カルセット、あっ……
やったーっ!
シュリックさんが倒れた。
姉さんの勝利だ。
さすが姉さん。そこに痺れる憧れるっ。
それにしても結構時間掛かったな。
はらはらドキドキで緊張してたせいで解放された今は爽快極まりない。
とはいえ、喜び過ぎる事も出来ない。
何しろガロワさんとチェルロさんとの闘いは、徐々にチェルロさんが押され始めていた。
地力が違い過ぎるようだ。
細腕のチェルロさんに絶え間なく降り降ろされる斧の群れ。
防戦一方のチェルロさんに、遠慮なく連撃が襲いかかるので、チェルロさんが焦り始めていた。
最初こそ、圧倒出来てるんじゃ? という立ち回りだったんだけど、ガロワさんの動きに翻弄され始め、徐々にガロワさんがチェルロさんの動きに合わせ始めて来たのだ。
どうやらチェルロさんの動きに戦闘中に慣れて来たらしい。
A級冒険者って無茶苦茶だな。
そんなA級も敵わないS級冒険者とか、相対したくもない実力者だ。
この戦場にはさらに強い守護者っていう魔物達もうじゃうじゃいるけども、そっちは魔物同士でやってくれてるみたいだし、こっちは……あっ。
シュリックさんが倒れて貞操の危機が無くなった。だから思わず万歳三唱していた。
そしたら、思わずあっ、ってなった。
正確に言えば、剣持ったままばんざーい、ばんざーい、ばんざ……あっ。
と言った感じで剣がすっぽ抜けた。
すっぽ抜けた剣はガロワさんのお尻に突き刺さった。
丁度チェルロさんの攻撃に対処しようとした矢先の真後ろからの奇襲攻撃。
痛ってぇ!? と叫んだ彼は好機とみたチェルロさんに攻められ一気に形勢逆転。
なんとか踏ん張ろうにもお尻に剣が刺さってるせいで痛みに呻き、上手く踏ん張れない。
結果、どんどん旗色が悪くなる。
あの、えっと……
ごめんなさい。
あ、でもでも、一応敵対してる訳だし、謝る必要は……
「テメェかカルセットォォォッ!!」
「ひぇぇ!? ご、御免なさい、すっぽ抜けましたッ!」
「ふざけんなテメェ、あ、ちょ、チェルロさん、待って。痛いから、今めっちゃくちゃ痛いからっ。ああもう、分かった、分かったッ! 負けた。俺の負けだ。お願いだから剣取って!」
そのまま自分から敗北宣言。
えーっと、勝った?
「納得いきませんが、正直助かりました」
チェルロさんが刺さってた剣を抜いてあげると、ガロワさんは大きく溜息吐いて、その場にどかっと座り込……んだらお尻に痛みが走ったらしく飛び上がって四つん這いに倒れ込む。
お尻を上に向けた状態で情けなく地面に伏した。
「くっそ痛ぇ……」
「怨むならそこのカルセットさんにお願いしますね」
「お前、覚えとけよ、シュリックの嫁にしてやるからなっ」
やめてくださいっ!?
ほんと、ワザとじゃないんですっ。
「殺気の一つも感じなかったからそのくらいは分かるァ! ああクソ、こんなしょーもねぇことで負けるとは。チェルロ、俺はあのまま続けてりゃお前さんに勝てたんだ。これはカルセットの馬鹿がやらかしたせいだからな」
「ええ、ええ。理解しておりますとも」
「くっそ、もうちょっとで慣れるとこだったのによぉ。カルセット、お前本気で張っ倒してやるからな」
「ワザとじゃないのに……」
「あのままだとチェルロさん負けてたかもだから、結果的にはよくやったわカルセット。でもご愁傷様」
「えぇぇ。なんでご愁傷様?」
「だって、シュリックさん、生きてるからまたアプローチしてくるよ?」
「ああ。私はまだ諦めたわけじゃない。友人から始めようじゃないか、我が愛!」
「いぃやぁぁぁっ!?」
今はガス欠のようで、まだ立ち上がりすらしていないシュリックさん。このまま体力が戻れば、襲いかかって来る可能性がある。
あ、あの、ジョゼさん、僕をラビットネストに匿って!
割りと切実にっ!
おわっと、戻るのは一瞬か。
速すぎるよジョゼさん……
って、なんでシュリックさんまでここに居るのっ!?
あ。これ絶対遊ばれてるっ!?
「ちょっとジョゼさんっ。中央広場に戻すの僕だけで良いんですよ? シュリックさんは……」
「なる、ほど。つまり。やるしか、ない訳か」
僕の背後で、何かが立ち上がった。
あ。あれあれぇ? なんで立ち上がってるのかなぁシュリックさん?
「アレだけ休ませて貰えば充分動ける。鎧など不要。この身一つあればいい。そうだろう? カルセット」
「ぎゃあぁぁ!? なんで全裸になってんですかっ!?」
多分、シュリックさんを見た僕は劇画タッチに驚いていたと思う。
それくらい衝撃的だった。
なんでこの人全裸で近づいてくるの!?
ちょっと、ジョゼさん、洒落にならないよっ!?
ア゛――――ッてなちゃうよ!?
―― 御免なさいね、意外と楽しそうだったから、責任取ってシュリックさんは服着せて戻しておくわ ――
走りだしたシュリックさんが消える。
あ、危なっ、怖っ、もうやだ、僕引き籠るっ。
 




