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S級冒険者、ウサギと闘う

「クロウさーん、お願いします」


「あん? また新人か。まー今日も暇だし良いけどよ」


 新規登録受付を行っている受付嬢がいつものようにやってくる。

 控室でボーっとしているだけの男の名は、クロウ。これでも一応世界に一握りしか居ない大英雄様である。

 で、あるのだが、残念ながらただいまニート生活を余儀なくされていた。

 と言うのも、実力があり過ぎて下手な依頼を受けれないのだ。下級冒険者たちの仕事が無くなってしまうからである。


 国から一生遊んで暮らせる資金が援助されており、働く必要が無くなっているのである。

 流石にニート生活で惰眠を貪ってるとダメ人間になりそうなので、一応の形として新人研修実技の試験官として冒険者ギルドに在籍している。


 本日は小用でここ、コーライ村にやって来て数日。帰り予定の日が雨だったせいで帰る気にならずそのままずるずるここに居るのだ。

 ちなみに、この村に辿りついたのはクロの襲撃があった後である。


 試験内容は簡単だ。新人冒険者がSランクに勝てるはずも無いので彼自身の目で見込みがあるか調べる為の試験である。新人ということもあり増長している鼻っ柱を折る役目もあったりする。

 なので、今まで誰も勝利出来た者はいない。

 彼が不在の場合は現在ギルド内に居る中で最もランクの高い者が選ばれるようになっている。


 受付嬢に案内されるように、彼女の背後を付いて行く。

 頭をぼりぼり、尻をぼりぼり。

 ニート生活が長いせいかついつい身体を掻くのが癖になりつつある。


「あー、眠ぃ。今度の奴はどうだぁ、骨はありそうかい?」


「骨かどうかはともかく驚くと思うわ」


「ほぅ、てぇこたぁ、それなりに骨がある感じか」


「いえ、むしろ……落胆するかも?」


 なんだそりゃ? と小首を傾げながら修練場へとやってくる。

 そこにはウサギを両手で抱えた女の子が立っていた。


「は、こりゃ可愛らしいお嬢さんだ。流石に手加減しねぇとやべぇな、出来れば泣かないでくれるとありがたいんだが」


「あ、いえ、対戦相手は彼女ではないです、既にサポーターとして登録されてます」


「あん?」


「今回の挑戦者は、ウサギです」


「ん?」


 気のせいだろうか? 今、挑戦者はウサギと聞こえたのだが。

 クロウは目を瞑り先程の言葉を脳内で確認する。

 うん、脳内フィルターで言葉が変化した可能性はゼロだ。


「もう一度言います。新人冒険者になりたい方は、あそこのウサギです」


「いやいやいやっ!? 魔物だろ。ありゃただのウサギだろ? え、冒険者!? なれんの!?」


 魔物が冒険者になったという話は何度か聞いた。でもそれは知能の高いオークジェネラルだったり、ホブゴブリンだったり、完全な四足歩行の魔物が冒険者になるなどという話は今回が初めてである。


「一応文字が書けるので知能はあるようです。筆記テストは満点でした」


「嘘だろ……」


 一般知識とか冒険者ギルドの規則が出題範囲だとはいえ、満点を取れるのは余程英才教育を受けて市政に詳しいごく一部の冒険者だけである。

 それをウサギが?

 にわかには信じられない。

 しかし、他者から齎された情報である以上本当だと思った方が良いだろう。

 そうなると、相手の実力もただのウサギと思わない方が良い。


「ではではダーリン、がんばって」


 女の子がウサギを地面に降ろし受付嬢のいる場所へとやってくる。

 どうやら見学に徹して手助けはしないらしい。


「あ、一応言っておきますけど、相手は子供よりも華奢なウサギですからね」


「分かってる。手加減スキルで何とかするさ」


 とはいうものの、クロウは四足でこちらを見つめるウサギを見る。

 これは闘いになるのだろうか?

 ただのウサギにしか見えないのだが。


「では、試合、開始!」


 だが、受付嬢により戦闘開始が宣言されてしまった。

 仕方無いので木剣を構える。

 最初に仕掛けたのはウサギだった。


 だっと走りだしたウサギに剣を構え腰を落とす。

 来るか? そう思ったクロウの剣が届かない場所で、ウサギは急に立ち止まる。

 なんだ? 訝しむクロウの目の前で、ウサギは右前足を左前足で隠し始めた。

 スキルか? じぃっと見つめ、相手の動向に注視する。


「なっ!? 親指が無いだと!?」


 思わず驚いた瞬間、ウサギは走る。

 はっと我に返った時にはウサギに親指があるかどうかなどどうでもよかったと気付く。

 その時には先程よりも二倍くらいの速さで迫るウサギ。既にクロウの真下に来ていた。


「まず……」


 身体が反応するより早く、ウサギ渾身のドロップキックが急所に直撃した。


「おっふっ!?」


 クリティカルヒット、渾身の一撃、金的。いくつもの言葉の羅列がクロウの脳裏を駆け廻る。

 思わず股間を押さえて蹲る彼の顎に、すこーんと棍棒が直撃。

 丁度顎を下げた瞬間を狙われたため、相乗効果でこれもまたクリティカルヒット。

 幾らS級ハンターといえどもこの連撃を喰らっては男として立ち上がることは出来なかった。


 ズダン、と背中から倒れて股間を押さえながらのたうちまわる。

 ウサギさん、増長していたS級冒険者秒殺の図、であった。

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