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半径三〇センチぐらいの最強勇者  作者: 岸根 紅華
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本編です。

「と言うわけで私と勇者様と一緒に、グラナダにレッツらゴーです!」

「うん。なにがと言うわけなんだか分からないし、そのテンションの高い声がビミョウ~にイラつくから殴っても良い?」


 あの後、俺は間借りしている家の居間で一息つこうとしたのだが、そこになぜかティンティンがズカズカと乱入していた。


 しかも、勝手知らない他人の家のはずなのにお茶を淹れ(しかも自分の分だけ!)小さな円卓で茶菓子を貪り、くつろいでいた。

 もう、いいかげん本当にこいつは殴っていいと思う。


「その訳を聞きたいですか?」


 俺の批難めいた視線を無視し、ズズズッと家の中で一番良いお茶をすすりながら、満足げなドヤ顔を向けるティンティン。


(よし、話を聞いたらこいつを蹴っ飛ばして追い出そう!)


 そう心に決めた俺は、自分で淹れたお茶を一口飲んで続きを促した。


「それでは、物語の始まりは、一四年前に遡ります。寒い寒い雪の降る夜。汚くてみすぼらしい教会に、一人の可愛い、可愛い、可愛い、可愛い赤ちゃんが……」

「もしかしてお前の誕生から⁉ その話、何時間ぐらいかかるんだ?」

「はい、第一章:可愛らしい天使がゴミための教会に舞い降りた。は二時間十分です。間に一〇分の休憩をはさんで、第二章:天使の躍動が、三時か…………げふっ!」


 決意したのも束の間。

 どうやら無意識のうちに、堪忍袋の緒が切れたようだ。

 俺は無自覚の内に、彼女の横っ腹にローキックを叩きこんでいた。

 その後に、『こいつはさっきまで重傷な患者だった!』なんて思い出すが……。


「何をするんですか! 物語は最初から聞かないと意味が分からなく……」


 キャンキャンと叫ぶ彼女を見て、心配は無用と確信した。

 だから、


「俺、疲れてるから。お前の無駄話、一分でも苦痛だから!」


 痛みのため脇腹を押さえ床に転がり回る、ティンティンの批難めいた視線に対し、午後から働き詰で、ストレスこんもりの俺は絶対零度視線で見下ろした。


「あの……さっきから思ってたんですけど、カイルさんは女の子に対して、かなり攻撃的だと思うんですけど?」

「……気のせいだ。俺はちゃんとした女の子にはちゃんと優しい。だからお前は特別だ。嬉しいだろ?」

「そうなんですか! 私が特別! 神に愛された美少女だから、カイルさんは特別な待遇を……いやいや、なんかおかしいですよね? 特別の意味が違いますよね?」

「ちっ、バカの癖に、気付きやがった」

「まさかの舌打ち⁉ しかもバカって言った! 今カイルさん、私のことバカって言いましたよね!」

 

 ティンティンが俺の呟きを耳ざとくすくい取り、ギャーギャーと騒ぎ出す。

 本当に今日は疲れたから、もう寝たいのだが……。


「女神の使徒である聖女になんたる暴言。これは女神の許しを請うためにも有無を言わせずさっさとグラナダに向かうため、勇者を紹介して下さい!」


 手術の痛みはどこへやら。

 疲れて座り込む俺を、元気よくグイグイと引っ張り立たそうとする彼女。

 すかさずその手をベシッとはたき落とした。


「何するんですか!」

「それは俺の台詞だバカ。例え外見が美少女でも、訳の分からない頭空っぽい奴にほいほい勇者を紹介するバカがどこにいる?」

「…………」

「黙って俺を見るな!」

「勇者を知ってる普通の人なら喜んで紹介しるでしょ? あと、単純バカな人」

「だからそこで俺を見るな!」


 疲れる。

 この未聖女とからむと、俺の体力と精神がごっそり奪われていく気がする。

 いや、実際心底疲れてます。


「とにかく、まずは理由を話せ。多分、この町で勇者言えば俺だが、ほぼ行く気は無いが、治療の手伝い料として、とりあえず話だけは聞く」


 このまま不当な話し合いを続けると、俺の生命力が無くなるのでグラナダに行く説明を聞こうとするが、


「えっ⁉ あなたが勇者……様……」


 突然の俺の告白に、思わずと言った感じで口元を押さえるティンティン。

 自分でも突然だとは思うのだが。

 いやだって、これまでの流れで俺が勇者候補っだったなんて言う暇なかったじゃん!

 そんな俺の言い訳を余所に、


「まさか……私の初めてを捧げた相手が……勇者様だなんて……」

「おい、大丈夫か?」


 不穏な台詞を吐き、立ち尽す彼女に思わず声を掛けるが、


「……分かりました! 私、あなたと結婚します!」

「はあぁぁぁぁぁぁ?」


 訳の分からない彼女の宣言に負けないぐらいの絶叫が響いた。


ブックマークが二〇超えたので、今夜もう一話更新します!

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