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ギルド長、ウサギを面接する

「は?」


 執務室で書類相手ににらめっこしていた時だった。

 一人の受付嬢が失礼しますと入ってきた。

 急ぎの用以外でこの部屋に来ることは無いので余程イレギュラーがあったのだろう。

 目頭を揉んで、老人は視線を受付嬢に向けた。


 白くなった髪と伸び過ぎて口髭と顎髭がくっついてしまった立派な白髭。

 緩いウェーブのかかった髪が視線を受付嬢に向けると同時に揺れ動く。

 正直、モンスターパレードが起こったと言われてもそうか、と冷静に返す心構えがあった。


 しかし受付嬢が告げた言葉は、「先程ウサギが冒険者登録に来たので新規受け付けを行いました所、筆記試験満点合格、実技試験S級冒険者クロウ撃退で面接となりましたので時間を開けて面接の準備をお願いします」とのことだ。

 あまりに荒唐無稽過ぎて開いた口からでた言葉が先程の言葉である。


「ちょ、ちょっと疲れとるのかな。冒険者登録に誰が来たって?」


 ちょっと落ち着こう。目頭を揉んでふぅっと息を吐く。


「ウサギです」


「……ウサギ。という名前の女性かな?」


「いえ、動物のウサギです。種族はサイキック・ラビット」


「……え、本気でウサギ?」


「はい。ウサギですがなにか?」


 しばし、二人して押し黙る。

 目の前に居るのは新人冒険者にしっかりとしたケアを出来るベテラン受付嬢のはずだ。

 流石に冗談を言える存在だとは思えない。


「ウサギが、満点突破にS級冒険者撃退?」


「正確には油断したクロウさんを玉殺しで粉砕しました」


「何それ怖い」


 どんな兎だよ。と思うが、意思疎通が可能であるらしいことは確かなのだろう。

 これから面接を行わなければならないらしい。ウサギ相手に質問をするのだ。


「会話は、可能かね?」


「筆談となるかと思います」


「……そうか」


 流石に人語を喋ることは不可能らしい。

 一先ず覚悟をしながら切りのいい場所まで書類を処理すると、面接場所を告げて席を立つ。

 受付嬢は対象者を迎えに行き、ギルド長は応接間へと向かった。


 応接間の椅子に座りしばし時を過ごしていると、呼ばれた冒険者がやってくる。

 おや? 女の子?

 受付嬢曰く、こちらのお嬢さんがウサギをパーティーメンバーとして登録するために新規登録にやってきたのだそうだ。

 ウサギの事をダーリンとか呼んでいるし、余程ウサギが好きなんだろう。

 一先ず彼女の逆鱗に触れないように適当にウサギを褒めておく。

 するとそれだけで彼女は自慢のダーリンなんですぅ。と狂喜乱舞だ。


 一応公平を期すためにウサギと自分だけを残し、お嬢さんには受付嬢と一緒に退去してもらう。

 そして部屋には椅子に座るギルド長と机に二足で立つウサギだけが残される。

 ウサギは何をするでもなくギルド長を赤い瞳で見つめ、ギルド長もウサギの力を見極めんとじぃっと見つめる。


「さて、ギルドに登録したいとのことだが……」


 羊皮紙とペンを取り出し机に並べる。

 ウサギ用の返答方法を筆談にして、自分が質問することにしたのだ。

 すると、ウサギは早速ペンを持って何かを書く。

 右端に『はい』、左端に『いいえ』と書くと、満足したようにペンを置いた。


 なんだそれは?

 ま、まぁいい。動物のやることにいちいち訝しんでも時間の無駄だ。

 一応の面接事項についてはマニュアルが存在している。

 なので上から順に聞いて行く。


 Sランク冒険者を倒したことでSランクから始めることも出来るがどうする? そう告げると、場所を移動する。左端にちょこんと佇むウサギに、ようやく意図が理解出来た。

 これは簡易の返答だ。

 自身が『はい』、『いいえ』に移動することで質問の返答を簡易化、そしてギルド長に分かりやすく配慮しているのだ。


 なるほど、確かに頭の回るウサギだ。そう得心いって顎髭をさすったギルド長は、次の質問に向かう。

 Sランクを名乗る気が無いのならFランクからの開始になるが問題は無いか?

 すると今度は『はい』に移動する。

 どうやら目立ちたがり屋とかではないようだ。


 Fランクから始まることを告げて次の質問へ。

 無数の質問を答えられる質問は『はい』か『いいえ』で答え、それだけでは答えられない質問は汚いミミズ文字で返答する。

 これはこれで見辛いがしっかりと文字になっているので一応相手の意図が理解出来る。

 最後に、これは聞いておかねばならんだろう。とギルド長はウサギに真剣な瞳を向けた。


「君は、転生者だね」


 ぴくん、ウサギの耳が確かに揺れた。

 しばし、その場で立ち止まるウサギ。

 まるで返答に困っているようにも見えるウサギだったが、考えをまとめたようで、『はい』に移動した。


「やはりそうか。大体意思を持った魔物は君みたいにギルドに登録しにくるんだよ」


 眼を見開くウサギにふーっと息を吐く。

 まさか自分が異世界転生者と出会うことになろうとは、ギルド長は奇跡的なこの邂逅に、やれやれと呟くのだった。

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