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イルラ、貴女は間違っている

「さて……どう割って入ろう」


 ワタシは目の前で激闘を繰り広げる兎月さんと郁乃ちゃんの闘いに、どう声を掛けるべきかと困惑中。

 ついさっき稲葉さんと沙希さんが唐突に視界の隅から消失してしまったけど、あの二人どこいったんだろうね?

 よし、覚悟決めた。死なない事を祈ろう。


「郁乃ちゃんッ!」


「っ!?」


「ちょ、なんで近づいてんの!? 危ないわよイルラ!!」


「イルラちゃんっ! 死にに来てくれたの!」


「郁乃ちゃん。話を聞い……っ!!」


 危ない。兎月さんを押しのけて突撃して来た郁乃ちゃんが心臓狙って刺突してきた。

 ぎりぎり躱したけど、話、やっぱり聞いてくれそうにない。

 だから、戦闘に参加しながら説得するしかない。


「仏神、降臨ッ」


 仏や神と名前に付いてるけど、実際に降りて来るのはこの世界で既に死んだ英霊か何からしい。

 彼らの戦闘スキルを自分に宿して自由に使用できるだけだ。

 そこまで奇跡的なスキルと言う訳じゃない。

 それでも、何度も使っていた御蔭かかなり高位の英霊を長時間降ろすこともできるようになった。

 やはり瞑想とトライ&エラーは毎日やっとくべきである。


 迫るナイフを流れるような手さばきでいなしていく。

 正直少しでも刃先との角度を間違えば指が落ちる程の危険な動き、でも、失敗などする訳が無いとワタシに宿る英霊が告げる。

 彼の自信に任せ、ワタシは郁乃ちゃんの説得を開始する。


 説得、と言っても郁乃ちゃんの目的を無駄だと告げるだけなんだけど。

 下手な言い訳とか廻りくどく言っても分かんないだろう。

 ここはもう直接告げるしかないだろう。


「郁乃ちゃん、ワタシを殺しても転生はしないよ」

 

「はぁ? 何言ってるのイルラちゃん。ちゃんとイルラちゃんを探すよ? ホントだよ?」


「今、ジョゼさんがスキルを使ってるわ。この地域一帯全てに。転生不可のフィールドトラップ」


「……え?」


 ようやく、止まった。

 正直ぎりぎりだった。

 英霊の能力を持ってしても郁乃ちゃんの動きを追い切れなくなりつつあったのだ。

 これはワタシの身体が英霊の動きに付いていけてないのが理由である。

 なので、後少し遅れれば指が飛び、手が飛び腕が飛んでいた可能性だってあったのだ。


「どういう、こと?」


「この戦場では死んだらそこで終わり。転生しないの。だからここでワタシを殺しても、次に産まれるのは記憶も何もかも無くした新しい存在。ワタシだった痕跡は……多分固有スキルだけでしょうね」


「そ、そんな……それじゃ……」


「そう、それはもうワタシじゃない。生まれ変われるけど貴女の求める新しいワタシではないわ」


 からん、とナイフが落下する。

 郁乃ちゃんの目的はワタシを殺して転生させる。

 つまり、ワタシの意識が次の命に受け継がれないと意味が無いということだ。


「この戦争の間だけは、ワタシを殺す理由がないんだよ、郁乃ちゃん」


「そ、そんなこと、試してみないと分からない……じゃ……」


「じゃあ、ワタシを殺す? 殺してみる? もう二度と会えなくなるけど、それでいい? 後悔しない?」


 あえて手を広げて胸を突き出すように向けてみる。

 心臓はここよ。と主張するように待ってみる。

 戸惑う彼女は攻撃など出来ずにただただワタシを見つめるだけだ。


「郁乃ちゃん。ちゃんと、話をしよう? 郁乃ちゃんの想いは分かるよ。でもワタシもワタシの意思があるの。郁乃ちゃんのオモチャじゃないんだよ?」


「お、オモチャだなんて、私そんなこと思ってないっ」


「でも、私の意思なんて関係無しに、殺して転生させるんでしょ? 郁乃ちゃんにとっては私は新品のオモチャでしかないんだよ。だから、中古のオモチャになったから壊して新しいのを買って貰うの。そういうことだよ? 郁乃ちゃんがしようとしてること」


「違、私、私は……」


「違わないよ。郁乃ちゃんはそういう思考なんでしょう? 自分で言ったじゃない?」


「で、でも、私はっ、私はただ、綺麗なイルラちゃんと……」


「ワタシはワタシだよ。綺麗だろうと汚かろうと、ワタシはワタシ。ねぇ、郁乃ちゃん。汚いワタシは嫌い? どうして駄目なの? ずっと綺麗じゃなきゃ貴女の隣には居られないの?」


「だ、だって、だって、私は、綺麗なイルラちゃんが好きで、だから、ずっと綺麗でいてほしくて……わた……私は……」


 ワタシを殺そうとして、でも今殺せば理想の私にならないと知って。

 何も出来ずに汚いと告げたワタシが近づくのをただ見てるだけ。

 だから難なく抱きしめられる。


「ワタシを見て。汚い? 汚い私は触れてほしくない?」


「そ、それは……ああ、嫌、じゃ、ないよぅ、イルラちゃん、私、私ぃっ」


 ワタシと郁乃ちゃんの友情は、そんなに簡単に壊れるものだった?

 違うよね? 郁乃ちゃんはワタシが啓太君の彼女になったのが許せなかっただけでしょう?

 それを、勘違いしちゃった、ううん、確かにシリアルキラーな精神だったのかもしれないけど、でも……


「ワタシは、死にたくないなぁ。この体のままで、郁乃ちゃんと楽しく過ごしたい。そんな思いは、抱いちゃ駄目、かな?」


「ああ……駄目だよぉ、そんなこと、言われちゃったら、私、殺せなくなる……」


 いいんだよ。殺せなくて。

 郁乃ちゃんは声を上げて泣き出した。

 きっと、何をすればいいのか、もうなにも分からなくて、縋りつく子供みたいに救いを求めてるんだろう。だから、救おう。

 迷える子羊よ、縋りなさい。貴女の御仏の心のままに。

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