麗佳、どんな決着だったとしても生き残ってほしい
正直、もう戦争も終わったし、安心仕切っていた。
まさかライゼンさんがウサギにまだ戦闘を仕掛けるとは想定外だった。
最初は天幕に隠れてウサギたちに撃破されないようにと思ってたんだけど、ヘンドリックは坂上を倒しに行ってしまったし、なんかもう戦争って雰囲気でもない。
なのでスキルを無効化するために私を狙う必要はもうないだろう。
だから私は天幕を出た。
すると丁度ウサギにトドメを刺されそうになっていたライゼンさん。
思わず叫んだ。
「負けないで、貴方ぁッ!!」
「ぬ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
私の言葉を聞いた瞬間、ライゼンさんが超人的な動きでウサギの攻撃を回避する。
ほぼ確実に串刺し寸前だったのに、自身の槍を的確に使って槍衾を抜けていく。
正直傍から見てて理不尽だな。と思えるほどの超常現象を見せられた気分だ。
それにしても、なんで皆ライゼンさんのあの回避を見ずにこっちを二度見したの?
って、ちょっと? あんた敵じゃない、なに寄って来てんのよルルジョバ!?
「ちょ、今の、貴方って、どういうことデース!?」
「君、まさか、あの老人と、その、恋仲に!?」
「え? あ、うん? もう子供いるけど?」
「「な、ナンダッテーッ!!」」
ルルジョバとディアリオが揃って驚く。
え? もしかして知らなかった?
そういえば向こうのクラスメイトには誰にも言ってなかったっけ?
「えっと、私、ライゼンさんと結婚することにしたのよ。既に子供も居るし、ライゼンさんも了承させたし」
「あ、そこはライゼンさん強制的に頷かされたのネ」
「えへへ。なんか、この人は逃しちゃ駄目だって思えて、ね」
「そ、そう……まぁ、本人同士がいいならワタシからは何も言わないデース。しかし、老人と女子高生……そういうのもアリなんですねー」
「それでいいのか……」
ディアリオが呆れた顔をしているけど、私達がいいならいいのよ。
だって別にここは日本じゃないんだし、両親の許可とか必要無いし。
お爺ちゃんだろうがなんだろうが、惚れたなら物にするしかないじゃない。
「でも、いいんですか? ウサギとの決着、下手したら未亡人デース」
「……いいわけじゃないんだけど、ライゼンさんの目標だから。私としては夫の夢は応援したいものよ?」
「うわぁ、めっちゃくちゃキラキラしてる。ディアリオサン、この娘はもう手遅れデース」
「ああ、うん。お幸せに?」
なんか投げやりじゃ無い?
って、無駄話してたせいでいつの間にかライゼンさんとウサギが最終局面みたいになってる!?
「すごいデース。正直ウサギ相手にここまで食い下がれる人間がいることが驚きデス」
「ええ、ただのウサギじゃない。むしろ人間相手にここまで出来るウサギの方が凄くない?」
「いやいや、磁石寺は魔王やら世界の守護者龍と闘って勝ってますからね。そのウサギを相手にここまで善戦しているってことは、ライゼンさん。間違いなく人類最高峰だと思いマース」
「そ、そんなこと言われると照れる……」
「なんで貴女が照れ……ああ、そういうこと」
なんか凄く呆れた顔されたけど、仕方ないじゃない。夫が褒められて嬉しくない妻はいないのよ。
ふふ、なんか、この世界来てから最初は凄く辛かった記憶があるけど、ライゼンさんと会うための苦行だったと思えば、むしろ幸せな思い出に早変わりだ。
だから、ライゼンさん……
どんな決着だったとしてもいい。
負けたっていいの。
貴方が全力を出して闘って、満足してくれたなら。
だから、だからっ、この闘いが終わってからも、生き残って隣で笑っていてほしい。
私は両手を合わせ、祈るように目を閉じる。
別に最後の一撃を見たくないってことじゃない。
私が見てしまうと、ライゼンさんの集中を乱してしまうんじゃないかって思えたから。
だから、心配そうに見るんじゃなくて、勝利を願って祈りを捧げる。
多分、この世界の神には届かない。
だって神はウサギと知り合いらしいから。
だから今回の闘い、日和見してどちらかに肩入れしたりはしないはず。
祈りを捧げるのは本当に存在する神じゃ無い。
私が信じているどこかに居るかもしれない勝利の女神に祈るのだ。
きっと、ウサギの勝利を私みたいに祈ってる誰かもいるだろう。
もしかしたらウサギの勝利を願う人の方が多いかもしれない。
勝負はきっと一瞬だ。
次で決めると言ったなら、最大威力の一撃で相手を屠る筈。
だから、ライゼンさんの邪魔にならないように祈り続ける。
「行くぞ、うさしゃんっ!!」
―― 真っ二つになっても怨むなよッ!! ――
ああ、二人が最大の必殺を放ってしまう。
私は結果を見なきゃいけない。見届けなきゃ……どんな状況になったとしても……




