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「さて、次は……」
彼女の呼吸が安定したのを確認し、俺はもう一人の重傷者に向き直った。
「まずは右足の複雑骨折か」
局部透視で確認すれば、彼女の治癒呪文のおかげか出血は収まっているが、やはり患部の骨は粉々に砕け散っていた。
血は止まっているとは言え、出血した血は患部に残っている。
「普通なら右足を切断して終わりの手術だ。だが俺はこれを完全に治してやる。報酬は一〇〇〇ゴールドだ」
彼女の手術の息苦しさから、気持ちを切り替えようと言った俺の冗談なのだが、
「そ、そんな大金……」
誰に聞かせるでもない呟きは近くで見守っていた一人に聞こえてしまい、彼らは提示した金額に目を見開いた。
これだけ素直に驚愕されるとは……ちょっと面白いが。
「いやいや、冗……」
「……そうだな。こいつの怪我の具合を見れば分かる。もしこいつの怪我が本当に治るってんなら、一〇〇〇ゴールドが、一〇〇〇〇ゴールドだって安い。おいカイル! これは手付金だ。残りは後でちゃんと払うから、こいつの、こいつの体を完全に治してやってくれ!」
涙ぐみながらに行ったおっさんが、懐から出した革袋を机に叩きつけるように置く。
「ああ、そうだな、なら俺も!」
「もちろん俺も!」
「え? ええ? ちょ、ちょま、ちょま!」
驚き過ぎて声もろくに出せない俺の目の前に、次々と積み上げられる金貨の入った革袋。
真剣な男達の視線にさらされ、とても冗談だなんて言える状況ではなかった。
なので、
(…………よし。今は彼の治療に専念しよう)
俺は思考を一時止め、治療に専念した。
「内臓の出血は見られない。問題は右腕と右足の骨折だけだな」
歴代の勇者一多い魔力を惜しみなく使い、彼の全身を透視して傷の有無を確認していく。
魔法を使いながらふと思う。
『透視の魔法って最強だよね!』っと。
好きなあの娘の生まれたままの姿を! って勝ち組の気分になるよね?
でも現実は甘く無かった。
確かに透視は使える魔法なのだが、なぜかこの呪文だけなぜかレベルが高すぎるのだ。
結果。
この呪文は服だけ透視すること無く、皮膚までも透視ししやがる。
当然、俺に見えるのは骨と筋肉、体内にある脂肪や血管、神経組織だけ。
これはなんだ?
『なんでこの魔法にだけ特別な力が働いているんだ?』
そう思えるほどの偏りぶりである。
そんな悲しい思いはこの際置いておいて、
「さすがこんなに骨が砕け散ってたら、どんな聖女様だってお手上げだよな」
透視で見えたパズルのように砕けた骨を見て一人ごちた。
正直無理だと言いたい。
「特に右足が酷い、両方同時になんて今の俺じゃ無理だし、せめて出血を押さえられるような助手的な…………ん?」
悩める俺の背後から視線を感じた。
チラリッと視線だけで確認……うん。どうやら使えそうだ。
「おいそこの聖女未満! 初級の治癒魔法は使えるんだろ? 目が覚めてんならちょっと手伝え!」
俺は横で寝ていた元患者に声を掛けた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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これからもがんばります。