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意図的に隠してた、二人目のヒロインの名前がついに明らかに!
「凄いです、完璧です、コングラッチレーションです!」
なんとか右足の治療も終えた疲労困憊の俺に、未聖女が意味不明の言葉を吐きつつ駆け寄ってきた。
耳元で叫ばれるのはかなりウザいが、
「うん? 確か治療始めたのって、昼間だったよな?」
気が付けば、あたりは真っ暗。
遠くでフクロウなんかが鳴いているから、結構な時間かも知れない。
視線を巡らせれば、あちらこちらに思いのままで寝ている自警団の野郎たち。
ちなみに、大声で手術の成功を叫んだ未聖女の口元には、くっきりとヨダレの後を確認していた。
そんな風に、ジッと見ていたのが悪かったのか?
「なんですか! 無視ですか! 聖女候補であり美少女の私がこんなに喜んでるんですよ。ドサクサに紛れて少しぐらい手を握っても良いんですよ? 肩に手を置いても良いんですよ? でもごめんなさい。私一応聖女候補なので、勇者以外とは付き合えないんです。ごめんなさい」
「おい、なんで俺が振られたみたいになってんだよ!」
なんだか不機嫌な未聖女。
ホントにこいつは、一発殴ってもいいんじゃないかと思う。
「それにしてもあなた。本当にすごいですね。口も態度も悪いし目はなんか死んだ魚のような半眼だし、しかも、使うのはあんなショボイ魔法だけで、あの大怪我を……あれ? なんですか? なんでそんな怖い目で……ふぎゅあ!」
誰か、ほぼ初対面でこれだけ失礼な上に、空気の読めない未聖女で元患者を、グーで殴らなかった俺を褒めて欲しい。
まあ、こいつのほっぺは今まさに俺によって、限界まで左右に引っ張られているがな。
「はなひへ! ひふもひょになるから、はなひへ!」
「『放して! 傷物になるから、放して!』なんて言ってるとか分からないな?」
「わひゃってるひゃないれふか!」(分かってるじゃないですか!)
「うんうん、なにも分からない。それに俺の怒りが収まるまで、この手は放さないと神様に誓ったんだ!」
「ひょんなのかみみちかわにゃいでくにゃひゃい!」(そんなの神に誓わないで下さい!)
にこやかに爽やかに、さらに指に力を入れる俺と、引き剥がすと自滅することを知って強行できない彼女との攻防は、この後十数分続いた。
「で、未聖女さんはなんでここに来たんだ?」
患者の容体が安定したのを確認しつつ、いまだ俺の診療所に居続ける珍客に仕方なくお茶なんか出している。
俺はとても良い人だと思う。
まあ、面白がって頬を伸ばした結果。
ヒリヒリと音が聞こえそうなほど膨れ上がった頬なんて……ちょっとしか悪いと思って無いだから!
「それはですね……あれ? お茶菓子は出ないんですか? 私、王都で流行のシュークリームが食べ……いひゃひゃひゃひゃひゃ! ごめんなひゃい! もういいまひぇん!」
懺悔はしたが公開をしてない俺が、再び頬をつかみ吊り上げようとすると、彼女が涙目で地べたに膝を折って座り、両手をついて頭を垂れた。
東の国の伝統的謝罪。
Do Ge Zaだ。
治療を手伝わせておいでなんだが、本当にこいつはさっきまで重傷だったのかと思うほどしなやかに体が動く。
「まあいいや、それより未聖女。ここに来た理由を聞きたいんだが?」
「未聖女って……いえ、話が進みませんね。でも……その前に聞くことあるんじゃないですか?」
怪訝そうに俺を見上げる彼女。
他に何か聞くことなんてあったっけか?
「……いや、無いな」
一応真面目に考えた。
でも、本当は名前を聞いてないと気付いているのだが、疲労がピークを越えた俺は、なんだか途中で面倒臭くなったので思考を放棄。
にこやかに彼女に言い放った。
それに対し彼女は、
「な!? な⁉ な⁉ 何も無いんですか!」
土下座から無駄のない動きで立ち上がると、ぐわっと俺の胸ぐらをつかんできた。
「聞くこといっぱいあるでしょ! スリーサイズとか、彼氏の有無とか、好みの男性のタイプとか!」
「いやいや、まずはなんで名前を聞かれないのかを不思議に思わないか?」
思わず答えてしまった俺を、
「こほん。初めまして、私は王都からこの町にいると言う勇者を探しに来ました。スリーサイズは上から八九、五八、八八。好みのタイプは、この町の勇者様です」
思い切り俺の質問をスルーしやがった。
「肝心の名前をまだ聞いていないのですが?」
なので、思わず真面目に反してしまった、のだが。
「うっ……うわあああああん! 年頃の女の子にそんなこと言わせるなんて、あなた鬼です! 悪魔です!」
「え? ええ! 名前聞くのって、そんなに不味いことなのか⁉」
「はい、エロです! セクハラです! パンデミックです!」
「うん、お前の頭が残念なこと以外、全然意味が分からないんだが?」
俺の声も聞こえているのか?
一人パンデミックを実行する彼女に問う。
「じゃあ、何しに来たんだ未聖女様は?」
「あなた失礼ですね。初対面の人に名も聞かないなんて、その年になって礼儀も知らないのですか?」
「だから自分の名を名乗らない奴に、失礼って言われたくなんだけど⁉」
ホント、面倒臭い奴に捕まったと後悔しかしてないジト目の俺を、未聖女様はぐぬぬと親の仇を見るみたいに睨んできた。
本当に面倒臭くなってきたので、
「いや、もうここに来た理由とか名前とかどうでも良いんで、さっさと帰って下さい」
「ええ!? 引っ張るだけ引っ張といて放置するんですか!」
「もうお願いだから帰って下さい」
すでにかかわり合いたくない度マックスなので、殴り倒したいのを我慢して頭をたれた俺に、
「……分かりました。そんなに私の名を知りたいのなら教えて差し上げます」
まったくとんちきな応答をする未聖女。
だが次の瞬間、
「私の……名は……ティンティン……です」
とんでもなく言葉が彼女から飛び出た。
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