アーボ、奪われたスキル
正直、想定外だった。
自分は世界の守護者ヘリザレクシアをも倒した存在だ。
ただの人間相手ならさすがに負けることは無いだろう。
そう思っていた。
ピスカも来たし、次々と味方も現れた。
敵だった存在すらもあいつを倒すために共闘し始めた。
だから、早々に倒せると思っていたのだ。
正直、ヘリザレクシアを倒したことで彼、アーボは天狗になっていたと言っても良い。
あるいは、ウサギ相手でも自分なら勝てるのでは? と密かに思っていたことも認めよう。
ピスカとガチ戦闘をしてもいいところ行くんじゃないかとも思っていた。
でも、この男相手にピスカと協力してすら届かない。
一度はウサギと共に闘って、ピスカの参戦で倒した相手だ。
だからピスカと協力した今の自分であれば、充分勝てる筈だった。
結果を見れば、あらゆる攻撃が何故か避けられる。
必中スキルを使ってすら避けられ、ディアリオの加護を使っても避けられる。
なぜ? なぜ? なぜっ!?
さすがに焦る。
ここまで当たらないのは想定外だ。
ピスカを見る。彼女の攻撃もあまり当っていない。
特に必中属性を持つバックパックミサイルですらほぼ当たらないのだ。
さすがに焦る。
そして、そんな自分が思うのは、あのうさしゃんならば、勝てるのでは?
あの人さえいれば……
そして気付く。
どれ程強くなったとしても、つい、ウサギを頼ろうとしてしまう。
今、ウサギはライゼンさんとの一騎打ち。
こちらには来れないらしい。
一度、不意を打たれて死んだらしいが、それはヘンドリックが搦め手を使っただけの事。
それくらいなら自分だってウサギに勝てる。
でも、真正面から一対一での闘いとなれば。ウサギの多彩なスキルに翻弄され。自分が敗北する未来しか見えない。
そして、今、目の前に居るこの男もまた。多彩なスキルで自分たちを翻弄している。
奇しくも、ウサギと同じスタイルで闘うこいつに苦戦している。
既にヘンドリックたちも戦場に来ているし、彼の特殊な搦め手スキルも使おうとしているようだが、察知した坂上が速攻でヘンドリックを攻撃して意識を奪う。
ああ、やっぱり、そこまで強くない奴だった。
なんとか殺されることは避けたようだ。直前で郁乃という女が割り込んでいたので、アーボとピスカが坂上に追い付けた。
でも、決定的ダメージは未だに与えられていない。
このままじゃ駄目だ。
敵は味方が多いほどその能力を奪って際限なく強くなっていく。
自分も触れられればスキルを奪われてしまうのだ。
触れられずにこちらの攻撃を当てなければならない。
ピスカは何度か触れられていたが、彼女が無生物だからだろう。スキルを奪われることは無かった。最初は肝が冷える思いだった。何しろ彼女のスキルが奪われ弱体化すると思ったのだ。結果的には問題無かったからよかったが、もしも本当に奪われていれば、既に自分たちは敗北していただろう。
坂上が凄く面倒そうな顔をしてたのは記憶に新しい。
けど、自分は違う。
自分のスキルはかなり強力だ。特にディアリオの加護関連は奪われるとそれだけで詰む。
さすがに加護系スキルが奪われるとは思わないが、自分自身のスキルだって長年ウサギに並び立とうと必死で磨いて来たスキルだ。たった一瞬で奪われていいようなものではない。
まさに最悪の相性だ。
こんな奴はさっさと散ってくれた方がいい。
あ、でもうさしゃんは別、あの人は憧れなので。
アーボにとって似たような戦闘スタイルのうさしゃんではあるが、自分の憧れであり、目標である彼だけは別格の扱いであった。
とにかく、今は坂上をどうにかする術を模索中。
いや、唯一、方法はあると言えばあるのだ。
しかし、不思議だ。
透槍であるワールドエンドは透明な槍だ。
何処にあるかすら見えないはずなのだが、この坂上は普通に避けている。
一体何を見て避けているのだろう?
祈之槍効果もあるし、アボガード族の参戦数による強化もある。
なのに一撃すらも届かない。
一体どんなトリックを使ってるのだろうか?
一撃でも当たれば乾坤一擲を付与できるのだが、それすらも出来ていない。
この男にはダメージを当てるだけでも奇跡的な確率になるらしい。
「っ!」
あ、まず……
「オラァ。テメェの最大攻撃スキル、貰ったぜぇ!!」
ちょっとしたミスで体に触れられた。
正直想定外の一撃で、ふわっと触れられただけだ。
でも、あの一瞬でスキルが……奪われた!?
慌てて飛び退き、撤退。
ピスカに前線を任せて自分のスキルを確認する。
なんだ? 何が奪われた? 何が……あれ?
アーボは自分のスキルを確認して首をひねる。
自分が普段使いしているスキルは全部揃っている。
何かを奪われたらしいが、困るような物ではなかったようだ。
「くく、こりゃすごそうなスキル持ってんじゃねーか」
そんなスキル、まだあっただろうか?
「面白そうだなァ、この救世之一撃っつースキルはよぉ!!」
……ああっ。そう言えばそんなスキル持ってた!
ウサギからあまりに不穏だから使うんじゃねーぞって言われて以来すっかり忘れていたアーボであった。
 




