天音、海からの来訪者
槍を構え、投擲。
マージェスが少しだけ傷付く。
でも傷付いた傍から高速再生して元通り。
落下した槍はアトエルトさんが有効利用。
投げれば投げる程前線のアトエルトたちの装備が充実するので死ににくく……はなってないな。防御力が無さ過ぎるせいで一撃で数人単位でアトエルトが死んでいく。
このままだとその内アトエルトの増殖力を上回ってしまうんじゃないかと不安にすら思えて来る。
そもそもアトエルトの死骸が積み重なるせいで病原体のスペースも爆上がり。
このままだと近いうちに周囲に病原体が撒き散らされる。
アトエルトさん、あの遺体、消えないんですか!?
「私自身が死んだ訳じゃないからねぇ……消えたのみたことないな」
雑に邪魔っ!?
誰か全部焼き払ってくれないかな?
―― 焼き払えば、いいのだな? ――
……ん?
あれ? 今誰か何か言った?
「あ、なんかヤバい気がする。天音距離取るよ!」
「え?」
なぜか小脇に抱えられた私は美与により拉致されるようにその場から遠ざかる。
一瞬遅れ、どこか遠くから光が走った。
赤い稲光のような光線は、マージェスを飲み込み、アトエルトの死骸を飲み込み、数多くのアトエルトを飲み込んだ。
そして……
光が消え去った後に残っていたのは、ぶすぶすと焦げた音を出す、ガラス化した大地だけだった。
あ、あの、アトエルトさん、あそこに居たアトエルトさんたちは……
「死んだよ。私の感覚器から一瞬でごっそり消え去った。なんだねあの光線?」
―― むぅ、加減が難しいな。遠距離への破壊光線は照準が付けにくいようだ。死んではないか小娘たちよ ――
「え? あ、はい?」
「ちょっとアンタ! もう少しで天音が死んでたかもしれないじゃない! 姿くらい見せたらどうなのよ!!」
―― 今向かっている。なにぶん地上は久々なのでな。山など踏み越えるのが面倒なのだ ――
踏み……越える?
疑問に思った次の瞬間、ズシン、ズシンとやって来る巨大な何かが山の上側に顔を出す。
徐々にせり上がって行く巨大な生物の姿……ゴジ○? ゴ○ラがいるわっ! 美与。実写版○ジラよ!!
「さ、さすがにこれは、想定外……恐竜の魔物なんてのも居るのね」
あ、そっか。これは突然変異のトカゲじゃなくて巨大な恐竜だったのか。
魔物化した水棲恐竜か何かだったのね。
―― ウサギ側として助っ人に来た。海の守護者の一人だ。詫びも兼ねて私はお前達の指揮下に入ろう。何処を破壊すればいい? ――
え? 私達の指揮下!? ちょっと無理、要らない。火力強過ぎて持て余すよ!?
一息でマージェスさんもアトエルトさん数百人も纏めて消失させるとか、意味不明過ぎるよ。
「お、どうやら各地で海からの助っ人が参戦し始めたようですね」
「アトエルトさん? 海って、どういう事?」
「文字通り、海の守護者ですね。わざわざ上陸して助っ人に来て下さったようです」
いや、アレが海泳いでるとか軽く悪夢である。
え? 棲んでるの? マ?
「でも、凄いわね。あんなバケモノがまだ存在してたのね」
「しかも深海に。海って未知が一杯ね」
「まぁ、人間が深海なんてまず行きませんからねぇ。良く仲間に出来ましたねウサギ君たちは」
心底敵対しなくて良かった。そんな事を呟くアトエルト。
尋ねたところ、病原体に掛かったアトエルトは感覚的にもう全員消失しているとのこと。
マージェスも消失したと思ってよさそうだ。
と言うか、探す所もないので、見渡す限り焼け野原になった広場を見回す。
マージェスなど欠片すら見当たらない。完全消失してしまったようだ。
もちろん、彼が持っていた病原菌も全て消失済みである。
んで、そんな事をやってのけた大怪獣様が私達の指揮下に入った、と。
つまり、これから彼が口を開いて怪光線吐きだすのは、全て私達の指示の元、ということだ。
これだけの一撃をどっかの誰かに叩き込め、と。
その責任を私達が持て、と。
一国丸ごと消し飛ばしかねない一撃を私の指示で放て、と?
「無理」
「うん。無理ねぇ。さすがに手に余るでしょ。ユーリンデさん、聞こえる?」
―― はい、なんでしょう? ――
「なんかゴジ……じゃない、海の守護者さんが指揮下に入るって言って来たんだけど、マージェスさん消失したから私達手持ちぶたさで、この守護者さんへの指示だし、お任せします」
―― 了解、ジョゼさんが指示出すことにするわ。お二人はお疲れ様。ラビットネストに戻って待機していらして。戦争の勝敗も決まったみたいだし ――
「え? じゃあヘンドリック、死んだの?」
―― それが……夫の方が死んだらしいわ ――
「ん? え? で、でも、それだったらなんでユーリンデさん落ち着いて?」
―― だって、その報告して来たのが……夫なので ――
……どゆこと?




