天音、美与は、守らなきゃ
な、なんだあれ……
マージェスさんがなんか凄く強化された。
ムキムキだ。ポージングとか取れちゃう、というか、首、どこいった?
筋肉にめり込んで首が見えなくなってる。
涎垂らして血走った眼でアトエルトさん達みてると、イケナイ扉開いちゃったんじゃないかと錯覚しそうになる。
実際はそんなことないらしく、雄叫び上げながら両手を前に垂らしながら走りだすマージェス。
アトエルトの一団に接敵した瞬間、掬いあげるような一撃。
アトエルト三人が宙を舞った。ウチ一人は上半身だけ飛んでった。
「うわ、筋力ヤバっ」
美与のスキルである癒し空間とか言うのは、多分だけど美与の周囲に対して効果が表れるスキルだろう。
だから病気とかには問題なく発揮されたみたいだけど、あのマージェスさんの一撃をどうにか出来るとは思えない。
つまり、そこに居るのはか弱い女子高生だ。
だったら、守らないと。
一応、美与と私を比べれば、七色之槍を装備した私の方が強いだろう。
だから、私は美与の前に出る。
「だ、駄目よ天音、あんなのの前に出ちゃダメ!」
なのに私が前に出ると美与が慌てて私の前に出る。
いや、なんで?
「どっかで見たことあると思えば、それ、ウサギ君とアーボ君がやってるコントだよ?」
ぐふっ!?
ち、違うの! コントしてる訳じゃないの。私は前に出て美与を守ろうって。
「どっちも下がっててください。その勢いでそれ以上前に出られると守り切れません」
やんわりと戦力外通告されたので、二人揃ってしゅんとしながら下がる。
すると、既に後ろに待機していたアトエルトさんがこの辺りまで来てください。と言って来た。
うん、前にもアトエルト、後ろにもアトエルト。
気付けば周りはアトエルト……悪夢かな?
でも、御蔭でマージェスの攻撃はこちらに届かない。
アトエルトの群れがマージェスを封じ込めるように次々と犠牲になりながら突撃して行くからだ。
死ぬ先からどんどん増えていくアトエルト。
その増加速度は今の所死んでいくアトエルトの倍ぐらい。
つまり、このままいけば相手の体力が先に尽きてアトエルトが勝利出来る筈だ。
けど、相手はマージェス。病原体に関してはスペシャリストだ。
そんな相手がただ筋力強化されるだけの状態になる訳が無い。
拳を振るわれながらも生還したアトエルトが突如、全身から血を噴き出して死に絶える。
すると、その血が掛かったアトエルトもまた、しばらくした後血を噴き出して倒れだした。
あの血、病原体が紛れ込んでる!?
「天音、絶対に私から離れないで!」
残念だけど美与の方がああいう未知の病原体を無効化する手段は数段上か。
なら、私はアトエルトたちの感染を減らすことを考えよう。
アトエルトに告げてフィールドを凍て付かせていく。
私のスキル、使い勝手が悪いからあんまり育ててないんだよね。
育て切れてれば私のスキルも美与みたいに役立てたのかな?
今更言っても意味の無いことだけど。
よし、今のうちにあのマージェスに付いて考察しよう。
なんとか倒せないと被害が拡大しかねない。
折角相手を追い詰めることには成功したんだ。ここで敗北など、あるいは病気の蔓延などさせる訳には行かない。
それにしても、アトエルトさん、弱くない?
なんか凄い数殺されていってる気がするんだけど?
「気がするんじゃなく実際に死にすぎですね。予想以上の腕力と、接触時に自動で感染する接触感染型ウイルスのようで、しかも感染者に触れると再感染します」
「うわ、めんどくさい」
「とにかく、下手に近づくのは悪手ですね。マージェスの意識が無いのが救いでしょうか。あの狡猾な思考回路が無ければただの暴れるボディビルダーに過ぎません」
「いや、暴れるボディービルダーって……」
「とにかく、二人は下手に近づかないように」
それはいいけど、このままだと力尽きるまで暴れまくりそうだ。
その間にどれ程のアトエルトが死滅することか。
そして、アトエルトの飛びどころによっては周辺に感染するウイルスが野に放たれることになる。
うん、やっぱり、早急に決着を付けるべきだ。
私は槍を構える。
ストックはそれなりにある。
だから遠慮はいらない。
背後に居るアトエルトに気を取られて私達から視線を外した瞬間、私は槍を投擲。
意図を察した美与もまた、投げるモノが無いかと周囲を確認。アトエルトしかなかったようで、諦めたようだ。
さすがにアトエルトさんを投げつけるような非人道的な攻撃はしないらしい。
あ、はずれた。
と、思ったけどアトエルトさんが拾って有効活用。
うん、これなら投げるの失敗しても大丈夫そうだ。
遠慮なく投擲しよう。




