったのだと考えられる。


 感染症の治療は、言うだけなら凄く簡単。

 我が物顔で血液に乗って循環する細菌を、除去すればいい。

 本当に、言うだけなら簡単だろ?

 とにかく俺は、少女の体をくまなく透視スキャン

 薄布一枚の寝巻き越しなのだが、透視を使うと血液の循環しか見えない。


 透視を始めて数分、やはり血液中にかなりの細菌が見えた。

 それは肉眼では見えないが、少女の血管を通して体中を駆け巡っていた。


 肉眼では見えない細菌が相手。


 ここまで広がっていると、かなり厄介だが俺は少女の体から目を放さない。

 必要以上に血液の流れを見る。

 っと言うもの、細菌と言うのは血液中に紛れているが均一に混ざっている訳じゃない。

 だから…………。


「見つけた! ティン!」

「はい!」


 俺の声に、すかさず俺に白く清潔な布を手渡すティンティン。


「テレポート!」


 力ある言葉と同時に、布越しの右手にはぬるりっとした生暖かい感触。


 そう。

 俺は透視で見つけた血管を流れる細菌の塊を、血液ごと自分の手に瞬間移動させたのだ。

 感染の恐れがあるので布に沁み込ませた血は、すぐにティンティンが設置してくれた足元のゴミ箱に。


「次!」

「はい!」


 そしてすぐに新しい布が手渡される。


 後はもう、流れ作業と言うか数をこなすだけ。

 もちろん、相応に神経を擦り減らす作業に変わりないんだが、俺は黙々と作業を進めた。

ブクマや評価が増えるのは当然ありがたいですが、ユニークユーザー様が増えるのも嬉しいですね。

ちなみに、ブクマと評価は常時受け付け中です!

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