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兎月、そろそろ終わるんじゃなかったの?

「ワタシに会えなくなっても、いいの?」


「やだぁ」


 泣きながらイルラに縋りつく郁乃。

 襲撃の心配は無くなったみたいだけど、郁乃が本当に攻撃してこないかは信用できないのでまだ目を放せられない。

 御蔭で私の目の前で展開しているガールズラヴっぽい何かを延々見させられている。

 ……なんだこれ?


「汚れたワタシだよ? 抱きしめてくれる?」


「しめるぅ」


 泣きながらオウム返しに告げる郁乃、なんかもうイルラに言われるがままだ。

 ひよこか何かかな?

 インプリンティング済みの親にまとわりつく感じの。


「ん? なっ!?」


 思わずほんわかした気持ちになってたら、遠くの方で空気が震える程の光が迸る。

 思わず見上げたその先で、人型の何かがゆっくりと降下して行くのが見えた。

 今のは、ピスカさんか?


 なんでまた戦場に?

 彼女が闘ってた人型もドクターとかいうのもラビット・ネストに回収したんじゃなかったっけ?

 まだ彼女が戦場に出なきゃいけない程の強敵が?


 ―― あー、テステス、ラビット・ネスト全メンバーに告げる ――


 ウサギ!?


 ―― 只今北側の戦場より連絡が入った。しかし、俺はライゼンじいちゃんとの闘いでそっちに向かえない。だから、頼む。ピスカとアーボを助けてくれ ――


 ……は?

 え?

 ちょ、ちょっと? え? アーボと、ピスカを、助ける?


 あ、あの二人って、確かこっちの最高戦力じゃなかったけ?

 ね、ねぇ? ウサギ?

 ど、どういう……


 ―― ラビット・ネストより総員へ連絡。只今アーボとピスカさん共同で戦闘中の坂上博樹がエイシェントドラゴン、深淵のオクトパス、ヘリザレクシアの能力を全て盗み自身を強化。二人だけでは手が付けられない状態です。それと、近づき過ぎるとスキルを盗む、というスキルでこちらのスキルが奪われますっ ――


 なによそのチートスキルは!?

 って、確かウサギが坂上に使ったスキルじゃなかった!?

 あの馬鹿、敵に塩送ってんじゃないわよ!!


「イルラちゃん……」


「なに、郁乃ちゃん?」


「イルラちゃんを死なせたく無くなった、だから、行くよ、私」


「え?」


「坂上博樹、止めなきゃ。あいつを野放しにしたら、イルラちゃんが死んじゃう。消えてなくなっちゃう。だから……殺して来る」


「郁乃ちゃんっ!?」


 えぇ!?

 どういう思考回路に行きついたのよアイツ!?

 置いて行かれたイルラが困った顔で視線を彷徨わせ、私に視線を向ける。


「お願い、兎月さん」


「でしょうね……ったく、正義の味方も楽じゃないわ」


「それ、もう辞めたらどうです?」


「それもそうね。私、正義の味方向いてないのかも。ま、でも……今は、皆の味方よね」


 んじゃ、行きますか。


「あの、ね。兎月さん。多分、もう答えは見付けてると思うけど……もしも迷ったら、目を閉じて心の声に従ってみて? きっと。それが貴女の本当の想いだから」


「んん? まぁ、よくわかんないけど、心に留めておくわ」


 イルラはここで戦闘からは抜けるようだ、おそらくラビット・ネストに戻るのだろう。

 彼女は戦闘向きじゃないから坂上相手は難しいんだろうね。

 しかし、さっきまで闘ってた郁乃と共闘になるのか……なんかちょっと複雑ね。


「ちょっと郁乃、あんた闘うのは良いけど、寝返ることになるのよ? いいの?」


「もともとイルラちゃんを転生させようとだけ思ってたから。その理由が無くなったらヘンドリック達に未練は無いよ? イルラちゃんは穢されても気高く美しいイルラちゃんだったんだよ。

ああ、ごめんねイルラちゃん。私間違ってた。イルラちゃんはずっとイルラちゃんだったんだよ、私にとって眩しくて綺麗で永遠に変わらない、ああ、イルラ様ぁ」


 駄目だこの娘。

 結局、イルラを殺すことは止めたみたいだけど、完全にストーカーか狂信者の目になってる。

 イルラの奴、本当にこいつ放置してよかったのか? なんかイルラのためなら誰でも率先して殺すキラーマシーンが出来た気がするんだけど?


 ま、まぁイルラなら大丈夫、か?

 あの子殆ど自分の意思示そうとはしないし、基本瞑想してるから……だから、こいつが暴走した時止めれないのでは?


「あー、郁乃?」


「何よ。今からは共闘だからそんなに警戒しなくても後ろから刺したりしないよ?」


「いや、そうじゃなくてさ。今度から人殺そうとか思い立ったら、イルラか私にまず報告してね。私は絶対止めるから」


「止められるの分かってるのに報告してどうすんの? お馬鹿だねぇ兎月さんは。まぁ、イルラちゃんには報告するよ、止められたら理由を話して納得して貰って許可されたら殺す。それでいい?」


 一応、私の心配は気付いていたか。


「私は結局、人を殺す事に躊躇いはないんだ。だから、きっとイルラちゃんが私のストッパーを担ってくれてるんだよ。今回も、自分の想いのままイルラちゃんを殺してたら、私きっと後悔してる。転生して、別の存在になって、イルラちゃんの思考を持ってても、それはイルラちゃんであってイルラちゃんじゃないし、私に殺された記憶はきっと、イルラちゃんと私を遠ざける。だから、我慢する」


 我慢かよ!? 納得したんじゃないのかよ!?


「だって、私狂ってるらしいもの。イルラちゃんをイルラちゃんのままでいさせるって思っても、やっぱり殺して身綺麗にしたい。ウサギから遠ざけたいって気持ちは消えないからね」


 そう言って、狂気に染まった瞳で微笑む。彼女は結局、説得されても壊れたままらしい。

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